要旨

WeWorkビジネスモデル,不動産業
(画像=PIXTA)

不動産業にも、技術革新による付加価値創造を目指す「不動産テック」の波が押し寄せており、最近ではプラットフォーマーと見做される企業も現れ始めた。その中でも注目を集めている企業が、米コワーキングスペース大手のWeWorkである。他のプラットフォーマーが多くの産業に破壊的イノベーションをもたらしたように、WeWorkも不動産業を変革するのだろうか。また変革をもたらすとすれば、不動産業をどのように変えるのだろうか。

本稿では2回に分けて同社のビジネスモデルや不動産業界への影響を読み解く。同社はコワーキングスペースというオフラインの事業とプラットフォームというオンラインの事業を併せ持つなど、プラットフォーマーとしてAmazonと似通っている点が多い。そこで第1回では、Amazonを参考にプラットフォーマーの特徴や既存業界への影響などを整理し、プラットフォーマーのビジネスモデルが既存の不動産業と大きく異なることを示す。

はじめに:プラットフォーマーの脅威

プラットフォーマーと呼ばれる巨大IT企業が世界を席巻している。世界の上場企業の時価総額ランキングを見ると、上位10社のうち7社がプラットフォーマーだ(図表-1)。これらの企業の多くは、急速に事業を拡大し、様々な産業に変革をもたらしている。

WeWorkビジネスモデル,不動産業,プラットフォーマー
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プラットフォーマーとして最も成功している企業の一つが米電子商取引大手のAmazon.com(以下Amazon)である。同社は品揃え、低価格、利便性を武器に急速に売上を伸ばし、米国における電子商取引(以下EC)の売上の半分近くを占めるまでに成長している。同社の事業拡大は止まる所を知らず、あらゆる産業を飲み込むとの懸念が高まっている。同社の参入によって既存企業の業績が悪化する「Amazon Effect(アマゾン効果)」といった言葉もメディアを賑わしている。

不動産業ではデジタル化が遅れていることもあり、まだプラットフォーマーの脅威は顕在化していない。しかし、不動産業にも、技術革新による付加価値創造を目指す「不動産テック」の波が押し寄せてきている。不動産テック企業の多くは、2000年代後半以降に設立され、最近ではプラットフォーマーと見做される企業も現れ始めた。その中でも注目を集めている企業が、米コワーキングスペース大手のWeWork Cos Inc(ウィーワーク・コス・インク、以下WeWork)である。

プラットフォーマーが多くの産業に破壊的イノベーションをもたらしたように、WeWorkも不動産業を変革するのだろうか。また変革をもたらすとすれば、不動産業をどのように変えるのだろうか。まだWeWorkの歴史は浅く、その情報も限られる。そこで本稿では2回に分けて同社のビジネスモデルや不動産業界への影響を読み解く。第1回は、Amazonを参考にプラットフォーマーの特徴や既存業界への影響などを整理する。そして第2回でWeWorkの新規性や戦略を分析し、不動産業や不動産市場にどのような変革をもたらすかを考察する。

プラットフォーマーの特徴と影響

(1)プラットフォームとは:プラットフォーマーへと進化を遂げたAmazon

プラットフォームとは、「異なる2種類以上のユーザー・グループを結びつけ、1つのネットワークを構築するようなサービスで、ユーザー・グループ間の取引を促すインフラとツールを提供するもの(*1)」である。「プラットフォーム=IT」といった印象を持つことが多いが、プラットフォームというビジネスは何もITに限ったものではない。不動産業でも、不動産仲介業は売主(貸主)と買主(借主)を結びつけるプラットフォームであり、ショッピングモールなどの商業施設はテナントと消費者を結びつけるがプラットフォームである。

しかし、近年注目を集めるプラットフォームの多くはIT産業で誕生している。従来の産業ではプラットフォームを構築・拡大するのに、多くの資金と時間を要したが、IT産業では物理的なインフラを構築する必要性が少ないため、プラットフォームを低コストかつ短期間で規模を拡大することができる。また、ITを活用すれば、プラットフォームのデータを低コストで収集・分析することができるため、データをもとにプラットフォームの利用価値を高めることもできる。そのため、「プラットフォーマー」という用語も、一般的にはプラットフォームを提供するIT企業のことを指す。

