年が明けて、受験シーズン真っ盛り。受験生を抱えるご家庭は何かと大変な時期だろう。わが家は、近所の公立中学に入学したばかりの娘が一人いるだけだが、数年後の高校受験を想像するだけで、ドキドキしてしまう。なぜ、子どものこととなると、自分のこと以上にこんなにも不安になるものだろうか?

子どもの進学コースは親の希望通りにいかないのが常

奨学金,返済リスク
(画像=PIXTA)

子どもの成績の伸びや心身の管理と共に、親にとって頭が痛いのは、受験にかかる費用だ。センター試験の受験料は、2教科以下なら1万2000円。3教科以上は1万8000円(成績通知を希望する場合はプラス800円)となっている。

国公立の二次試験は平均約1万7000円だが、私立大学の一般入試は、一校につき平均約3万5000円。医科歯科系ともなると、4万〜6万円が相場だ(平成29年度入試現在)。

受験料以外にも、遠方から受験する場合、交通費や宿泊費もかかる。例えば、地方出身者の場合、地元の国立大1校と遠方(都市圏)の私立大3〜4校を受験するパターンも多いが、受験料や交通費・宿泊費等でざっと30万円は必要だろう。 合格発表後は、入学金、授業料の他、一人暮らしをする場合は、引っ越し費用、家賃、礼金・敷金、家具や生活雑貨の購入費用などなど。

筆者も大学進学を機に一人暮らしを始めたクチだが、本当に親にとっては大きな負担だったと思う。その当時は、親が出すのは当たり前くらいに思っていたが、自分が親の立場になってみると、そう思っていた自分が心底恥ずかしい。

それはさておき、子どもの教育資金に関するプランニングで難しいのは、子どもの進学コースが親の思惑通りになるとは限らないという点だ。合格はしたものの、予想以上に費用がかかり、準備していた分では不足するという事態も考えられる。そこでよく利用されているのが、「奨学金」である。

34歳以下の2人に1人が奨学金利用者

大学等への進学率の上昇や景気低迷などの社会情勢を反映して、奨学金の貸与規模は年々拡大傾向にある。

代表的な奨学金といえば、日本学生支援機構の奨学金だが、同機構の「日本学生支援機構について(平成29年3月)」によると、学生数に対する奨学金貸与割合は、平成17年度では4人に1人だったが、平成27年度では2.6人に1人にまで増加。約1.5倍に膨れ上がっている。

また、労働者福祉中央協議会「奨学金に関するアンケート調査結果」(概略版)では、奨学金利用者のうち、34歳以下はなんと2人に1人。若い層ほど利用者が多い現状が伺える。

同調査によると、借入総額の平均は312.9万円。月々の返還額は平均1.7万円で、返還期間は平均14.1年という。23歳で大学卒業したとすると、37歳まで、年間20万円以上の返済が続く計算だ。

当然ともいうべきかもしれないが、返還の負担感について「苦しい」と回答した人が4割弱。なかでも、非正規労働者の場合、半数以上(56%)が「苦しい」と回答している。

利用者の4割強が奨学金のリスクを十分に理解していない

奨学金を借りる前に知っておきたいのは、「リスクがある」ということだ。奨学金といえども借金である。借りたものは返さなければならない。

しかも、原則として奨学金を返済するのは、借りた学生本人(調査では、返還者の1割が「親」)となっている。そのため、保護者だけでなく子ども自身が、奨学金の返済について、ライフプランにどのような影響を及ぼすか、借りる前にきちんと理解しておく必要がある。

ところが、前掲の調査によると、奨学金制度を利用した際のリスクへの理解度について、「リスクを十分に理解していなかった」と回答した人は4割強もいる。

さらに、ライフプランへの影響について、「結婚」や「住宅取得」への影響があると回答した人が3割強。「仕事や就職先の選択」や「子育て」「出産」が2割台となっている。

とりわけ非正規労働者の場合、いずれのライフプランにおいても影響を受けていると回答した人が3〜4割程度みられるというのは、深刻な問題だろう。借りる際に、奨学金が、そこまで自分の将来に影響を与えると想像できた学生がどれくらいいるのだろうか?

親子でもっとお金の話をすべき

奨学金に関わらず、子どもにお金の話をしたがらない親は多い。 その理由として、お金の話は、いやらしい。下品な感じがする。「あなたにはこれくらいお金がかかっているんだから、将来親孝行してよ」などと恩着せがましく思われたくない、などの意識が働くのだろう。

とにかく日本人は、お金に対してネガティブなイメージが強い。 しかし、お金の話というのは、「儲かりまっか、それナンボ」的な、例えば、いくら稼いでいるとか、その対価がいくらかなど、お金自体のことだけでなく、それを得るための方法や手段、しくみについて話すということでもある。

つまり、子どもが将来、どのように働くか、人生を生きるかといったライフプランやキャリアプランにつながっていく。

筆者は、パーソナルファイナンス教育の一環として、高校や大学で、子どもたちに授業をする機会があるのだが、そこで「親の年収や貯蓄額を知っている人?」と質問しても、「知っている」と挙手する学生・生徒はほとんどいない。

しかし、親が一生懸命働いて得たお金で、自分たちが教育を受けていること。その費用は決して安いものではなく、生活費の高い割合を占めていることを知ることも、大切な金銭教育の一つではないかと考えている。

まずは、お金に対するネガティブな先入観は捨てることだ。進学は、お金や経済的なことを親子で話し合う良い機会である。もっとオープンにお金のことを話し合えれば、俯瞰的なお金の見方や考え方ができるようになる。そうすれば、親も子も、金融知識が深まり、今よりもっとお金を身近に感じられるはずだ。

黒田尚子
黒田尚子FPオフィス代表 CFP®資格、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、CNJ認定乳がん体験者コーディネーター、消費生活専門相談員資格を保有。立命館大学卒業後、日本総合研究所に入社。1996年FP資格取得後、同社を退社し、1998年FPとして独立。新聞・雑誌・サイト等の執筆、講演、個人向けコンサルティング等を幅広く行う。2009年末に乳がん告知を受け、「がんとお金の本」(Bkc)を上梓。自らの体験から、病気に対する経済的備えの重要性を訴える活動を行うほか、老後・介護・消費者問題にも注力。著書に「がんとわたしノート」(Bkc)、「がんとお金の真実」(セールス手帖社)、「50代からのお金のはなし」(プレジデント社)など。