「眠る力」の衰えを「質」でカバーする!

疲れリセット術
(画像=The 21 online)

40歳前後になると出てくる「疲れがなかなか取れない」「若い頃のように働けない」という悩み。「疲労」はなくすことができないとしたら、私たちはどのようにつきあっていくべきなのだろうか。第2回のテーマは「睡眠」。医師であり、コンサルタントとしても活躍する裴英洙氏に、疲れをリセットする睡眠術についてアドバイスをいただいた。

睡眠はビジネスマンの「明日への投資」

「疲労には3つの種類がある」と、前回お話ししました。①筋肉の酷使で起こる肉体的疲労、②人間関係のストレスなどによる精神的疲労、③長時間のパソコン作業などによって起こる目や脳の神経的疲労です。

これらを解決する最大の方策が「睡眠」です。質の良い睡眠を取れば、3つの疲れのいずれも、軽減することは可能です。

その理由は、睡眠の2つのタイプにあります。睡眠には、浅い眠りの「レム睡眠」と、すやすや・ぐっすりと深く眠る「ノンレム睡眠」があり、それぞれ違った役割を持ちます。レム睡眠は「頭と心の疲れ」を、ノンレム睡眠は「身体の疲れ」を中心的に癒す役目があるのです。

睡眠中には成長ホルモンが分泌され、日中の活動で傷ついた身体の組織を修復します。同時に、脳内の記憶や感情を整理したり、メンタルの状態も整えます。ですから、眠るときはレム睡眠とノンレム睡眠の両方を取る必要があるのです。両者は一定の周期で交互に訪れますが、寝入りばなはノンレム睡眠が出やすく、次第にレム睡眠の出現が多くなります。つまり、ある程度の時間を眠らないと十分なレム睡眠が取れず、頭や心の疲労が取れにくい状態となります。

ですから、睡眠を削ると頭や心に疲労が残り、パフォーマンスが下がって大きなミスや事故につながる恐れもあるのです。

一流のビジネスマンは、睡眠を大事にし、とくに大事な仕事に際しては「前夜の就寝時間」をきちんと設定します。この「一日の仕事は前夜の十分な睡眠から始まる」という考え方は、働く人に必須の視点です。睡眠を、翌日の仕事への「投資」と考えることが、疲れない身体と高い成果の基盤となるのです。

通勤時間のうたた寝は疲れを増やすだけ

一方、40代は「眠る力」が落ちてくる時期でもあります。

疲れているはずなのに、眠れない・途中で起きてしまう・まだ暗い早朝に目が覚める、といった変化が表われてくるのです。

その原因はまだ完全には解明されていませんが、主因はホルモンバランスが崩れて、眠気を誘うホルモン「メラトニン」の分泌が乱れてくるのが一因といわれています。さらにその原因となるのが、ホルモンを作り出す内分泌器官の機能低下。加齢とともに筋肉量が落ちるのと同じく、内臓の力も若い頃のようにはいかないのです。

内臓の力といえば、胃腸の消化力低下も睡眠に影響します。胃がもたれて眠れないという夜を、多くの方がしばしば経験されるでしょう。これも、眠りの質を下げる一因となります。眠る前の暴飲暴食は消化管の負担を強いるだけでなく、胃もたれなどの不快感の原因になるので、40代を超えたら避けるように心がけましょう。

今、40代の皆さんに必要なのは、こうした現実を受け入れつつ、それに対抗しうる「眠りの知恵」をつけることです。

たとえば就寝後の胃もたれを避けるなら、脂っぽい食事を避ける、寝る直前には食べない、残業する日は早めの夕食を摂り、就寝前はホットミルク1杯で済ませる、などが賢い方法です。

また、眠りにまつわる「思い込み」を解くことも大事です。

たとえば朝の通勤電車。シートに座ってこんこんと眠るビジネスマンをよく目にしますが、これでは疲れは取れません。かえってだるくなったり、首や肩が凝ったりするはずです。

