人生の選択肢を広げる「大人の勉強法」

坪田信貴(学習塾「坪田塾」塾長)
(画像=The 21 online)

長寿化および定年延長により、誰もが70歳近くまで働く時代。そんな中、自由な働き方を実現するために、キャリアや人生の選択肢を広げる「大人の勉強法」を、カリスマ塾長の「ビリギャル先生」こと坪田信貴氏が解説する『どんな人でも頭が良くなる 世界に一つだけの勉強法』。第2回目は、確実に結果に結びつく「勉強の基本」をご紹介する。これさえ身につけば「勉強なんて簡単だ」という、その方法とは?

勉強とは「微調整」の連続である

前回は、「勉強の目的は自分自身の成長である」という話をしました。勉強が、人間の可能性をいかに切り拓くかを実感していただけたなら幸いです。今回はいよいよ、「実際に、どう勉強すればよいのか」についてお話しします。──と言うと、多くの方は「簡単で効率的、誰でもスイスイできるようになる『魔法』を教えて欲しい!」と考えるのではないかと思います。最初に申し上げておくと、そんなものは存在しません。

理由は2つあります。1つは、「万人に適合する絶対的な勉強法はない」ということです。

みなさんもすでに薄々お気づきでしょう。巷には勉強法の書籍が溢れていますが、それを読んだ全員が大変身、などという話は聞いたことがありません。性格や志向、興味の対象などによって、自分に合った勉強法はそれぞれ違うのです。

もう1つの理由は、「自分に合った方法」も年齢とともに変わるということ。とりわけ大きく変わるのは記憶力です。10代がピークで、その後は下降していきます。受験生の頃と同じ要領で暗記しても、昔のような吸収力は望めないのです。

一方、40代ともなると、人生経験が豊かになるぶん、10代の頃にピンとこなかったことも、すぐに理解できることが増えてきます。だからこそ丸暗記ではなく、衰えた記憶力を理解力でカバーする勉強法にシフトしていくべき。その点からも「自分はこう」と1つのやり方だけに固執するのは禁物なのです。

適した勉強法は1人ひとり違い、自分の中でも絶えず変化する。年齢と共に体型が変わったら、服のサイズを変えるのと同じです。では、必要となるのは何か。それは、勉強法の微調整を繰り返すことで、今の自分にとってベストなスタイルを模索し続ける作業なのです。

「PDCAサイクル」で最適な勉強法を見つける

「要するに、『自分で見つけてね』ということ?」「話が終わってしまったじゃないか!」と憤慨する方もいるかと思います。ですが、それは早計です。

その見つけ方、つまり「微調整の繰り返し」には、きちんと方法論があるからです。それは、ビジネスの世界では常識となっている、計画(Plan)→実行(Do)→検証(Check)→改善(Act)を繰り返す「PDCAサイクル」です。ただ、勉強の場合、そのプロセスはもう少々細かく、6段階あります。順を追って説明していきましょう。

第1段階は「仮説」。自分に合っているかもしれない、と思う勉強法を想定することです。

たとえば、英単語を暗記するにあたって、「手を動かして覚えるのが得意だから、毎日5個の単語をノートに10回ずつ書けば、1週間で35個覚えられるはず」などといったように、方法を決めるのです。

第2段階は「実験・観察」。仮説を立てた勉強法に従って実行してみます。まずは1週間、同じ方法を続けていきましょう。

第3段階、というより第2段階と並行して行なうのが「記録」。毎日の勉強内容を、簡単に書き記していきます。学んだ箇所、所要時間、加えて「手応えあり」「飽きてきた」などの簡単な所感も書いておくといいでしょう。

第4段階は「分析と検証」。1週間かけて行なった勉強内容をどれだけ理解できたかを自分でテストし、記録も踏まえつつチェックします。

その結果「書いて覚える」方法が最初に期待していたほど効果がないと感じたら、他の方法を試す必要があるでしょう。たとえば「声に出して読む」など別の仮説を立て、また1週間、「仮説」「実験・観察」「記録」「分析・検証」を繰り返します。

こうして「PDCAサイクル」を回し続けると、自分に合った方法がいくつか見えてくるはずなので、今度はそれらを比較検討し、より成果の高い勉強法を採用します。そして、続けていくうちにいくうちに、手応えのある勉強の法則性もわかってくるはず。そこで、第5段階の「一般化」に入ります。

たとえば、「英単語は朝に5回書いて、夜に見直す方法が1番」という法則性を発見できたとしたら、それを別の科目の勉強やビジネスにも応用していくのです。営業マンなら、顧客情報のインプットなどに活用することで、業務効率もサービスの質も大いに改善できます。

