一時的に時価総額が1218億ドルに達し、ビットコインに次ぐ「世界第2位の仮想通貨」の座にのし上がったリップル(Ripple/XRP)。その後イーサリアムが返り咲きしているものの、国際大手金融機関や政府との提携関係、中近東地域の裕福な投資家が集まるドバイの仮想通貨取引所との取引開始など、今後さらなる跳躍を予感させる要素はたくさんある。
リップル高騰の背景を探りながら、ビットコイン、イーサリアムの「3大仮想通貨」の今後の展望を予測してみよう。
イーサリアムが2位を奪還 価格は過去9カ月で400倍以上に
リップルが独自に開発したXRPは、今最も広範囲から注目を集めている仮想通貨のひとつだろう。注目度があがるにつれ価格変動が激しくなり、変動が激しくなればなるほどさらに注目を浴びている。
リップル自体はブロックチェーン技術を利用したグロス決済システムや外国為替、国際送金ネットワークを提供している。
2017年3月には0.006ドルだったXRPの価格は、5月に0.35ドルに急騰。12月上旬には0.24ドルまで落ち込むものの、その後猛烈な勢いで値を上げ、29日午後に2.23ドル(55.9%増)を突破。時価総額を863億ドルに押し上げ、イーサリアム(時価総額730億ドル)をしのぐ世界第2の仮想通貨となった。
市場の熱狂はさらに加速し、2018年1月8日には3.22ドルの高値を記録。同日中に若干押し戻されてたが、2.50ドル前後を維持。時価総額ではイーサリアムが2位に返り咲いている(CNBC 、コインマーケット・キャップ データ)。
最近の価格上昇の背景には、ドバイの仮想通貨取引所ビットオアシス(BitOasis) での取引開始に関する報道がある。「中近東地域の裕福な投資家に間口を広げることで、Rippleの価格が爆発的に跳ねあがるのではないか」という期待感だ。また金融機関がXRPに興味を示しているとの報道や、市場シェアの41%を占める世界最大の仮想通貨ビットコインに関する「懸念」なども、リップルへの熱狂を高める要因となっているはずだ。
エンゼル投資家とステラコイン設立者が共同で立ち上げたリップル
リップル は2012年、サンフランシスコで設立された。数々の資金調達ラウンド を通し、GVやサンタンデール・イノベンチャーズ(Santander InnoVentures)といった国際大手のベンチャー子会社やアクセンチュア、ブロックチェーン・キャピタル、ベンチャー51などから総額9360万ドルを(2012年10月~2017年6月)獲得している。
母体となったのは、2004年に散型システム開発者ライアン・フッガー氏 が考案した「リップル・プロジェクト」だ。2012年、シリコンバレーのエンゼル投資家クリス・ラーセン氏と著名プログラマーのジェッド・マカレブ氏が、これを引き継ぐ形でオープンコインを設立した。ジェッド・マカレブ氏はかつて欧米で大人気だったP2Pファイル共有ソフト「eDonkey」の開発者、あるいはステラコインの設立者、2014年に破たんしたマウントゴックスにビットコイン取引所を開設した人物としても知られている。
翌年GVやIDGキャピタル・パートナーズ、ビットコイン・オポチュニティー・ファンドなどから二度の資金調達に成功したオープンコイン(コインデスクより )は、マカレブ氏の退社を機にリップル・プロトコル(RTXP)や独自の決済・交換ネットワークを開発する。
2013年にリップルラボ(RippleLab)に社名改名し、2015年、現在のリップルに改名した。改名以前は同じ仮想通貨プロジェクト「OpenCoin.org」 と混乱される場合もあったようだが、こちらはリップルとは一切無関係の組織である。
加速する国際大手金融機関との提携
このあたりからリップルの加速が始まる。2016年にはニューヨーク州金融サービス局から仮想通貨ライセンスを取得したほか、バンク・オブ・アメリカやカナダロイヤル銀行、サンタンデール銀行、ウニクレディトといった欧州の大手金融機関と共同で、グローバル・ペイメンツ・ステアリング・グループ(GPSG)を設立 した。リップルの技術を利用するにあたり、国際標準を設定することが目的だ。後に三菱東京UFJ銀行 など、日本の金融機関も参加を発表している。
さらには2017年、スペイン最大手のBBVAと提携し、リップルのブロックチェーン技術を利用して、メキシコ・スペイン間の現金送金を「わずか数秒」で完了させるという快挙を成し遂げた(CNN)。またアメリカン・エクスプレスの 国際決済プラットフォーム「FX インターナショナル・ペイメンツ」と自社のブロックチェーン・ネットワークを融合させ、米国・英国間の国際決済の迅速化にも乗りだしている。
価格が167%上がればビットコインを超える?
以上の説明から分かるように、リップルの最大の強みは、政府や国際大手金融機関と強力な提携関係を結んでいる点にある。
現在は会長に就任しているラーセン氏は、2017年、IMF(国際通貨基金)のFinTechアドバイザリーグループ「ハイレベル・アドバイザリー・グループ・オンFinTech 」のマネージング・ディレクターに任命されたほか、2015年にはFRB(連邦準備制度理事会)が結成した「ファスター・ペイメンツ・タスク・フォース・ステアリング・コミッティー」のメンバーに、リップルの規制関連部門ディレクター、ライアン・ザゴーン氏が選ばれている。 技術面での期待はもちろん、この辺りの背景がXRPの価格に反映しているのは間違いない。いずれビットコインを超えるチャンスはあるのだろうか。
現在市場には387.3億万枚のXPRが出回っている。1月9日の価格は2.49ドル、時価総額は964億ドル。対するビットコインの時価総額2542億ドルだ。XPRがビットコインを超えるには、価格が6.57ドル(167%増)に達する必要がある。昨年だけでも3.6万% 増を記録していると考えると、可能性は大いにある。
イーサリアムはどうだろう。市場に出回っているコインは9685万枚で価格は1119ドル、時価総額は1083億ドル。134%値を上げるだけでビットコインを追い抜くことになる(CNBCより )。
ビットコインは「投資」?「バブル」?
