社員の休息のため、社長が課した仰天ルールとは

吉越浩一郎,休息の技術,休める職場
(画像=The 21 online)

トリンプ・インターナショナル・ジャパン社長時代、19期連続増収増益という記録を打ち立てた吉越浩一郎氏。徹底的な"デッドライン付き仕事術"で残業ゼロを実現したことは有名だが、実は、この仕事術を下支えする重要な要素が「休息」だったと言う。圧倒的なアウトプットのための、一流の休息術についてうかがった。(取材・構成=林 加愛、写真=永井 浩)

2週間連続休暇を強制、そこで起きた珍事とは?

長時間労働は「無能の証」と断言する吉越浩一郎氏。トリンプ・ジャパン社長時代は残業ゼロを徹底、定時になると自らフロアの電気を消して回ったという「伝説」も残っている。

「仕事というものは本来、就業時間内のパフォーマンスが問われるもの。『時間内で』という縛りがあってこそ、効率を上げる工夫ができる。それが個々人の能力の向上につながるのです」

限られた時間を濃い密度で働くということは、「質の高い休息を取る」ということと表裏の関係にある。

「集中して働けば、疲労が溜まって能率が落ちます。それをリセットするには休息が不可欠。それも細切れではなく、まとまった休みを取るべきです」

そして、社長就任後ほどなく、「課長職以上は少なくとも年1回、2週間連続で有給休暇を取るべし」というルールを作った。

「最初はかなりの抵抗を受けました。本人たちはもちろん、その部下たちから『課長が2週間も留守では仕事が回らない』と苦情が出たこともあります」

しかし、吉越氏が耳を貸すことはなかった。「自分がまとまった休みを取りたかったから」と笑うが、現実問題として、誰かが2週間いないだけで成り立たないという仕事のあり方こそ正されるべき、と考えたからだ。

「情報共有の不徹底、部下の自立度の低さ、それを許している課長のマネジメント。それらを改善するためにも、強制力が必要でした」

多くの人が連続休暇を取れるようになったある年からは、ルールの浸透を図るため「2週間連続休暇を守れなかった者は、翌年の連続休暇禁止」という罰則まで設けたが、これは思わぬ結果を招いた。

「ある課長が、『去年のペナルティで今年は休暇が取れませんでした。ということは来年も、再来年も、私は長期休暇がとれないのでは!?』と訴えたのです。言われてみればそのとおり、すぐ改定に(笑)。そのような珍事もありつつ、徐々に皆、慣れてくれました」

社長在任中、同社は「19期連続黒字」の快挙を達成している。そのパフォーマンスの裏に、一連の「戦略的休息術」があったことは言うまでもない。

40代で始めたい「自主的な身体づくり」

当時、40代だった吉越氏がもうひとつ実践していたのが、「8時間睡眠」だった。

「これも『質の高い仕事』を追求した結果です。それには早朝から仕事を始めて早く寝ることだ、と気づいて始めたこの習慣は、現在も続いています。社員にもきちんと寝るよう口を酸っぱくして言っていました」

休息を重視する意識は、社長を退いた今も変わらず──というより、むしろ高まりつつある。

「年齢を重ねれば身体は変わるもの。早くから身体を整える重要性をいよいよ強く感じます」

そんな吉越氏の欠かせない習慣が「ストレッチ」。起床時や就寝前はもちろん、テレビを見ている時間や読書中など、機会を見つけては行なっている。

「おかげで腰痛が解消しました。毎年のフランス滞在中は必ずゴルフを楽しむのですが、週3回という頻度も、全コース徒歩移動というハードな行程も、なんのその。肥満とも無縁です」

ちなみにこのストレッチ、指導者に教わったものではなく、自ら考案したものだと言う。

「骨盤を立てること、肩甲骨を締めることを意識しながら、開脚したり腕を伸ばしたり。単純な動きですから、誰に教わる必要もありません」

このように、働く人は身体のメンテナンスを「自ら考え実践する」意識を持つべきだと語る。

「30代、40代と年を重ねて体力が落ちてきたにもかかわらず、『いいマッサージ屋さんはないものか?』と他力本願なことを言う人が多いですね。自主的・積極的に考えれば、もっと簡単な改善法が目の前にあるはず。

ちなみにユニクロの柳井正さんも、お風呂で1時間ストレッチをするそうです。自分の身体に合った方法を自ら考え実践するのは、結果を出すビジネスマンの共通項と言えます」

「体力を残した状態」で週末を迎えられるか?