Amazonは1995年に米国でCEOのジェフリー・プレストン・ベゾス氏が設立した。同社はECでの書籍販売から事業を開始したが、徐々に取扱商品を拡大し、現在は数億種の商品を取り扱うと言われる。また事業領域も拡大しており、現在ではECストアに加え、電子書籍デバイスであるKindleやAIスピーカーのAmazon Echoなどの開発・提供、クラウドサービスであるAmazon Web Service(以下AWS)など、幅広いビジネスを展開している。さらに米国をはじめ欧州や日本など14カ国で事業を展開し、世界各国に進出している。

設立当初のAmazonはプラットフォーマーではなかった。同社のECサイトで、他社は商品を販売することができず、同社のみが販売を行うインターネット上の小売企業でしかなかったためである。しかし、カスタマーレビューやマーケットプレイスなどのサービスを開始することで、プラットフォーマーへと進化を遂げている。

カスタマーレビューとは、消費者が商品の情報や感想を投稿し、他の消費者が参考にできるというものだ。これまで書籍の紹介は出版社や書店が行ってきたが、Amazonは消費者が自由に書籍の感想や評価を共有することを可能にした。これは双方向性と匿名性があるインターネットだからこそ実現できた機能である。同機能は、レビューの書き手と読み手という2つのユーザー・グループを結びつけるプラットフォームだと言える。

またマーケットプレイスとは、米国では2000年、日本では2002年から開始したサービスで、第三者がAmazonのサイトに新品や中古の商品を出品できるようにしたものだ。これは、商品を出品する販売者と消費者という2つのユーザー・グループを結びつけるプラットフォームである。

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(*1)Eisenmann, Parker and Alstyne(2006)を参照。プラットフォームという言葉には様々な定義があり、本稿では多面的プラットフォーム(Multisided Platform)をプラットフォームとした。他の定義などは、Hagiu and Wright(2015)や加藤(2016)に詳しい。
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(2)プラットフォームの経済性:経済性に裏打ちされたAmazonのビジネスモデル

Amazonの売上高は指数関数的に増加しており、2016年には1,359億ドルに達している(図表-2)。一方、同年の営業利益率は+3.1%と低い水準に抑え込まれている。これは総じて高い利益率をあげる他のプラットフォーマーと比較して極めて特徴的であり、同社のビジネスモデルに起因している。

WeWorkビジネスモデル,不動産業,プラットフォーマー
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Amazonのビジネスモデルは、創業時にベゾス氏が紙ナプキンに書いたとされ、創業から20年たった現在も本質は変わっていない(図表-3)。品揃えが豊富で選択肢が多く、安く商品を購入できれば、顧客満足度が上がる。また顧客満足度が高ければ、Amazonで購入する消費者が増える。消費者が多く集まれば、多くの商品が売れるため、販売者が増える。これにより品揃えがさらに充実し、顧客満足度がさらに高まる。また同社の売上が大きくなれば、コストを削減することができる。それにより価格をさらに下げることができ、顧客満足度を高めることができる。つまり、品揃え、低価格により顧客満足度を高めることが、ビジネスの好循環をもたらすのだ。同社は、このビジネスサイクルを早く回転させるため、収益の多くを商品の値下げや物流などへの投資に充ててきた。そしてそれが、ECプラットフォームというバーチャル空間での競争力と高度な物流網というリアル空間での競争力を高めた。このリアルとバーチャルの双方に強みを持つというのが、Amazonの特筆すべき点であり、同社の競争力の源泉である。また、同社の低利益率は市場全体の収益性も押下げることで、結果として新規参入を阻む効果もあった。

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このAmazonのビジネスモデルでは、ネットワーク効果、規模の経済性、範囲の経済性といった経済性が働いている。これらはプラットフォーム特有の経済性ではないが、プラットフォームを理解する上で、いずれも重要な概念である。

(ア) ネットワーク効果

ネットワーク効果とは、ユーザーが増えれば増えるほど、ユーザーの効用が高まる効果を意味し、プラットフォームにとって最も重要な経済性の概念である。またネットワーク効果には、直接ネットワーク効果(ユーザー・グループ内のサイド内ネットワーク効果)と間接ネットワーク効果(ユーザー・グループ間のサイド間ネットワーク効果)がある。

