損をしない投資の原則は「長期・積立・分散」

山田真哉,つみたてNISA,お金の常識
(画像=The 21 online)

2014年、鳴り物入りで始まった「NISA(少額投資非課税制度)」をベースにして、来年より新しく始まる「つみたてNISA」。長期的な投資を目的とした本制度はどのように成立したのか、その背景と初心者にお勧めのポイントを、『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』の著者である、公認会計士・山田真哉氏にうかがった。

貯蓄好きな日本人が投資好きになる!?

皆さんは「お金」をどのような形で持っていますか? 日本における個人資産の5割以上は、「現金・預金」で保有されているのが現状で、その総額は938兆円にも上ります。

しかし、超低金利時代の今、銀行にお金を預けていても、ほとんど利息がつかないのはご存じのとおり。実は、この眠ったお金が日本の景気を停滞させている要因の一つでもあるのです。そこで、日本経済を活性化すべく、金融庁は「貯蓄から投資へ」をスローガンに、預金から市場へのお金の流れを促す施策を講じてきました。その嚆矢(こうし)とされたのが、2014年に始まった「NISA(ニーサ/少額投資非課税制度)」だったのです。 

NISAは、年間最大120万円までの投資で得た値上がり益や配当・分配金を5年間にわたって非課税にする税の優遇制度。本来、投資から得た利益の約20%が税金として徴収されるところを非課税とすることで、投資へのハードルや負担をぐっと下げたのです。

ちなみに、日本人は貯蓄好きとして知られますが、もともとはコツコツと貯蓄をする国民性とは言えませんでした。

たとえば、江戸時代の庶民には「宵越しの金は持たない」という風潮があり、幕府からは倹約令がたびたび出されていました。そして戦後は、国民の貯蓄意識を高めるべく道徳の授業で貯蓄を教えたり、「こども郵便局」という子供がお金を預ける機関まで作られました。

さらに、1963年には「マル優」と呼ばれる「少額貯蓄非課税制度」が始まります。これは「350万円までの貯蓄は、その利息に税金はかけない」という貯蓄の非課税制度。この制度が功を奏して国民のお金が銀行に集まり、それが企業への融資となり、経済成長の一助となったのです。つまり、戦後の高度経済成長は、日本人を「貯蓄好き」に改造したことで実現したとも言えるのです。

しかし現在、企業へのお金の流れは、銀行融資という間接金融から株式市場を経由した直接金融へと移行しています。そして、バブル崩壊後、外資によるM&Aが増え、国の基幹企業までもが外資の傘下になる恐れも出てきました。こうした時代の変化に合わせて、金融庁は「貯蓄から投資へ」と方向転換し、個人株主を増やすべく対策を講じたのです。

つまり、NISAは貯蓄好きの国民を「投資好き」に生まれ変わらせるために作られたもの。投資でありながら安定的に資産運用ができるように設計されていて、「投資に興味はあるが、踏み出せない」という投資初心者が始めるにはよくできた制度です。では、その理由を次から説明していきましょう。

世界経済の成長に合わせ投資をしよう

多くの日本人が投資に踏み切れない理由の一つは、「でも、投資って損することもあるんでしょう」という漠然とした不安です。しかし、むやみにリスクを恐れる必要はありません。人類は長い投資の歴史の中で、損をする確率をかぎりなくゼロに近づける手法を生み出してきたのです。それが「長期・積立・分散」という投資手法です。

利益重視型の投資は「安いときに買って、高いときに売る」が基本ですが、この方法は儲かるか損するか、一か八かの勝負ともいえます。しかし、「長い期間を通じて(長期)、少しずつコツコツと(積立)、いろいろな対象に(分散)投資する」手法だと全体が均ならされるので、一時的な上下を繰り返しながらも、経済の成長に合わせ、全体的にはゆるやかな上昇をしていくことになり、最終的には利益を得られるのです。

なお、世界経済は人類の進歩に即し、通常、毎年3%前後ずつ成長するという実績があります。この実績に従って「長期・積立・分散」投資をすれば、基本的にはマイナスになる可能性はかなり小さくなります。