体力の維持を何より重視する吉越氏。そこには、仕事のパフォーマンスの基盤を体力に置く考え方がある。

吉越浩一郎,休息の技術,休める職場
(画像=The 21 online)

「気力、すなわち『自信とやる気』があってこそ能力を出せるのです。そしてその気力は、体力という基盤がなくては維持できません。これらの基盤を確かなものにするために、休息が不可欠なのです」

日本人にはこの発想が根本的に欠けている、と吉越氏は憂慮する。

「能力を発揮するには、気力が落ちた段階で休むことが大事。日本人はそこを通り越し、体力が損なわれるまで働いてしまいます。体力を残した状態で週末を迎える欧米のビジネスマンとは対照的です」

体力のある状態で週末を迎えれば、スポーツや散歩、ときには旅行などの「気分転換」で気力も復活させることができる。

「身体を動かす、旅先の景色を見るなど、平日とひと味違う体験をすると、心が一新されます。それにより、前週の課題を翌週にすんなり解決できる、といった効果が得られます」

ところが、気力のみならず体力までが損なわれると、気分転換の効果は激減する。それどころか、新たな刺激がさらに体力にダメージを与える危険すらあるという。

「土日は疲れ果てて眠るのみ、という人もさることながら、無理して外に出てさらに疲れている人はより深刻。疲労が溜まる負の連鎖に陥ります」

「休める職場作り」がリーダーの役目

この状態に陥ってしまった人に必要なのは、「仕事の仕方」を根本的に見直すことだ。

「金曜日の夜の時点で、体力に余力を残すことを目標にしてください。つまり、平日に疲れを蓄積させないことが鍵なのです」

そのための方策は、吉越氏がトップとして社員に指導した方法と一致する。残業ゼロ、朝時間の有効活用、そして、すべてのタスクにデッドラインを設定して時間内に終わらせるべく、集中することだ。

「ここはリーダーの責任が問われる場面でもあります。『帰りづらい雰囲気』を作っていたり、明らかに疲労の見える部下を見すごしたりするのはもってのほかです」

まずは自分の身の周りから、「休める職場」を作っていくことを勧める吉越氏。

「部下に指示する際には明確に期限を設定し、わき目もふらずに仕事をさせる。そして定時の業務終了を徹底する。こうしてさっさと仕事を済ませ、夜や週末はリラックスやリフレッシュに使うことを勧めます。

これを徹底すれば、自身とチームメンバーの心身を整え、仕事の成果をますます磨き上げることにつながるでしょう」

吉越浩一郎,休息の技術,休める職場
妻との「本生」を楽しむべく、現在も休暇を満喫する吉越氏。吉越氏は、ちまたで「余生」と言われる60代以降の人生を「本当の人生」という意味で「本生」と呼んでいる。「ほんせい」と読みそうになるが、語呂がいいので「ほんなま」。「いくつになっても艶めかしく!」というメッセージもこもっているという(笑)。写真は妻と友人らとともに、フランスでのショット。(画像=The 21 online)

「笑い」は最高の休息である

社長在任中、タスクのすべてにタイトな期限を設けて厳守させていた吉越氏。その厳しさはつとに有名だが、その一方で対照的な一面も。

「テレビの取材を受けた際には、社長の私が頭にパンツをかぶりました(笑)。社員と話すときはジョーク連発、ランチに誘っては面白い話をしていました」

これは、仕事の合間に「笑い」というつかの間の休息を取ってもらうためだった。

「人は笑うと気持ちが切り替わります。どんなに大変でも、笑うとまたやる気が出る。ついでに、笑わせることで『社長、厳しすぎるぞ』という不満も消えてくれれば万々歳!」

──と、ここでも冗談が飛び出す吉越氏だが、この緩急こそが結果を出すリーダーの秘訣だ。

「仕事に必要なのは、厳しさと明るさ。その双方を醸成することが大事なのです」

吉越浩一郎(よしこし・こういちろう)トリンプ・インターナショナル・ジャパン元社長
1947年、千葉県生まれ。上智大学卒業後、極東ドイツ農産物振興会、メリタジャパンなどを経て、83年にトリンプ・インターナショナル(香港)に入社。92年にトリンプ・インターナショナル・ジャパン代表取締役社長に就任し、在任中、19期連続増収増益を達成。2004年には「平成の名経営者100人」(日本経済新聞社)に選出された。06年の退任後は経営コンサルティング、講演等を中心に活躍。著書『結果を出すリーダーの条件』『社長の掟』(以上、PHPビジネス新書)ほか多数。(『The 21 online』2017年12月号より)

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