直接ネットワーク効果は、ある立場のユーザーが増加することで、同一の立場の他のユーザーの効用が向上する効果である。直接ネットワーク効果の例として挙げられることが多いのが、電話やSNSだ。これらは加入者が少ないと利用価値が小さいが、加入者が増えれば増えるほど利用価値が高まる。

間接ネットワーク効果は、ある立場のユーザーが増加することで、別の立場のユーザーの効用が高まる効果である。これはAmazonのビジネスモデルにおける販売者と消費者の好循環を説明する経済性だ。またカスタマーレビューでも間接ネットワーク効果は働く。レビューの書き手が多いほど、多くの商品のレビューが集まり、またレビューの信頼性が高まるため、読み手の利便性が高まる。また読み手が多いほど、書き手のインセンティブが大きくなり、さらに書き手を呼び込むという好循環をもたらす。カスタマーレビューは、今では業界標準となり、多くのECサイトで導入されている。しかし、最もレビュー数の多いAmazonの利便性が最も高く、それがさらにレビュー数を集める要因となるため、競合他社がAmazonに追いつくことは容易ではない。

(イ) 規模の経済性

規模の経済性とは、事業規模が拡大するほど、投入量1単位に対する生産量が増大し、生産性が高まる効果を言う。Amazonのビジネスモデルでは、事業規模の成長によるコスト低下が、規模の経済で説明できる。

Amazonで規模の経済性を最も発揮しているのが物流だ(*2)。多くのEC事業者が物流のアウトソースを志向する中、Amazonは自前の物流網の整備に多額の投資を行ってきた。同社の最先端のハードとソフトを兼ね備えた物流施設はフルフィルメントセンターと呼ばれ、全国に展開することで、当日配送などの配送スピードと低価格の両立を可能にしている。また同社は物流網を活用して、マーケットプレイスを利用する販売者の物流を代行するFulfillment by Amazon(以下FBA)というサービスを提供している。FBAは商品の保管から注文処理・出荷・配送・返品に関するカスタマーサ-ビスなどを提供するものだ。これにより、第三者の負担を軽減するとともに、物流品質を高水準に保ち、低コストでの配送を可能にしている。同社は20年近い歳月と多くの資金・人材を投入して、最先端の物流網を構築した。高度な物流網は参入障壁が高く、同社の物流網は他社が容易に追いつけないレベルに達しているため、競合する上で大きな強みとなっている。

なおネットワーク効果も、規模の経済性も、スケール・メリットであるため、混同されることが多い。しかし、ネットワーク効果は規模の拡大によりユーザーの効用が高まるという外部性を表す「消費者サイドのスケール・メリット」であり、規模の生産性は規模の拡大により生産者の効率性が高まる「生産者サイドのメリット」であるため、異なる概念である。

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(*2)販売数量増加による仕入単価の低減も、Amazonが享受する規模の経済の一種である。
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(ウ) 範囲の経済性

範囲の経済性は、企業が多角化することで、企業の内部資源を複数の生産活動に活用することが可能となり、コストが削減される効果である。これもAmazonのビジネスモデルにおける、事業の成長(事業範囲の拡大)によるコスト低下を補足する概念だ。Amazonでは、書籍からエブリシング・ストアへと商品の多角化に加え、Kindleなどのデバイス開発やクラウドサービスであるAWS、AIアシスタントのAlexaの開発、決済事業であるAmazon Payなど事業の多角化を進めることで、範囲の経済性か発揮されている。

(3)プラットフォームとビッグデータ:Amazonに蓄積される膨大なデータ

プラットフォームの経済性が発揮され、多数のユーザーがプラットフォームに集まるようになると、大量のデータが蓄積されるようになる。プラットフォーマーは、それらのデータを活用してビジネスを最適化することが可能となる。中国EC大手アリババ集団会長のジャック・マー氏は「データは新しい石油になる(*3)」と表現したように、データは現代のビジネス環境において必要不可欠な存在だ。また、データはそのままでは使えないという点も石油と同じである。石油が精製・加工されることで利用可能になるのと同様に、データも選別や分析などの処理をすることではじめて現実世界で役に立つようになる。

