アジアの技術系ニュースを配信するメディアTech In Asia(シンガポール)に、「2017年の中国10大投資」という一文が発表された。中国のニュースサイト「今日頭条」がこれを詳しく紹介している。要は最も多くの資金を集めたネット関連企業10社のランキングである。

記事は、「2017年は科学技術にとって豊作といえる1年だった」と始まっている。多くの投資を集め、さらに大きな果実を摘み取るであろう、現代中国で最も注目される10社とは、一体どの会社だろうか。

第10位 菜鳥網絡 Cainiao(物流)融資規模 7億9900万ドル 24時間以内の全国配送目指す

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(画像=vectorsector / Shutterstock.com)

菜鳥網絡科技有限公司は、2013年5月に深センで設立された。阿里巴巴集団と、銀泰集団、復星集団、富春集団、申通集団、圓通集団、中通集団、韵達集団など15社の有力物流会社との共同である。阿里巴巴は51%を保持する最大株主だ。

董事長(会長)には、阿里巴巴の創業者、馬雲が自ら就任している。ネット通販の発展をけん引する、China Smart Logistic Network(CSN)の確立を目指す。

実務を担うのは、菜鳥物流という別会社である。2020年を一つのメドとして、オープンな物流プラットフォームを確立する。全国どこの地区でも、24時間以内の配送体制を目指している。

第9位 摩拜単車 Mobike (シェアサイクル)融資規模 8億1500万ドル イタリア、オランダ進出

北京摩拜科技有限公司は、2015年1月、北京で設立されたシェアサイクル(貸自転車)大手である。スマホ1台ですべて完結するシステム。現在、国内外100近い都市で展開している。

2016年
4月 上海で展開を開始、実名登録制を導入。保証金299元で、即レンタル可能に
10月 新型軽量自転車、8.5キロの mobike lite を導入

2017年
2月 プライベートバンク最大手、招商銀行と戦略提携
3月 シンガポール進出。中国最大のSNS微信と連携
4月 微信との連携効果で、前月比200%を達成
5月 国内外展開都市80を突破、自転車400万台、一日の利用件数2000万回
7月 イタリア進出。フィレンツェとミラノ
11月 オランダのロッテルダムに進出

第8位 餓了麼 Ele.me (フードデリバリー)融資規模10億ドル 紆余曲折経て阿里巴巴系に

餓了麼は、2009年に上海で設立されたフードデリバリーサービス大手である。2017年6月の段階で、全国2000都市で展開、加盟飲食店130万軒、従業員1万5000人以上。

2009年
4月 上海で正式にアプリを公開
2011年
7月 北京、杭州に支店開設
11月 1日の利用回数1万件を突破。中国最大のフードデリバリーサービスに
2014年
5月 大衆点評の投資受入れ、広範囲に業務提携
2015年
8月 騰訊、京東の投資受入れ
12月 阿里巴巴が投資、株式の27.7%を掌握、筆頭株主に
2016年
4月 阿里巴巴、及びアントフィナンシャルと戦略提携
2017年
8月 同業の「百度外売」を買収

第7位 字節跳動 Bytedance (メディア) ニュースサイト「今日頭条」を運営

おそらく80%の人は字節跳動を知らないだろう。しかしニューサイト「今日頭条」は誰でも知っている。北京字節跳動科技有限公司とは、その今日頭条の運営開発会社である。2012年3月に北京で設立された。現在の1日平均読者数は1億2000万人、閲覧時間は74分である。提携メディアは3700社に及ぶ。

一方動画作成プラットフォーム「Musical.ly」を買収し、ソーシャルメディア分野へも進出した。さらに動画編集アプリ「Flipagram」「Topbuzz」ショート音楽動画の「Tik Tok」を合わせ、一大メディア帝国を目指す。

2015年
5月 国内の旅游社交ネットと提携、総合観光サービスに進出
2017年
7月 中国科学院の雑誌「互聯網週刊」で中国ユニコーン企業の3位に選出される
11月 中国電信集団公司と戦略提携

第6位 口碑 Koubei(生活サービス)融資規模11憶ドル 電子版イエローページ

阿里巴巴グループの、O2O生活サービス情報を担う。オンラインイエローページとしての役割が強い。消費情報、商店検索や批評、電子優待券やポイントサービスなどを行っている。阿里巴巴集団のモバイル決済「支付宝」ネット通販サイト「淘宝」と連動している。阿里巴巴の唱導する“新商業文明”の生活サービス領域を担当。

2004年
6月 口碑ネット、正式アップロード
2006年
10月 阿里巴巴集団が投資。同集団にとって、初の外部企業への投資案件
2008年
9月 中国ヤフーと連合、ユーザー数、検索技術など大幅アップ
2015年
6月 阿里巴巴とアントフィナンシャルそれぞれ50%ずつで株式独占