NISAは、この「長期・積立・分散」に則って考えられた制度でしたが、非課税期間が5年間だったり、投資方法が積立でも一点買いでも選べたりということもあって、「長期・積立・分散」のメリットを発揮しきれなかった。その結果、開設されたNISA口座の約半分の500万口座しか実際に運用されず、あまり初心者に普及しなかったのです。

そこで、より「長期・積立・分散」にフォーカスをした制度として、「つみたてNISA」が作られ、2018年1月よりスタートすることになりました。

現行のNISAでは5年間だった非課税期間を、つみたてNISAでは20年間の長期とし、投資方法を積立に限定しました。そして、対象商品を投資信託に絞ることで、分散投資を制度としてしっかり組み込み、大きな資金のない若手から中堅世代も少額から投資を続けられる仕組みを整えたのです。

さらに投資のコストとして意外と軽視できない販売手数料をゼロとし、毎年発生する信託報酬に上限を設けることで、低コストまでも実現しました。

対象となる商品は現在、届け出ベースで114銘柄(2017年10月13日時点)。投資銘柄は大きく分けて、日経225、TOPIXなどの指数に連動する「インデックス型」、成長企業に投資して平均を上回るリターンを目指す「アクティブ型」があります。アクティブ型は、信託報酬は高いのですが、そのぶんリスクも高いので、初心者には「インデックス型」がお勧め。なお、世界経済は3%ずつ成長しているという実績を考えると、世界経済と連動した海外型を含む商品がよいでしょう。

さらに初心者にお勧めのポイントは、「天引き」されるということ。つみたてNISA口座を作り投資をスタートさせれば、毎月決まった日に決まった額だけ自動的に引き落とされ、あとはほったらかしでOK。定期的にコツコツ積み立てられる「つみたてNISA」は投資でありながら、最強の貯蓄手法を含んでいます。貯蓄を得意とする日本人には、始めやすい投資の第一歩と言えそうです。

若いうちから始めたい! 非課税となる二大制度

ちなみに、「つみたてNISA」と並んで、比較的安全かつ確実な投資として、今年一月からほぼすべての人が加入できるようになった個人型確定拠出年金「iDeCo(イデコ)」があります。

これは公的年金に上乗せして、自分で将来の年金資金を作っていく私的年金制度。つみたてNISAと同じように、運用益が非課税になる投資制度ですが、大きく異なるのは、つみたてNISAは金融庁が景気対策として主導しているのに対し、iDeCoは厚生労働省が年金対策として作った制度ということ。ですから、iDeCoは原則60歳まで引き出すことができません。一方、つみたてNISAは景気対策ということもあり、資金の引き出しは可能です。

つみたてNISAとiDeCoを併用するのがお勧めですが、たとえば、今後、子供の教育費がかかるかもしれない、家を購入するかもしれない、など大きなお金が動く可能性がある場合はつみたてNISA、子供がすでに独立していてお金のメドがついている人はiDeCoにするなど、ライフステージに合わせて選ぶといいでしょう。

超低金利で、社会保障や税金が上昇する一方の昨今、税金が非課税になるこれらの制度を利用しない手はありません。30、40代から将来を見据えた安定的な資産運用法として活用していただければと思います。

山田真哉(やまだ・しんや)
公認会計士・税理士/(一財)芸能文化会計財団理事長
1976 年、兵庫県生まれ。大阪大学卒業後、東進ハイスクール勤務を経て、公認会計士に。2005 年に出版した『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』(光文社新書)が160 万部を超えるベストセラーに。新聞・雑誌・テレビなどで活躍する他、官公庁の委員なども歴任。パーソナリティを務めるラジオ番組『浅野真澄×山田真哉の週刊マネーランド』(文化放送・東海ラジオ)は、お金や投資のリテラシーがぐんぐん上がると評判。(取材・構成:麻生泰子)(『The 21 online』2017年12月号より)

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