AmazonはECを通じて、膨大な顧客データを蓄積し、活用してきた。例えば、同社のECサイトには「この商品を買った人はこんな商品も買っています」といった、おすすめ機能がある。同機能は、協調フィルタリングというアルゴリズムを使っている。協調フィルタリングは、購買履歴などの大量のデータから似ている顧客をセグメント化し、セグメント内の人が購入した商品をおすすめするというものである。

これまでリアルの商業店舗も、クレジットカードやPOSなどのデータをもとに、顧客をセグメント化して、マーケティングを行ってきた。しかし、マクロデータなどをもとに、居住地域や年齢、所得など、顧客の属性からニーズを推測するというものが一般的だった。ECではこれらのデータに加え、ECサイト内での行動など、個々人のミクロデータを用いて、顧客行動を分析できる。これにより、顧客のセグメントを1人単位にまで落としこみ、個々人の特性やニーズを反映したマーケティングか可能になったのだ。またAmazonではさらにセグメントを細分化し、個々人のニーズが状況や時間によって変化することに焦点をあて、リアルタイムのニーズを把握する0.1人単位のセグメンテーションにも対応できるようになってきている(*4)。これまで小売業者が顧客一人ひとりを理解することは困難だったが、ECでは個々人の刻一刻と変化するニーズまでも把握することが可能になるかもしれないのだ。

また同社は顧客のニーズだけでなく、市場動向を分析する上でもプラットフォームで収集したデータを利用している。同社は、ECプラットフォームの運営者であると同時に、販売者でもある。そのため、マーケットプレイスでの第三者の販売動向などを見ながら、同社の販売戦略を構築し、また新商品を開発することも可能である。規模や資本力でAmazonに勝る販売者は少なく、同一または同機能の商品を同社以上に低価格で販売することができる小売業者も限られるため、Amazonは他社の販売動向などを知ることで、同社のシェアをさらに拡大し、収益を拡大することができるのである(*5)。

Amazonはこれまで主にオンラインのデータを蓄積してきたが、米自然食品スーパーWholefoods Marketの買収やAmazon Books、Amazon Goといったリアル店舗の出店、AIスピーカーなどの事業に進出することでオフラインのデータの収集も拡大している。今後、オンラインで培ったデータ分析能力をオフラインにも活用していくことで、消費行動の一層の把握が可能となり、同社の優位性がさらに高まる可能性がある。

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(3)日本経済新聞(2017)参照。
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4)Weigend (2017) 参照。
(*5)Stone (2013)、田中(2017) 参照。
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(4)プラットフォーマー台頭の背景:産業構造のレイヤー化が育んだプラットフォーマー

プラットフォーマーが台頭している背景には、産業構造の変化が進展したこともある。近年、様々な産業にデジタル化の波が押し寄せたことで、産業のモジュール化が進んでいる。産業のモジュール化(6)とは、「産業内の独立に活動する各ビジネス要素を適宜合成してビジネスを行うことができるようになること(7)」を意味する。そして産業がモジュール化し、製品やサービスがビジネス要素毎に分解されることで、産業構造が従来の「バリューチェーン型」から「レイヤー型」へシフトしている。

バリューチェーン型とは、製造業などで見られる産業構造の枠組みで、川上企業から川下企業に沿ってプロセスが進むことで製品やサービスが完成し、最終的に川下企業から消費者購入するというものである(図表-4)。

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一方、レイヤー型とは、通信やIT産業などに見られる産業構造の枠組みで、産業間にまたがる機能や要素であるレイヤーが積み重なり、産業が構成されることを指す。レイヤー型では、消費者は各レイヤーの製品やサービスを直接選択することが可能である(図表-5)。

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ただし、レイヤー化が進むことで、バリューチェーンがなくなるわけではない。バリューチェーンの特定のステージの役割が縮小もしくはなくなることはあるが、それぞれのステージがレイヤー化していき、実際は双方の構造が併存することになる(図表-6)。

