2014年から2015年にかけて、中国人観光客が日本、特に東京などに押し掛けた。多くの訪日中国人観光客のお目当ては、家電製品や化粧品、そして薬品。それらを大量に買い込む中国人観光客の行動は、“爆買い”と称されて、一時的に日本経済を刺激した。

その後、中国ではインターネットによる取引が急拡大し、目に見える形での“爆買い”は鳴りを潜めた。かつて、大きな荷物を手に下げて銀座や渋谷を闊歩していた中国人観光客は姿を消し、ネットで買い物を楽しむようになった。

「コト消費」の嘘
著者:川上徹也
出版社:角川新書
発売日:2017年11月10日

「コト消費」という流れに警鐘を鳴らす

コト消費
(画像=Webサイトより)

国境をも簡単に越えるネットによる買い物は、越境ECと呼ばれる。越境ECの便利さを知った中国人は、わざわざ日本に足を運ぶことなく、日本製品を購入する。訪日中国人観光客が減少しても、越境ECによって日本製品の売り上げが以前と変わらなければ日本メーカーは安泰といえる。

しかし、中国人観光客を含め、訪日外国人観光客が減少することに頭を悩ませているのが宿泊・交通などをはじめとする観光産業だ。 観光産業は、お金を落とす観光客が現地まで足を運んでもらわなければ売上を計上できない。

モノはインターネットでも販売できるが、観光で得られる体験を売ることはできないのだ。そうした事態に直面し、観光業界はモノを売ることから体験、つまりコトを売ることに軸足を移さなければならなかった。

こうした業界の変化は、「モノ消費」から「コト消費」というキャッチフレーズで表された。モノ消費よりも「コト消費」の方が元手を必要とせず、利益率が高い。

そうした業界の事情と観光立国を目指す政府の思惑が一致し、日本全体が「モノ消費」から「コト消費」へといったムードになりつつある。

そんな安易な「モノ消費」から「コト消費」という流れに警鐘を鳴らすのが、本書の著者だ。著者は、大手広告代理店を経て独立したコピーライターという経歴の持ち主。それまで、どうやってモノを売るかを腐心してきた人物でもある。いわば、「モノ消費」のプロだった著者が、数年前から「モノ消費」に懐疑的になっていた。

「コト消費」はまったく成功していない