中国の宅配便業界は“春節休暇モデル”入りした。春節(2月16日元旦)前のピークを迎えたのである。業界は年中無休、安定配送を標ぼうしている。荷主のネット通販業界もそうである。しかし、実際の配送体制は縮小に追い込まれているという。経済サイト「界面」は、この機をとらえて宅配便業界の問題点を追及している。

ドライバーの帰郷でお手上げ

中国経済,春節,物流業界,ブラック企業,労働問題
(画像=paulaphoto / Shutterstock.com)

2016年12月、日本の宅配便ドライバーが荷物を叩きつけた動画は、中国でも大きな反響を巻き起こした。「なんだ、日本でも同じではないか」と宅配便業界を中心に、奇妙な共感を呼んだのである。その後、日本の宅配便業界では、未払い残業代の支給、時間指定の見直し、荷主との単価改定など次々と改善は進んだ。中国はどうなっているのだろうか。

一部のネット通販は、中国の西北端、新疆ウイグル自治区への“快速”配送をすでに停止した。同自治区の住民は、宅配便は便利なものじゃない。春節前にダウンするとは思わなかったと嘆いた。ネット通販で買い物をしても、もういつ手に届くのかわからないのだ。それどころか「界面」記者は、会社によっては春節期間中の全面集荷停止もあり得る、と考えている。

某ネット通販会社は、宅配便大手3社「中通」「申通」「圓通」は、宅配便ドライバーの帰郷により、もはやお手上げなのだと内情を明かした。

当局の提示した“年中無休”の概念

宅配便業界に“年中無休”の概念が広がったのは、2013年に宅配業監督部門の国家郵政局の通達による。自らもEMSなどの宅配業務を抱える郵政局は、率先して“民生重視”のサービス充実を主導した。以来、年中無休は宅配サービスの前提となる。

郵政局は近日、さらにダメ押しのような通知を出している。“恵民百姓、服務民生”(百姓=大衆の意)を体現すべし、販売をやめるな、集荷を止めるな、在庫を滞留させるな、という内容だ。そして宅配便会社は、全国主要都市の要求に、普遍的に応えなければならないとした。宅配便はもはや生活インフラとなっているからだ。

それに応え、EMS、順豊、中通、申通、圓通、韻達、百世、徳邦、京東物流、蘇寧物流など大手10社は、春節は無休、いくら買っても大丈夫です、という姿勢を崩していない。

そのうち順豊と徳邦は、柔軟な勤務シフトと加給金によって春節期間中のドライバーを確保した。京東物流と蘇寧物流は、ネット通販大手の直営であり、配送保障は当初から業務範囲内である。しかし残りのEMSを除く5社は、ドライバーを引き留めておく有効な手段を持っていない。そしてこの5社の宅配シェアは60%を超えているのだ。

ソフトに投資が必要

ドライバーに話を聞くと、日常の労働は極めて過酷だ。春節は年間でほとんど唯一の休暇である。大多数のドライバーは、加給金よりも帰郷を選ぶ。何しろ平時の休日が少なすぎる。業界は拡大が急で、従業員の健康など福利厚生を全く欠いている。

さらに北京、上海など巨大都市で働くドライバーは、ほとんど外地の出身である。労働はきつい、待遇は低い、総合保障はない、帰属感は希薄、などの理由によりドライバーは不断に流出している。

これが海外になると、従業員の95%は地元に根付いた人間である。待遇は保障され、仕事の強度もすさまじいというほどではない。中国では一体何人のドライバーが正規の労働契約を結んでいるのか、数字を把握することさえ難しい。

先の宅配大手5社は、みな上場会社である。資金調達はできないはずはない。施設やトラックなどハードにばかり投資していないで、従業員の雇用契約や管理体制など、ソフトの力を高める投資をしなければならない、と記事は結ばれている。

続々と登場するIT系ユニコーン企業や、AI産業の発展など、劇的に変わる中国の一方に、一向に変わることのできない中国がここにあった。人間は常に後回しとなるのだ。改善にはまだ相当の時間がかかりそうである。(高野悠介、中国貿易コンサルタント)