米経済指標は堅調さを維持しており、先行きの見通しも明るい。にもかかわらず、このところの米株式、ドルはともに伸び悩んでいる。背景には米保護主義の動きに加え、利上げペースの加速懸念も指摘される。今回はこの辺りの事情を探ってみよう。

2018年の米経済成長は加速する見通し

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(画像=Thinkstock/GettyImages)

2017年10~12月期の米GDP(国内総生産)成長率は前期比年率+2.6%となった。前期の+3.2%から鈍化したものの、+2.0%弱と推計されている潜在成長率を上回り、堅調さを維持した。

景気の柱となる個人消費も+3.8%と絶好調だ。前期の+2.2%を大幅に上回り、3年ぶりの高い伸びを記録している。

足もとのみならず、先行きの見通しも明るい。1月22日にIMF(国際通貨基金)が公表した世界経済見通しによると、米国の2018年のGDP成長率は+2.7%と2017年(+2.3%)からの加速が見込まれている。

「米国第一主義」で中国との対立姿勢を鮮明に

だが、上記のような経済環境にもかかわらず、米株価は伸び悩んでおり、ドルの上値も重い。

背景には「米国第一主義」と「利上げリスク」が指摘される。1月30日、31日のFOMC(米連邦公開市場委員会)を前にCNBCが実施したフェドサーベイによると「トランプ政権の保護主義的な政策が最大の懸念材料」として挙げられており、続いてFRB(米連邦準備制度理事会)による過度の金融引き締めが警戒されている。

1月22日、トランプ政権は太陽光パネルと洗濯機の輸入急増で「国内産業が深刻な打撃を受けた」とし、セーフガード(緊急輸入制限)を発動した。セーフガードの発動は2002年以来16年ぶりのことであり、ウォール街の市場関係者からは2年目を迎えたトランプ政権が「いよいよ米国第一主義に本腰を入れたのではないか」との声も聞かれる。

太陽光パネルは中国、洗濯機は韓国を念頭に置いているが、鉄鋼やアルミニウムの輸入制限も検討中と伝えられている。セーフガードはあらゆる国からの輸入を制限できることから、対象が拡大する可能性は否めない。

ちなみに、セーフガードは国内産業の建て直しを目的とし、WTO(世界貿易機関)でも認められている。ただし、今回は米通商法に基づく一方的な措置であることから、中国や韓国がWTOに提訴し、紛争が起こることも懸念されている。

さらに、これとは別に米政府は知的財産権の侵害を理由に中国製品へ高い関税を課すことも検討している様子だ。トランプ大統領も「中国に巨額の罰金を科す」と述べるなど鼻息も荒い。

減税とドル安、セーフガードの「3点セット」

こうした中、24日にはムニューシン財務長官による「ドル安は明らかに良いこと」との発言が伝わり、為替市場でドルが一時急落した。貿易赤字を縮小し、米成長率を押し上げるためには「ドル安は良いことだ」との考え方なのだろう。また、米国では昨年末に減税法案が成立しているが、減税分の穴埋めは高成長による税収増加である。減税で外国製品を買ってしまっては税収の増加はおぼつかない。

つまり、減税とドル安、セーフガード発動は「3点セット」のようなものと考えることもできる。だが、米国第一主義の推進はかえって景気に悪影響を及ぼす恐れもある。通商政策は通貨政策と表裏一体となる傾向にあり、最近の保護主義的な動きがドル買いをためらわせる一因となっている嫌いは否めない。

「利上げペース加速」に耐えられるか?

ところで、1月のFOMCでは政策金利が据え置かれたが、声明文がタカ派となったことから従来よりも利上げペースが速まるとの見方が広まっている。

長期的なインフレ見通しについて、前回まで「このところ2%を下回っている」としていたところを「年内に2%に達する」と内容を変更しており、そう遠くない将来に目標を達成する自信をうかがわせている。

昨年10~12月期のPCE(個人消費支出)物価指数は前期比年率で+2.8%と前期の+1.5%から大幅に伸び、瞬間風速ではFRBが目標とする2.0%を大きく上回っている。また、基調的な物価動向を示すエネルギーと食品を除いたコアPCEも+1.9%と前期の+1.3%から加速した。加えて、10~12月期の雇用コスト指数は前期比+0.6%、前年同期比では+2.6%となり、2015年1~3月期以来の大きな伸びとなっている。

米経済は潜在成長率を上回るペースでの成長が続く見通しで、ドル安やエネルギー価格の上昇も追い風となるほか、労働市場のひっ迫が賃金の上昇につながっている可能性も示唆されており、これらが物価の上昇を後押しするとみられている。

インフレ見通しの上昇に伴って、米長期金利も上昇しており、米10年債利回りは1月31日現在で2.7%台と2014年4月以来の高水準となっている。

昨年12月のFOMCでは「2018年中の利上げは3回」と見込まれていたが、今回の声明文がタカ派となったことで、ウォール街の市場関係者からは「4回の利上げ」を想定する声も増えているのが現在の状況だ。

利上げペースの加速に米経済が耐えられるかどうかは未知数であり、過度な金融の引き締めは景気減速を招く恐れがある。こうした懸念も米株価やドルの上値を抑えているようだ。(NY在住ジャーナリスト スーザン・グリーン)