1月下旬、騰訊と蘇寧、京東(JD)融創の4社は、「万達商業」との戦略投資協議に署名した。計画投資額は340億元。ネットメディア「騰訊科技」が伝えた。その他多くのネットメディアが競うように報じている(1元=17.35日本円)。
不動産からITへの時代を象徴
この事件がメディアの注目を引く理由は、時代の変化を象徴しているからだ。4社のうち、不動産会社は融創だけである。他はIT系だ。その中心は、株式時価総額世界6位(2017年末)の騰訊である。1月下旬に発表されたフォーブス誌の世界長者番付によれば、騰訊の創業者兼CEOの馬化騰氏は、資産519憶ドルで中国首位、世界14位にランクされた。
そのわずか3年前の2015年、この中国長者番付首位の座に輝いていたのは、今回出資を受ける万達集団のトップ、王健林氏だったのである。中国では知らぬ者のない不動産王だ。誰もが、不動産王、IT王者の軍門に下る、という構図を思い浮かべる。つまりこれは、とてもドラマチックなシーンなのである。
万達商業は、万達集団の“核心会社”である。実は2016年9月、同社は株式を非公開化にしている。そのとき、2018年8月までに再上場できない場合、万達集団は株主から株を買い取る契約をしていた。4社は、それらの株主から、合計14%前後の株式を取得する。これによって万達商業は国内A株市場(上海か深セン)への再上場を目指すことができる。4社は危機を救ったのである。それでは4社が出資した後は、どのような変化が予想されるのだろうか。
出資後の戦略
(1) 万達商業は「万達商管集団」に名称変更し、今後再び不動産開発は行わない。管理会社に特化し、すみやかな株式再上場を目指す。
(2) 万達商管集団は、騰訊、蘇寧、京東と多方面にわたって商業資源の共同利用を行う。O2O融合の新商業モデルを模索する。
(3) 騰訊は、万達集団傘下のIT技術開発会社と戦略的提携を行う。同時に万達はO2O小売融合モデル開発の主導権を取る。
万達商業とは、実は世界最大のオフライン実体商業の巨頭だ。2017年末、万達の所持する商業面積は3151万平米に及ぶ。国内のSC“万達広場”は235カ所、客数は31億9000万人である。さらに、遊園地、ホテル、映画館、児童向けの産業など幅広いオフライン消費シーンを持っている。
提携を各社別にイメージしてみよう。
小売業の主役へ
騰訊は中国最強のオンラインサービス企業だ。国内最大のソーシャルメディアを運営している。その顧客と広告主を通じて、何億もの消費者と繫がっている。この2社の化学反応で何が生じるのだろうか。想像を掻き立てられる。
京東はネット通販に金融と物流を加えた。中国最大規模の小売業である。騰訊とは提携関係にある。またウォルマート中国と組んでO2O融合の取組みを重ねている。反阿里巴巴攻囲網が強化できる。
蘇寧は家電量販店をスタートとして、独自にO2O融合の取組みを重ねている。オフラインの売上1位、オンラインでは3位という他に例を見ない小売業となっっている。阿里巴巴色強いが、スタンス調整か。
融創は、2017年、中国不動産企業の売上4位である。高品質の住宅地、商業地開発を万達から引き継ぐつもりだろう。
やはり騰訊が最大の注目だ。先日は、カルフール中国への出資が報じられたばかりである。これで、京東-ウォルマート連合に加え、カルフール、万達広場とも提携することになる。今年に入り、突然、小売業の主役へと躍り出た印象だ。阿里巴巴との戦いは佳境に差し掛かってきたようである。まったく眼が離せない。(高野悠介、中国貿易コンサルタント)