2017年、中国人民銀行の仮想通貨研究機関責任者ヤオ・キャン氏、ビットコインのコア開発者ピーター・ウィール氏、イーサリムおよびコンセンシスの設立者ジョゼフ・ルービン氏、そしてJPモルガン・チェースCEOのジェームズ・ダイモン氏など、仮想通貨市場に多大なる影響をあたえた7人の著名人を見てみよう。
市場はハッキングや政治情勢だけではなく、これらの著名人の動向に強く反応した。
ヤオ・キャン ――中国仮想通貨市場の未来を左右する人物?
中国人民銀行の仮想通貨研究機関責任者ヤオ・キャン(Yao Qian)氏は、中国が独自の仮想通貨発行に踏み切る決め手となる重要人物だ。他国の中央銀行が仮想通貨という未知の世界への関心を持て余し気味であるのに対し、キャン氏は2017年5月、自らの研究の成果と見解を詳細に述べた報告書を発表した。
報告書では中央銀行による具体的な仮想通貨の活用例も提案されており、「中央銀行自体が発行する仮想通貨」「中央銀行の承認を受けた商業銀行が発行する仮想通貨」の2点の可能性に焦点が絞られている。
ビットコインやイーサリアムといった仮想通貨が流通する「独立した仮想通貨システム」が既存の銀行システムの脅威となるのを防ぐ意図で、「既存の商業銀行口座システムと独自の仮想通貨ウォレットをリンクさせ、銀行の管轄下に置くことも可能」とキャン氏は述べている。
さらには以前からその可能性が報じられている中国独自の仮想通貨発行についても、キャン氏の同僚であるチュン・イン・チェン氏が「進行中である可能性が高い」と証言している。
こうした流れから、中国が仮想通貨廃止に圧力をかけている背景が伺える。中国の仮想通貨市場の未来は、キャン氏の決定次第といったところだろうか。
ピーター・ウィール ――スケーラビリティ問題解決のカギをにぎる?ビットコイン開発者
ビットコインのコア開発者のひとり、ピーター・ウィール(Pieter Wuille)氏。2014年にカナダでビットコインのサイドチェーン開発スタートアップ、ブロックストリーム(Blockstream)を立ちあげた。翌年にはSegwitを考案したほか、トランザクション可塑性対策として「BIP62」も提案している。
メディアに登場する機会が極端に少ないため謎めいた部分が多いが、ビットコインの未来を変え得る重要人物であることは確かだ。ウィール氏がブロックストリームを通して実現を試みているのは、スケーラビリティ問題の解消である。
ビットコインが不正防止に採用しているデジタル署名には「ECDSA」と呼ばれる方式が用いられているが、これを「シュノア署名」 に置き換えるというのがウィール氏の発想だ。
ECDSAがトランザクションごとに署名を必要とするのに対し、シュノア署名では複数の署名データをひとつにまとめることが可能である。つまり100人の署名が必要な取引でも、署名データはたったひとつでOKということになる。結果的にデータサイズやコストの大幅な削減、プライバシーの向上などが期待できるというわけだ。
ビットコインやブロックチェーンに関して誤った知識やニュースが氾濫する中、「ビットコインを真から理解し、自分の役割や目標をしっかりと把握している開発者」として、業界内でも高い評価を受けている(コインデスクより)。
ジハン・ウー ――Twitterでビットコインキャッシュを高騰させる?
「ビットコインキャッシュ(BCH)は低コストで高速な取引ができる、スーパー・サトシ・ナカモト・コイン」など、ビットコインキャッシュを熱烈に支持する数々の発言で、昨年市場を大いにわかせたジハン・ウー(Jihan Wu)氏。
ウー氏が2013年に設立したマイニング企業ビットメイン(Bitmain)は、市場最大のマイニング機材シェアと世界最大のマイニングプールを誇る。ウー氏のひとつひとつ発言に市場が注目し、揺れるのも当然だろう。
ビットコインキャッシュとは昨年8月、ビットコイン(BTC)がハードフォークした際に生まれた新たな仮想通貨だ。ブロックサイズの上限が8Mバイトにまで拡大されているなど、「ビットコインのスケーラビリティ問題を解決する」工夫が特徴とされている。
11月に計画されていた「segwit2x」の導入延期発表後、ビットコインキャッシュは高騰。635ドル前後だった価格が一気に1500ドルまで跳ねあがり、12月中旬には3700ドルに。現在は2700ドルあたりに落ち着いている(2017年1月3日Coingeckoデータ )。
ビットコインキャッシュの価格変動がウー氏単独の影響でないことは確かだが、ほかにも「Segwitの支持者がひとりでもビットコインキャッシュの採掘を始めたら、アントプールもマイニングオプションを提供する」など、ビットコイン投資家を煽動する発言を同氏のTwitterで多数見かける。
自身のビットコイン投資家への影響力を知りつくした動きかと推測されるが、一部からは「Twitterをかしこく使いこなしていない」といった批判も挙がっている 。
ジョゼフ・ルービン――「ビットコインバブルは健全」? イーサリアム、コンセンシスの設立者
イーサリアムの共同設立者として知られるジョゼフ・ルービン(Joseph Lubin)氏は、2014年に設立したブロックチェーン企業コンセンシス(ConsenSys) を通し、「世界中のすべての人々が安心して参加できる市場作り」を目指している。