ただ、その中で「何にでも応用できるわけではない」という気づきもあるはず。これが第6段階の「例外の発見」です。

どんな法則にも必ず例外はあります。うまくいかないとわかったら、その「例外用の仮説」を立てること。「英単語と違って、顧客情報は、書くよりも黙読を繰り返すほうが頭に入る」など、新しく自分用のノウハウを作っていくのです。

PDCAをマスターすれば勉強なんて「超」簡単

以上の要領でこのサイクルを回し、違和感が出るたびに微調整しましょう。このプロセスは、一言で言うと「トライ&エラー」。あれこれ試しながら、その時々のベストな方法を探り続けること、これを心理学では「試行錯誤学習」と呼びます。「エラーばかりが続くと嫌になるのでは」という心配は無用。実際に2?3個の仮説を実践するとわかりますが、合う勉強法は、合わないものとは快適さのレベルも、吸収・定着率も段違いです。仮説同士を比較して良いほうを選ぶ繰り返しの中でトライの精度も上がるので、微調整の作業もラクになります。

 最も良くないのは、検証もせずに投げ出してしまうこと。たとえ自分に合わなくても、「この方法は苦手らしい」と教えてくれる、ありがたい情報です。検証のサンプル増えるほど、効果の高い勉強法の再現性が高まります。成功・失敗にかかわらず、なるべく多くのサンプルを集める必要があります。このPDCAさえ正しく回して改善を重ねていけば、自然と勉強はできるようになります。いくら勉強しても成績が伸びなかった人は、頭の出来が悪いのではなく、単に勉強のやり方を間違っていただけ。そのうち「勉強なんて簡単だ!」と、確実に実感できると保証します。

勉強を通じて「巨人の肩」に乗る

「仮説」「実験・観察」「記録」「分析・検証」。このサイクルには、科学の授業に出てきそうなキーワードがたくさん登場しますね。そう、試行錯誤学習とはひとつの「科学」なのです。科学の発展はすべて、このサイクルの上に成り立っています。あらゆる発明品は試行錯誤を積み重ねて生み出され、現在も改善の途上にいるのです。

少し話が逸れるかもしれませんが、あらゆる発明は、「人間の機能を拡張する」といった目的があるのをご存知でしょうか。

たとえば、人体は「発声する」機能を持っていますが、その声をより遠くまで届かせるために電話が発明されました。自転車や自動車、列車、飛行機も、人間が歩いたり走ったりして「移動する」機能の拡張です。

これらの歴史を支えてきたのは、「人間は、より良くなれる」という、科学の根本にある信条。科学の目的は、人類という集団全体の発展。人はみな、過去の人々が作り出した知識や知恵を「乗り物」にして、さらにその先へと歩みを進めるのです。

西洋では、これをしばしば「巨人の肩に乗る」と表現します。ニュートンは、「私が彼方を見渡せたのは、ひとえに巨人の肩の上に乗っていたから」と語ったとか。彼の偉大な業績も、過去の知恵の蓄積の上に成り立ったものなのです。

たとえば「九九」もそのひとつ。「1ケタの掛け算の答えをすべて丸覚えするフレーズ群」を先人が作ってくれたおかげで、迅速に計算することができます。私たちはひとりで思考を巡らせているようで、ちゃっかりと巨人の肩を借りているのです。

私も、今回の連載を通して、そんな「巨人の肩の一部」を皆さんに提供したいと思います。それこそが、試行錯誤の精度を高める「タイプ別勉強法」です。

勉強法との相性は、その人の認知や行動の傾向によって決まります。私は科学的アプローチによって、それを9タイプに分類しました。次回は、その全貌を紹介しましょう。皆さんが自分のタイプを見極め、それぞれに合った方法を見つける一助となればと思います。

どんな人でも頭が良くなる 世界に一つだけの勉強法
(画像=Webサイトより)
『どんな人でも頭が良くなる 世界に一つだけの勉強法』

坪田信貴(つぼた・のぶたか)学習塾「坪田塾」塾長
心理学を駆使した学習法により、1,300人以上の子供を個別指導し、多くの生徒の偏差値を短期間で急上昇させた実績を持つ。2013年、著書『学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した話』(KADOKAWA)が大ヒット。その後も受験指導のみならず、企業の人材教育や起業アイデアの指導、講演活動等多角的に活躍中。(取材・構成:林 加愛)(『The 21 online』2017年10月号より)

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