なぜなら座った姿勢や不自然な姿勢で眠ると、頭の重さが首や肩に集中してかかるからです。加えて、起きるタイミングを自分でコントロールできないのも問題。深い眠りの状態であるノンレム睡眠の真っ最中に目的地に着いてしまうと、ひどい倦怠感を味わうことになります。寝不足は通勤電車ではなく、前後の睡眠時間で調整しましょう。その他、40代によく見られる間違いは、眠りが浅くなったことに焦りを覚えてしまうこと。夜中に目が覚めたとき過剰にナーバスになり、かえって目が冴え、さらに焦る、という悪循環に陥る人は少なくありません。

そんなときは無理に眠ろうとせず、ぼんやりと目を閉じたまま横になりましょう。布団から出るにしても、「せっかくだからこの時間に仕事をしよう」などと思わず、ただボーッと過ごしましょう。「ボーッとする」こともまた、頭や心の疲れを取るためには欠かせない時間なのです。

「身体の近くにあるもの」から改善する

これらを踏まえたうえで、眠りの環境を整えましょう。

まず、寝室に仕事関係のものを持ち込むのは厳禁。できれば、スマートフォンでの閲覧も避けたいところです。液晶画面の「ブルーライト」は光刺激が強すぎ、インターネットのコンテンツも興味喚起するものが多いからです。どうしても止められなければ、「30分だけ見る」→「20分で止める」というように、段階的に脱習慣化を図るのがコツ。

眠りにつくまで考え事をする際にも心がけることがあります。翌日の業務について気をもんだり、失敗をクヨクヨ振り返ったりと、マイナス思考ばかりになると心の疲労が回復しません。意識的に「今日、良かったこと」「明日、楽しみなこと」を思い浮かべるようにしましょう。

一方、身体のストレス――寒さや暑さ、痛みやかゆみ、冷えや湿気などの対策も重要。そのコツは、「身体の近くにあるものから」改善することです。

吸湿性が高く、肌触りの良いパジャマを選ぶ→同じく吸湿性の良いシーツとマットを選ぶ→掛け布団や毛布の枚数を調整→それでも寒い・暑いといった不具合があればエアコンで調整、という順番で考えると、上手に環境を整えられます。

これらの工夫で、睡眠の質は劇的に変化する可能性があります。多忙なビジネスマンはどうしても睡眠時間が短くなりがちですから、そのぶん少しでも質の向上を図りたいところです。

もちろん、仕事内容によって「どうしても徹夜せざるを得ない」という場合も、対策はあります。それは「先読み」。事前にその機会が訪れるタイミングを予測し、その前後の仕事を効率化・短縮化しておきます。そのうえで、徹夜当日はひたすら集中して働きましょう。

その翌日は疲れを取ることを最優先に。仕事量は少なく、内容も単純なものにし、定時には退社、帰ったら早めに寝ること。これでダメージは最小限に抑えられ、早期回復を果たせます。

最後に、以上のような工夫や先読みの精度をさらに高める「睡眠ログ」についてお話ししましょう。ご自身の睡眠を「見える化」するのです。

基本的には入眠時間・起床時間・睡眠時間・目覚め感を3段階で評価したものを記録するだけでOKですが、その日何をしたか、職場での調子はどうだったかなどをメモするとさらに有用なデータになります。

数日分のログが溜まったところで読み返せば、「何時間眠れば調子がいいか」「前日に何をすると疲れが残るか」などの自分の傾向が見えてきます。

「良い睡眠習慣」は人それぞれ異なります。自分にとっての良い習慣や問題点を見つけたら、こまめにカスタマイズする。それにより、睡眠という「明日への投資」は、大きな成果となって返ってくるでしょう。

裴 英洙(はい・えいしゅ)
ハイズ〔株〕代表取締役社長/医師/医学博士/MBA
1972年、奈良県生まれ。金沢大学医学部卒業後、金沢大学第一外科に勤務。医師として働きながら、慶應義塾大学大学院経営管理研究科(慶應ビジネス・スクール)を首席修了。ビジネス・スクール在学中に、医療機関再生コンサルティング会社を設立。現在も医師として臨床業務をしつつ、医療機関経営に関するアドバイスを行なう。著書に、『一流の睡眠「MBA×コンサルタント」の医師が教える快眠戦略』(ダイヤモンド社)など。(取材・構成:林 加愛 写真撮影:まるやゆういち)(『The 21 online』2017年5月号より)

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