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レイヤー化された産業では、消費者が幅広い製品やサービスから直接選択する必要があるため、それを助けるプラットフォームの有用性が高まった。またそれと同時に、プラットフォームが拡大することで取引コストが低下し、産業のモジュール化、レイヤー化をさらに進めたという面もある。

Amazonは電子書籍のコンテンツ・プラットフォームを構築し、シェアを拡大することで、出版業界のレイヤー化を進めている。従来、出版業界は著作者・出版社・取次・書店・読者といったバリューチェーン型の産業構造だったが(図表-7)、電子書籍プラットフォームは通信ネットワーク、OS、ハード、コンテンツ、プラットフォームのKindle Store、コンテンツの電子書籍といったレイヤー型である(図表-8)。

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(6)Baldwin and Clark (2000)によれば、モジュールとは、「それぞれ独立に設計可能で,かつ,全体として統一的に機能するより小さなサブシステムによって複雑な製品や業務プロセスを構築すること」を意味する。
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7)根来・藤巻 (2013) 参照。
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(5)バリューチェーンの中抜き:拡大し続けるプラットフォーマーによる市場独占

産業構造がレイヤー化すると、プラットフォームの重要性が高まり、既存業態の役割が縮小する。そして、バリューチェーンの中抜きが進み、産業内でのパワーバランスが変化する。例えば、電子書籍では、コンテンツ・プラットフォームであるAmazonが、読者と出版社を直接結びつける役割を果たすため、バリューチェーン上の書店や取次の役割が縮小する。また著作者が出版社を介さずに電子書籍を出版することが可能なKindleダイレクト・パブリッシングでは、出版社の役割が小さくなる。これによりコストが低下し参入障壁が下がる一方、産業内の収益配分も変化する。例えば、従来の米国の出版業界における収益配分は、著者15%、出版社30%、取次15%、書店40%といった割合が一般的だった。一方、電子書籍では、著者8%、出版社32%、プラットフォーマー60%となり、さらにダイレクト・パブリッシングでは著者70%、プラットフォーマー30%となっているとの調査もある8。このようにプラットフォームは、バリューチェーンの中抜きを進め、産業内の収益配分を一変させ得る。

またプラットフォームでは、ネットワーク効果、規模の経済などの経済性が発揮されるため、事業規模拡大により、収穫逓増となる9。そのため、プラットフォーム間でも淘汰が進み、競争に勝ったプラットフォーマーが市場を独占(一人勝ち、Winner Takes All)することになる。生き残りをかけたプラットフォーム間の競争は熾烈を極め、優位にたったプラットフォーマーは、研究開発や低価格戦略により、競合を駆逐していく。Amazonは、値下げや買収攻勢によりシェアを拡大し、現在では米国のEC売上高の半分近くを占めるまでになっている。

またプラットフォーマーは、独占した市場での収益を活用して、新たな市場への進出を図ることが多い。新規参入する市場は、同産業内の別のレイヤーや別の産業の同様のレイヤーであることが一般的だ。これは市場が異なっても、ユーザー基盤が重複し、多くの技術も転用できるためである。「Amazon Effect」という言葉が、小売業だけでなく、他の産業や政府にとっての脅威も表すようになっているのは、このようにしてプラットフォーマーが様々な市場を飲みこみ、拡大し続けているからである。

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(8)OECD (2012) 参照。ここでの数値は収益配分の割合を示しており、収益の金額を表しているわけではないことに留意。
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9)Ethernetの共同開発者であるロバートメトカーフは、「ネットワークの価値は、それに接続する端末や利用者の数の二乗に比例する」と主張している(メトカーフの法則)
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(6)プラットフォームにおける戦略的論点:プライシング戦略とオープン・クローズド戦略

プラットフォームは一人勝ちになる傾向が強いものの、そこに至るまでの競争は激しく、プラットフォーマーとしての立ち位置を確立するのは容易ではない。その過程で重要なのが、プライシング戦略とオープン・クローズド戦略である。

(ア) プライシング戦略

プラットフォームには、複数の立場のユーザーが参加し、各ユーザー・グループから収入を得ることが可能である。そのため、ユーザー・グループの特性やプラットフォーム上の位置付けなどを考慮して価格を設定することが重要になる。多くのプラットフォームでは、あるユーザー・グループを収益源とする課金サイドとし、もう一方を収益源であるユーザー・グループを呼び寄せるために優遇する補完サイドと位置付けている。またその際は、価格志向や品質志向の高いユーザーを優遇し、補完サイドとすることの重要性などが指摘されている(*10)(図表-9)。

