地方経済を支える屋台骨は、地域に根ざした金融機関だ。しかし、地方経済の衰退と人口減、都市部への人口集中などで、苦境に立たされている地銀も少なくない。そうした中で、「地銀の雄」としてそのユニークな取り組みや好調な業績に注目が集まっているのが、静岡県・神奈川県を中心とするスルガ銀行だ。今回は、「百年銀行」であるスルガ銀行の経営戦略を見ていこう。
スルガ銀行のここ数年の業績は右肩上がり
スルガ銀行は、静岡県沼津市に本店を置き、静岡県に66ヵ所、神奈川県に39ヵ所など国内で133ヵ所の店舗を構えて主たる営業エリアとしている。(2017年4月時点)創業は1887年で、日本が誇る老舗「百年企業」のひとつだ。スルガ銀行というカタカナ表記は、駿河銀行であった1990年ごろから使用し始め、2004年に正式な商号とした。地銀が苦境にあえぐ中、スルガ銀行のここ数年の業績は右肩上がりだ。
2017年5月に発表された2017年3月期連結決算の経常利益は前年同期比3.2%増の582億2,200万円、純利益は16.0%増の426億2,700万円で、5期連続の最高益更新だった。また、同年11月に発表した2017年9月中間連結決算でも、純利益は6中間期連続で最高を更新しており、2018年3月期も好調な業績が見込まれる。好業績を背景に、行員の年間給与では全国の地銀トップで、ブルームバーグの調査によると、三菱東京UFJ銀行、みずほ銀行をも上回るという。
早い段階からインターネットバンキングの可能性に着目
スルガ銀行の特徴のひとつは、早い段階からインターネットバンキングの可能性に着目していた点だろう。ネットバンクの黎明期だった2000年ごろからネット支店を開始して全国展開したのである。全日空(ANA)と提携して、キャッシュカードにマイルが貯められる「ANA支店」を開設するなど、個性的な戦略で拡大した。
インターネット戦略では、2018年1月にすべての本支店の口座をインターネットから開設できるようにもなり、実店舗に足を運ばなくとも口座が開設できるようになった。また、情報メディアを通して、生活に必要なさまざまな方面からの情報提供を図っている。先見の明がある営業で、幅広く潜在顧客層を増やしていく戦略も垣間見ることができるだろう。
コア事業は個人向けローン
もうひとつの特徴は、個人向けのニッチなローンに注力しているという点だろう。同行の公式サイト上では、鉄道模型を買うための「鉄道模型ローン」、ロードバイク愛好者向けの「ロードバイクローン」、さらには「馬を愛する人のローン」などというド直球なものも紹介されている。また、ネット上ではアニメやマンガのグッズ購入や同人誌やコスプレ衣装製作、イベント参加のための遠征費用など、サブカルに特化した「サブカルローン」が話題になっている。
過去にはコミケでも、ローンを紹介するチラシを配っていたという力の入れようだ。ただ、これらのローンは専用商品というわけではなく、同行が提供する「リザーブドプラン」という個人向けカードローンの使い道を示したもの。リザーブドプランの使い道は自由であることから、実際には目的外の用途に使用しても問題ないようだ。
同プランは一般的なカードローンと大差なく、借入金額は10万円以上~800万円、利率は年3.9%~14.9%となっている。スルガ銀行では、こうした個人向けのパーソナルローンと住宅ローンをコア事業に据えているのだ。
リテール特化で「銀行はコンシェルジュ」に
米山明広社長は静岡新聞とのインタビューで、好業績の背景を「パーソナルローンをはじめ、多様な顧客ニーズに応えた結果」だと分析している。個人向けローンに注力することで、相対的に市場金利と連動する融資が少ないのが強みとなり、マイナス金利下でも成長できているのだという。
個人リテール事業に注力するこうした顧客中心の考え方は、付加価値創造による独自のポジション構築につながっている。銀行が売りたい商品を売るのではなく、顧客のニーズに沿った商品を提供することで、結果的に収益向上を図っているのだ。「銀行はコンシェルジュ」というスルガ銀行の姿勢は、金融機関だけではなく、あらゆる業種にも通じていくことだろう。(提供:百計オンライン)
【オススメ記事 百計オンライン】
・後継者問題解消、3つのパターン
・事業承継税制の活用で後継者へのバトンタッチをスムーズに
・相続税対策に都心の不動産が適している理由とは
・長寿企業に見る、後継者育成と「番頭」の重要性
・中小企業の事業譲渡としての秘策・従業員のMBOについて