長寿化および定年延長により、誰もが70歳近くまで働く時代がやってきた。ただ、次々と新しいテクノロジーやビジネスモデルが登場する中、年齢を重ねたビジネスマンが常に最新情報をキャッチアップするのは容易ではない。その結果、「役立たず」の烙印を押されてしまうことも……。ただ半面、勉強さえすれば、何歳からでも人生の選択肢を広げ、自由な働き方を実現できると語るのは、『ビリギャル先生』こと教育者であり起業家の坪田信貴氏。大人がキャリアや生き方の可能性を広げるにはどうすべきか。新刊『どんな人でも頭が良くなる 世界に一つだけの勉強法』から、坪田式「正しい勉強のしかた」を解説し、成長することとは何かを説く。

店先に並んだ花たちは「すべてエリート」!?

坪田信貴(学習塾「坪田塾」塾長)
(画像=The 21 online)

はじめまして。坪田信貴です。私をご存じの方は、「学年ビリだった女子生徒を慶應大学合格に導いた塾の先生」というイメージをお持ちでしょう。しかし、実は私の専門分野は受験指導に限りません。もっと広範囲の学び──生きていく限り続く個人の「成長」を追求し、手助けしていくのが私の役割です。

もちろんビジネスパーソンの皆さんにとって成長は大きな関心事でしょう。ただ、中には「私は上を目指さず、自分らしくありたい」などと答える方がいるかもしれません。そんな方々はもしかすると「ナンバーワンよりオンリーワン」と歌う、「あの曲」にダマされているのではないでしょうか。

ダマされている、と言うのには理由があります。「あの曲」の歌詞は、「花屋に並ぶ花々は、種々の違いはあれど皆美しい」と言ったうえで、「比較するな」「ありのまま生きよ」と呼びかけています。

しかし、考えてみてください。あの花々はいずれも、店先に並ぶまでに苛烈な競争を潜くぐり抜けています。花の作り手や売り手は傷んだ花を除外し、見栄えの良いものだけを商品にします。つまり、あの花々は競争に勝ったエリート。それをオンリーワンの比喩に使うのは「嘘」と言わざるを得ません。

「では、成長とは他人との競争で勝つためのものなのか?」という声が聞こえてきそうですね。

しかし、その答えもNOです。

必要なのは、他者との比較で勝つことではありません。たゆまぬ自己改善を重ね、ときには競争に負け、傷つくことがあっても、自分の頭で考え、試行錯誤し、正しく問題を解決できる力を磨くことです。

そうした営みの先に、真のオンリーワンな人間性が形成されます。オンリーワンとは決して、「今の自分」に甘んじて踏みとどまることではないのです。

昨日よりも、良い自分になる──それが本書『どんな人でも頭が良くなる 世界に一つだけの勉強法』で紹介する「成長」の本質です。

ビジネスパーソンの「成長の9段階」とは?

以上を踏まえたうえで、ビジネスパーソンにとって最適な成長法について考えてみましょう。

それにはまず、自分が現段階でどのレベルにいるのかを把握することが大切です。

皆さんは現在、自らに課せられた仕事にどう対応しているでしょうか。

経営者でもない限り、ビジネスパーソンは「指示」を受けてそれを遂行します。ここで、指示されたとおりにできない=「やり方がわからない」といって投げ出してしまうのが「下の下」レベルです。

投げ出しはしないものの、事あるごとに「これはどうやるんですか?」と聞くのは下の中レベル。それに対して、自分で不明点を調べて指示どおりの成果物を出せるようになれば下の上レベルです。

ここまでは言わば、新人や若手のレベルです。中堅ともなれば、指示されたことに自分なりの工夫を上乗せする知恵がついてきます。この局面で、工夫をどう行動へと落とし込むかが、真に優れたビジネスマンになれるか否かの分かれ目です。

アイデアを考えつくだけで実行しないのは「中の下」。実行するものの周囲に相談せず勝手に行なうのは「中の中」。周囲の賛同を得たうえで実行するのが「中の上」。こうした仕事ができれば、自らはもとよりチームの成長も期待できます。ただ、ここで満足するのは禁物。この上にはさらにエキサイティングな世界があります。それは、「成功体験の汎用化」です。

1つの成功事例が出るたびそれを共有し、部署全体をシステマチックにレベルアップさせるのが「上の下」。ただしこれはまだ、目に見える範囲内での活動です。

上の中レベルの人は視野をさらに広く取り、それを商品化できないか、と考えます。たとえば、自分たちの業務用システムの改良に成功したら、そのノウハウもしくはシステム自体を商品にして売れないかという発想をします。

そして最上レベルに達した人は、その成功の本質を見極めたうえで成功事例を体系化し、他のジャンルにまで広げていきます。たとえば人材育成システムを企画開発にも生かす、などです。ここまでくると「創業者」となれる可能性も見えてきます。このように、人は成長するにつれて、小さな種から大きな可能性を引き出せるようになるのですが、その過程では発想力、実行力、コミュニケーション力など、さまざまなスキルが求められます。では、そのスキルを得るにはどうするか──その手段こそが「勉強」です。

