中国の配車アプリ最大手「滴滴出行」は、1月末に開催された「2018スマート交通サミット」の席上、戦略商品「交通大脳」を正式に発表した。20カ所のサンプル都市で、システムを構築の実験を行う。経済サイト「界面」は、滴滴出行のスマート交通への野心が露わとなった、と伝えている。“交通大脳”とは一体どのようなシステムなのだろうか。
投資家の期待ナンバーワン企業
スマホを所持している大都市住民で、滴滴出行のアプリをダウンロードしていない人は、極めて珍しい存在だろう。中国でライドシェア(配車アプリ)は、すでに生活の一部となっている。たった5年の間に、欠くことのできない交通手段となった。その歴史は、滴滴出行の歴史そのものである。タクシー業界との軋轢も落ち着きを見せ、次第に両者の境界線も曖昧になってきている。
滴滴出行は2017年、55億ドルもの多額融資を集めた。投資家の最もを期待するIT企業トップの座を守っているのだ。その滴滴出行が、投資家の期待に応えるべく、満を持して発表したのが今回の「交通大脳」である。
「交通大脳」とは
「交通大脳」は、クラウドコンピューティング、AI技術、交通ビッグデータ、交通システムを備え、編集したものだ。自動学習方式を備え、予測機能を持つ計算モデルである。的確な予測能力によって、スマートに交通状況を調整し、最適な交通状況を実現する。
滴滴出行の幹部によれば、交通大脳は、都市の単なる交通データセンターではないという。より進化したプラットフォームの下に、データ中枢、分析中枢、コントロール中枢の3つがある。問題の検出ー対応策の決定ー行動までの一貫したクローズドシステムである。計算能力、AI分析能力、クラウドコンピューティング能力を駆使し、最善の解決策を提示する。コントロール中枢は、信号機、ロードサイン、監視カメラ、駐車場、標識、街路灯、交通警察官の投入量まで調整する。
全国20都市で展開
滴滴出行の程CEOは、中国の多くの大都市交通ビッグデータは、世界の中でも質量ともに最も優れている。これは“金鉱”である。滴滴出行のプラットフォームには1日2500万件のライドシェアデータが蓄積される。2000万人のドライバーと各交通手段のデータも集まる、と述べている。確かにこれは金鉱といえそうである。
滴滴の交通大脳は、すでに全国20都市での採用が決まった。その一つ、山東省・済南市のケースでは、344カ所の交差点がスマート化され、済南市民の通行時間を、延べ3万時間節約している。湖北省・武漢市では、滴滴出行のライドシェアデータと交通管理当局とのデータ結合に成功し、交通の誘導に成果を挙げている。これには滴滴の“到達時間予測システム”が貢献しているという。2018年中には10都市で、集中的に資本投下する予定だ。
滴滴出行の“野心”への障害
程CEOは、滴滴出行は顧客とドライバーを結ぶプラットフォームだが、人、車、道路、街灯など交通システム全体のオンライン化に貢献していきたい。我々の希望はスマート交通のサービス業となることである、と結んだ。
ところでこの滴滴出行とは、実質的な業務を開始したのは2012年である。わずか社歴5年の会社に過ぎない。モバイル決済など、新しいモバイルインフラの申し子である。その目もくらむ大成功に浮かれず、次のビジョンを掲げ、投資家の期待に応えようとしている。これは確かのようだ。しかし、この分野も平穏ではないのである。
それは国家AIプロジェクトに指定された、阿里巴巴の「城市大脳」プロジェクトの存在である。こちらの対象は、交通だけではなく、エネルギー、水道など基礎インフラのすべてにわたる。阿里巴巴の本拠地・杭州市では、同じようにAI交通実験が行われているのだ。
どちらの交通システムが優れているのだろうか。巨人・阿里巴巴に勝てるのだろうか。こちらの方も大いに気になるところである。今後の動向に注目したい。(高野悠介、中国貿易コンサルタント)