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この戦略的位置付けは、「ニワトリが先か、卵が先か」というチキン・エッグ問題とも密接に関係する。これは、プラットフォームの初期段階において、課金サイドのユーザーが少ないために補完サイドが集まらず、また同様に補完サイドのユーザーが少ないために課金サイドが集まらなくなり、両者の相互作用によりプラットフォームの普及が拡大しない、という問題を意味する。ネットワーク効果が発揮されるためには、一定数以上(クリティカル・マス)のユーザーがプラットフォームに参加する必要があるため、チキン・エッグ問題の克服が、多くのプラットフォームにとって課題となる。

Amazonのマーケットプレイスでは、販売者が課金サイドで、定額の月額料金と従量制の販売手数料を支払う。また消費者が無料でプラットフォームを利用できる補完サイドとなる。また当初は自社のみが販売者となり、低価格戦略などによりECサイトのユーザー数を一定以上まで成長させてから、マーケットプレイスというプラットフォームビジネスを展開している。ただし、その後アマゾン・プライム(*11)を導入するなど、消費者にも課金するサービスを拡大しており、同社のプライシング戦略はさらに複雑化している。

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(10)Eisenmann, Parker and Alystyne(2006) 参照。
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11)日本での同サービスは、07年に開始され、当初は年会費3,900円で通常より配送スピードの早いお急ぎ便を無料で使えるというものだった。その後は、映像・音楽の見放題・聞き放題サービスやクラウド上のフォトストレージサービスなど、様々な特典を追加しており、プライシングと言う観点では複雑さが増している。
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(イ) レイヤーのオープン・クローズド戦略

プラットフォームにおいてはユーザー数がその競争力を左右するため、どれだけ早く、多くのユーザー数を獲得するかが肝要だ。その際に重要になるのが、どのレイヤーをオープンにして、他社を補完プレイヤーとして受け入れるかである。全てを自社で賄ったほうが収益は大きくなるが、他社の協力を仰ぐことで事業の拡大スピードを加速することができる。ただし、また同時にどのレイヤーをクローズにして、競争力や収益力を確保するかという点も重要だ。AmazonのKindle Storeで購入した電子書籍は、Amazonの電子書籍端末であるKindleの他にも、他社製のパソコンやタブレット端末、スマートフォンなどのアプリで読むことができる。これは、電子書籍のレイヤーにおいて、通信ネットワーク、OS、ハードをオープンにしていることを意味する。これは、Kindle Storeというコンテンツ・プラットフォームを同社の収益源としているためだ。ハードなどの収益を独占するより、Kindle以外の端末でもアプリをダウンロードすることで閲覧できるようオープンにすることで、他の端末プロバイダーも巻き込み、ユーザー数拡大を加速させることを重視しているのだ。またレイヤーを補完するプレイヤーに加え、複数のユーザー・グループがプラットフォームに参加するようインセンティブをコントロールする必要もある。

このようにプラットフォーマーは、プラットフォームを中心とした補完プレイヤーやユーザー・グループのネットワークをエコシステム(*12)として形成し、マネージしていくことが求められる。レイヤーをオープンにして補完プレイヤーと協業するには、その品質をコントロールしていくことも求められる。エコシステムが成長し、ネットワーク効果の好循環を生み出すことができれば、プラットフォームの優位性を強固にできる(図表-10)。

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これまで述べてきたように、プラットフォーマーのビジネスモデルは既存の不動産業と大きく異なる。次回はプラットフォームという枠組みを通してWeWorkのビジネスモデルと不動産業界への影響を分析する。

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(*12)加藤(2016)によれば、エコシステムとは、「ビジネスにおいて「産業生態系」の意味で用いられる。具体的には、コアとなるプラットフォーム製品提供者とその補完業者、そしてユーザーが結びつき、共に成長していく1つのシステム」を表す。
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佐久間誠(さくま まこと)
ニッセイ基礎研究所 金融研究部 研究員

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