日本人の9割が「バカを隠す」理由

「夢の膨らむ話の後に、いきなり『勉強?』」と、ウンザリされたでしょうか。そう、ビジネスパーソンのみならず、日本人は総じて勉強嫌いです。

その最たる要因は一律化された教育システム。典型例が「漢字の書き取り」です。覚えの悪い子はいくら時間をかけてもなかなか覚えられない一方、早い子供は同じ漢字を延々と書くことにすっかり退屈してしまいます。個人差を無視して同じ方法をとらせることで、すべての子供がストレスを抱くのです。 

ちなみに、教師たちにとっても漢字の書き取りは退屈な作業です。その子がどれだけ進歩したかではなく、単に「指定した回数をこなしたか」をチェックするのみなのですから。

さらに勉強嫌いを助長するのが、親の対応です。

どんな親も、子供が産まれる前は「健康ならそれでいい」と思うもの。ところが、産まれた子供が早々と言葉を覚えたり、瑞々しい感性を垣間見せたりすると、「うちの子って天才?」などと言い出します。 

それだけなら微笑ましい親バカで済みますが、問題はその後。学齢に入ると、親は子供を他の子と比較し始めます。そして自分の子供よりデキる子がいると「もっと勉強しなさい」と強要し、競争に勝てなければ露骨に落胆します。

こうした体験が、子供に挫折感を植えつけます。もちろん、学生時代を通して「自分がもっとも優秀」であった場合は別ですが、そんな人は日本中見渡しても数パーセント以下。それ以外の子供は皆、「トラウマ持ち」ということです。

このトラウマは後々まで悪影響を及ぼします。それはすなわち、チャレンジ精神の喪失です。目標を高く置くと「×」や「不合格」の確率が高くなるから避けよう、適当なレベルでお茶を濁そう、と考える習慣がついてしまうのです。

言うまでもなく、勉強の本来の目的とは自分自身の成長です。「できなかったことができるようになる」──つまり、バツだった問題にマルがもらえるようになることや、アイデア創出や仕事上の課題といった「答えのない問題」を解決すること。問題のハードルを自ら下げることで、「自分のできの悪さを隠すクセ」を社会に入った後も引きずると、「ビジネスパーソンの成長」は著しく阻まれることになります。

夢がないから成長できる?

そのためにも、早々にトラウマの払拭を図りたいところ。その方法は、意外に簡単です。新たな成功体験によって失敗体験を上書きすればいいのです。

たとえば大学受験に失敗したのなら、新たに資格試験にチャレンジしてみましょう。合格し、自らに誇りを感じることができれば、失敗の記憶は上書きされます。

ポイントは、「誇り」という主観的感情です。世間的な基準ではなく、それを行なうことで自分が納得感や達成感を得られるかどうかが大事です。

さて、ここで「したいことがわからない、とくに夢も目標もない」という人もいるでしょう。しかし「それなら勉強など不要」と決めつけるのは間違いです。したいことがないなら、「人が求めていること」をすればいいのです。このアプローチは、生半可な「夢」より大きな可能性を持っています。誰かのニーズこそ、すなわちビジネスチャンスだからです。ぜひ、周囲の不満や不便を掘り起こしてみてください。

たとえば、会社の情報管理システムの煩雑さに皆が悩んでいるなら、「プログラミングを学んで、自らシステムを構築する」というのもいいでしょう。どんな分野も、1年もかけて学べば一定のレベルに達するもの。そうなれば周囲にとって貴重な人材になれます。

社内に限らず、生活のあらゆる場面でニーズを探すのもおすすめ。「街がもっとキレイならいいのに」「介護の人手が足りない」といった声に接するたび、「これを解決するには?」と考えてみるのです。

最初はまるでイメージが湧かないかもしれません。しかし、これもまた「勉強」です。周囲の声を聞き、そこにある問題を掘り下げ、解決策を考えることは、あらゆるビジネスパーソンにとって有益な訓練となるはずです。

ビジネスパーソンの成長とそのための勉強が、いかに多くの可能性を引き出すか、感じていただけたでしょうか。次回からは、さらに具体的な方法について、解説していきたいと思います。

どんな人でも頭が良くなる 世界に一つだけの勉強法
(画像=Webサイトより)
『どんな人でも頭がよくなる 世界に一つだけの勉強法』

坪田信貴(つぼた・のぶたか)学習塾「坪田塾」塾長
心理学を駆使した学習法により、1,300人以上の子供を個別指導し、多くの生徒の偏差値を短期間で急上昇させた実績を持つ。2013年、著書『学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した話』(KADOKAWA)が大ヒット。その後も受験指導のみならず、企業の人材教育や起業アイデアの指導、講演活動等多角的に活躍中。(取材・構成:林 加愛)(『The 21 online』2017年9月号より)

【関連記事 The 21 onlineより】
最速最短で試験に 合格する「ずるい暗記術」
東大首席・山口真由が教える「7回読み勉強法」とは?
なぜ、勉強しても「成績が伸びない」のか?
大人は「丸暗記」より「経験の記憶」が重要
社会人の勉強は、「暗記」しても身につかない!