コンセンシスはイーサリアムベースのブロックチェーン・アプリケーションを開発しており、Microsoftやデロイトといった国際大手とも提携関係を結んでいる。
2017 年は分散型レバレッジ仮想通貨取引所「レバージェイ(Leverj)」のICO支援を発表 したほか、ベンチャー部門「コンセンシス・ベンチャーズ」を通して、ブロックチェーン・スタートアップの支援に5000万ドルを調達 。カナダ発のレバージェイは暗号資産のレバレッジ取引に対応している数少ない取引所のひとつで、仮想通貨の先物取引から通常のストックオプションまで取り扱っている。
ルービン氏はビットコインを含む仮想通貨の高騰を「100%バブルに違いない」と冷静に捉える一方で、バブルそのものは健全な流れである確信している。
ルービン氏曰く、「新たなテクノロジーの成長にはバブルがつきもので、新たなバブルが生みだされるたびに基本的価値が上がっていく」という(コインテレグラフより )。その理由は、「テクノロジー(ブロックチェーンを指すものかと推測)に世界のITシステムの基盤をくつがえすほどの非常な影響力がある」からだ。
ルービン氏は今後も様々な支援や提携関係を糧に、仮想通貨やブロックチェーンの可能性を拡大し続けるだろう。
ナヴァル・ラヴィカント――革新的な仮想通貨プロジェクトの支援環境を促進
初期段階のスタートアップとエンジェル投資家の架け橋となるプラットフォーム「エンジェルリスト」を2011年に立ち上げたナヴァル・ラヴィカント(Naval Ravikant)氏。成長段階にあったUber(2010年)を含め、7年間で113件もの個人的投資を行ってきたというから驚きだ 。
2017年はICOへの意欲が目覚ましく、ベースコイン やブロックスタック のICOに参加したほか、ビットワイズ・アセットマネージメントのよるS&P形式の仮想通貨ファンディング「ホールド10プライベート・インデックスファンド」も支援。
またICO向けのマネージメントサービスを提供する意図で、エンジェルリストから新たな子会社コインリストをスピンオフ するなど、革新的な仮想通貨プロジェクトの支援促進に大きく貢献した。
チャーリー・リー ――ライトコインの生みの親は正義感あふれるナイスガイ?
ライトコインの開発者チャーリー・リー(Charlie Lee)氏は2017年、保有していた全ラインコインを売却し世間を煙に巻いた。売却量は公表されていないが「市場価格を暴落させないレベルの、ほんの少量」とのことだ。
中国の大手取引所BTCチャイナのCEOを兄にもつリー氏は、マサチューセッツ工科大学卒業後Googleでエンジニアとして経験を積み、コインベースで役員を務めた仮想通貨産業のエクゼクティブだ。昨年からは自らエクゼクティブの地位を捨て、ライトコインの開発に専念している。
リー氏は2011年にライトコインを開発して以来自分でも保有していたが、「Twitterを利用して価格に影響をあたえられる立場にある」という一部の批判をしりぞけるために、売却を決心したのだとレディットで心境を明かしている。
「価格のインフルエンサーになる気はない」という思いをライトコイン売却という形で表現したリー氏の思想は、Twitterでビットコインキャッシュの価格を動かしているジハン・ウー氏などとは180度異なる。
リー氏は「ひと儲けを狙ってビットコインキャッシュを買い込んだ」という批判にも、不愉快な思いをしたと述べている。「ビットコインキャッシュを買ったのではなく、ベースコインで売った」とわざわざTweetするなど、珍しいほど正義感あふれる「ナイスガイ」のようだ。
ジェームズ・ダイモン――ひとことでビットコインの価格を急落させた金融王
2017年、JPモルガン・チェースのCEO、ジェームズ・ダイモン(James Dimon)氏は、鶴の一声でビットコイン価格を急落させた「仮想通貨市場にとって悪夢のような人物」となった。
ことの発端はダイモン氏のビットコインバッシングだ。投資家会議に出席したダイモン氏は、「ビットコインは詐欺」「いずれ崩壊する」などと手厳しく非難し、即座に市場が反応。4200ドル前後で推移していた価格が、4060ドルあたりまで一気に下落した。
国際大手銀行を率いるトップの発言が、どれほど強力な影響力をもって市場を動かすかを、見事に立証した例だ。ダイモン氏は凄腕証券ブローカーだった父親の影響か、ハーバードビジネススクールでMBAを取得し、ウォール街で実績を積んだ筋金入りの金融エクゼクティブだ。市場での知名度も高い。
そんなダイモン氏が、自社で仮想取引を取り扱っているトレーダーがいたら、「就業違反と愚かであることを理由に即座に解雇する」と強く否定すれば、投資家が臆病風に吹かれるのも無理はない。
ダイモン氏のあからさまな攻撃を、「仮想通貨市場やその発展にネガティブな影響をあたえた」「ビットコインについての知識が欠落している」と批判する声も挙がっている。(アレン・琴子、英国在住フリーランスライター)
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