ビットコインはリップルやイーサリアムの脅威を感じつつも、圧倒的な市場支持を維持している。価格は昨年12月中旬の1.9万ドル(時価総額3183億ドル)をピークに、現在は1.5万ドル前後に落ち着いている。
ビットコインに関しては「バブル」との見方も根強く、2018年の価格崩壊を懸念する声も多い。ロイターは今年の経済市場予想の中 で、「各国・地域で規制が強化され、投資が冷え込み、価格が現在の1.6万ドルから1000ドルまで大暴落」という最悪のシナリオを披露している。
その一方で「仮想通貨は我々の未来」とポジティブに受けとめる風潮も強い。「今年中旬には10万ドルの壁を超える」との期待も一部の投資家間で高まっているようだ。
「ビットコインとイーサリアムのいいとこどり」といわれハイブリッド仮想通貨クアンタム (Qtum)の設立者パトリック・ダイ氏は、仮想通貨かブロックチェーン技術への社会的理解の欠落が、「バブル」という見方を生み出していると指摘している。
ビットコイン価格に影響を与えかねない要因とは?
今後、価格に深刻な影響を与える可能性のある要因はいくつか考えられる。
例えば通信ネットワークに関する法則「メトカーフの法則」によると、「ネットワーク通信の価値は、接続されているシステムのユーザ数の二乗(n2)に比例する」という。この法則は米国の投資家ジョージ・ギルダー氏が1993年に定義したもので、通信技術やネットワークを特徴づけている。メトカーフの法則がビットコインにも該当すると仮定した場合、ビットコインの価格はますます値を上げていくだろう。
しかし仮想通貨が普及すればするほど、ライバル仮想通貨の数が増えると予想される。現に仮想通貨は年々増加傾向にあり、2018年1月の時点でコインランキングに掲載されているだけでも 2640種類を超えている。前述した通りイーサリアムやリップルが着実に人気を伸ばしているのに加え、カルダノ(Cardano)やライトコイン(Litecoin)、IOTAなどもじわじわと追い上げてきている。
また規制による影響も気にかかる。各国・地域によって対応の仕方は異なるものの、統一感に欠ける点が市場の不安を駆り立てかねない。
ビットコインにはいまもなお解決されていないトランザクション問題やプルーフ・オブ・ワーク(PoW)問題など、課題も横たわっている(インベスティングPRより )。
ビットコインはDOS、イーサリアムはWindowsかMac OSのようなもの?
「2017年はビットコイン、2018年はイーサリアム」という予想も少なくない。
イーサリアムベースのカジノ・プラットフォームを提供するファンフェア・テクノロジーズのCEO、ジェズ・サン氏は、ビットコインをDOS 、イーサリアムをWindowsあるいはMac OSに例え、DOSが後者よりも先に市場に登場したにもかかわらず、後者が現れて初めて人気がでた事実を指摘している。 WindowsやMac OSのように、開発者はイーサリアム向けのアプリが何千と開発している。
サン氏はビットコインが最早「エリートしか手のだせない高額投資商品になってしまった」とし、一般投資家が低価格帯で将来的なリターンが期待できるほかの仮想通貨に乗り換えるのではないかと見ている。その中でもイーサリアムやリップルなど、すでに市場に定着した感の強い仮想通貨が、より多くの投資家の関心を惹きそうだ(デスクコインより)。
「リップルが大穴になる」可能性も否定できない。あるいはまったくちがう仮想通貨がトップに躍りでるかも知れない。
中央銀行が仮想通貨を買い始める?
ロンドンのビットコイン・プラットフォーム・スタートアップ、ブロックチェーンのCEOピーター・スミス氏はCNBCの取材 で、「今年は中央銀行がビットコインやイーサリアムを保有するようになる」とまで発言している。現実化すれば、仮想通貨はいまだかつて目にしたことがない勢いで跳ね上がるはずだ。
また元南アフリカ準備銀行員ユージン・エトゼべス氏も、「ビットコインを含む仮想通貨の時価総額が、通常のあらゆる通貨の価値を超える年になる」と予言している(コインデスクより )。世界中で加熱する仮想通貨人気と24時間365日どこからでも取引できるという利便性が功を成し、中央銀行が仮想通貨を買い入れる―との見解だ。
もちろん、こうした様々な「予言」は憶測の範囲でしかない。しかし仮想通貨人気が一過性のものなのか、あるいは新たな投資対象なのか、2018年はすべてが明らかになる1年となるかも知れない。(アレン・琴子、英国在住フリーランスライター)
【編集部のオススメ FinTech online記事】
・ FinTech普及率調査「中国は日本の3倍以上」 EY報告書
・ 機械学習するAIハッカーがセキュリティプログラムを打ち破る
・ ブロックチェーン・カンファレンス開催、ビットコインの犯罪捜査やセキュリティに関して議論
・ 「ビットコインは詐欺」JPモルガン・ダイモンCEOが相場操縦と訴えられる
・ 銀行とFinTechスタートアップが役割入れ替え API使ったビジネス模擬プレゼン