第5位 小黄車 ofo シェアサイクル 融資規模12憶ドル シェアエコノミーと環境保護を推進

Mobike共享単車は、2014年に北京で設立された。現在のシェアサイクル市場では、摩拜単車とならぶ2トップである。たいていの街角は、ofoの黄色、Mobikeのオレンジ色の自転車で、2分されている。

2016年
9月 滴滴出行(配車アプリ最大手)がofoに戦略的投資。都市交通における全方位的提携
12月 深セン市に展開、深セン地下鉄と戦略提携。サンフランシスコ、ロンドンで試験運用
2017年
3月 Uber本社中国責任者だったマイケル・チャン氏を引き抜き
3月 芝麻信用と戦略提携。芝麻信用650点以上の顧客に99元の保証金を免除
8月 全世界で使用可能なアプリの導入開始

第4位 蔚来 NIO (自動車の設計、開発)融資規模17億ドル 

蔚来は2014年、上海で設立された、電気自動車やスマートカーの設計、開発に特化した会社である。生産は国内メーカーに委託する。テスラより上位の自動車会社を目指す。フォードとマセラッティの幹部だったMartin Learch氏を総裁に迎えた。従業員は300人。

2016年
4月 江准汽車と戦略提携。新エネルギー車、スマートカーの生産で合意。年5万台の計画
2017年
4月 長安汽車と戦略提携。新エネルギー車の研究開発、生産、販売、サービス等の合弁会社設立の意向を確認
5月 C輪融資に、騰訊、百度などネット大手が参加

第3位 易鑫車貸 Daikuan (自動車金融)融資規模20億ドル。オンライン自動車金融トップ。

易鑫車貸は、易車、騰訊、京東、百度が共同出資で立ち上げた、オンライン自動車金融プラットフォームである。各種自動車ローンや自動車保険を取扱い、金融資産規模は200億元、ネット上の申請資金は1日当り20億元、全国300都市以上で業務を展開している。

2015年
1月 騰訊、京東から2億5000万ドルの現金融資
2016年
8月 京東金融がオンライン自動車金融を開始、易鑫車貸は独立経営に。その一方騰訊、京東、百度が5憶5000万ドルの融資

第2位 美団点評(生活サービス)融資規模40億ドル 攻めの経営へ、業界の“台風の目”

美団点評は、2015年10月、共同購入を主体とする「美団」と、生活サービスの「大衆点評」が合併して成立した。美団には阿里巴巴が、大衆点評には騰訊、京東がそれぞれ融資をしていた。合併後に阿里巴巴は美団点評からの退出を表明した。今のオンライン生活サービスは、阿里巴巴旗下の「餓了麼」「口碑」と「美団点評」の“三足鼎立”となっている。

2016年
1月 美団点評としての第一回融資が33億ドル超え
9月 「銭袋宝」を買収、モバイル決済の認可を獲得
2017年
2月 南京市で配車アプリサービスへ進出
7月 生鮮スーパー「掌魚生鮮」を開業
8月 スマホ充電器貸出しの「充電宝」サービス開始
9月 美団旅行の名で観光業へ進出
11月 生活サービスプラットフォームを対外開放

第1位 滴滴出行(配車アプリ)融資規模55億ドル ライバル出現 AI化に注力

滴滴出行(北京小桔科技有限公司)は2012年6月に創業した。同年9月から配車アプリをアップロードすると、瞬く間に世界最大の配車アプリに成長した。2016年は、Uberを中国から撤退に追い込み、アップルからの融資を獲得するなどライバル不在で好調だったが、2017年には、美団点評の新規参入を許した。今後は国内外でのAI研究開発に注力する。

2013年
4月 B輪融資、騰訊から1500万ドルを得る
2014年
1月 騰訊のモバイル決済使用で、乗客、運転手の双方に値引きを提供
2016年
5月 米アップル社が滴滴出行に10億ドルの投資。
6月 滴滴出行が保険大手「中国人寿」に6億ドルの戦略投資。オンライン金融で全面提携。
2017年
11月 米国シリコンバレーに新事務所を開設。3340平方m。将来は200人体制に
2018年
人工智能実験室(AI Labs)の設立発表

トップ4はテンセントの影響強し

この10社はいずれも新しい企業だ。2003~2004年にスタートした大衆点評と口碑が最も古い。シェアサイクルの2社は、2014~2015年の創業で、すでに欧州進出まで果たしている。恐るべきエネルギーである。彼らは物流の菜鳥と自動車の蔚来を除けば、モバイル決済の普及という新しく登場したネットインフラを、存分に生かし切っている。ここが日本との大きな違いである。

そして1位~4位はいずれも騰訊色が濃い。阿里巴巴系は6位、8位、10位の3社である。阿里巴巴、アントフィナンシャルの投資、買収ニュースばかり目立った昨年だが、騰訊も負けていない。

日本はこの爆発的エネルギーと、うまく付き合っていかなければならない。こちらの受け手も新興企業となるだろう。稟議などに時間を浪費する伝統企業の出番ではあるまい。(高野悠介、中国貿易コンサルタント)