2018年2月5日、6日の米国株式は記録的な下落となった。しかし富裕層は株価急落時にも慌てることなく、大きな損失を計上していないケースもある。グローバル投資で長く運用で成功している富裕層の投資家は、相場下落にどう対応しているのだろうか?いくつかのポイントを紹介する。

インカム戦略では影響は限定的

富裕層,急落相場
(画像=Discovod / Shutterstock.com)

富裕層はグローバルな投資を行い、様々なアセットクラスに分散投資を行っている。債券から株式へという動き、「グレート・ローテーション」の流れが数年前から加速した。しかし資産の100%を株式投資に振り向ける富裕層は知り得る範囲では少数派だ。

今回の株式下落時に米国市場では逆に価格が上昇したセクターがあった。例えば、米国投資適格社債、米国物価連動国債、米国短期債などである。仮に相場が株式上昇の後に下落となり、投資した価格=取得価格とほぼ同じ水準であったとする。しかし株式や債券の配当(インカム)は着実に増加してゆく。

債券や高い配当の株式などのインカム戦略を考慮した資産配分=アセット・アロケーションを用いた運用では、株単体に投資している場合よりも下落の影響は限定的だと考えることができる。

下落の要因を探り、把握する

今回の米国株式の大幅下落の要因は、10年物の米国長期金利が一時2.88%(2/5)まで切り上げ、金利上昇の悪影響(企業の資金調達コストの上昇、個人消費が減退するなど)が想像されたことが理由との見解がある。世界株式は安定的な上昇で適温相場(ゴルディロックス)を続けてきた。金融緩和による資金供給によって「高い利回りを求める資金」は、一部では過熱感があった部分は否めないだろう。特定の新興国や、ハイ・イールド社債市場には資金が入り過ぎてきたと筆者は考えている。

そして下落相場になった場合、コンピュータのプログラム売買では、更に売りの指図が出され「売りが売りを呼ぶ」ために、大きな下落となる場合も考えられる。

ずっと上昇基調であったものが、調整として時に下落することは決して不思議な事ではない。NYダウは1日で4.6%もの下落(2/5)であったが、前年との比較では依然としてプラス21.3%で推移している(2/5)。長期投資をしている富裕層は株価下落で大きなダメージを受けているというわけでもなさそうだ。一方レバレッジを利用している投資家は下落時に追加担保の差し入れが必要となる場合がある。しかし、過度なレバレッジのリスクを十分理解している富裕層にはダメージは限定的であろう。

世界経済は景気後退に入ったのだろうか?筆者は例えば米国の経済などは、必ずしも景気後退期に入ったわけではないと考えている。

富裕層は販売者の言う事を鵜呑みにはしない

相場が下落した場合にパニックに陥ってしまい、良く現状分析や判断をせずに、「みんなが売っているから」といった曖昧な理由で、投げ売りしてしまうことは避けたいものだ。証券や銀行などの営業員にとって株価の急落の場面は、理由の付く「今、売っておかないともっと下げますよ」といったセールスの材料にもってこいだとも考えられる。売却時に手数料のかからない投信の売却であったとしても、セールストークかも知れない。

顧客が売却して資金化していれば、次の投信、次の株式などの金融商品を顧客が購入する時に手数料のチャンスがあるからだ。資金化により、今後の取引見込み先にノミネートされても不思議はないだろう。

富裕層は販売者の言う事を鵜呑みにはしない。自らの資産が増えるために最善を尽くす「契約資産額×報酬率」、いわゆる残高連動方式のアドバイザー(RIA:投資助言業)や、残高連動方式の信託の運営者の助言などを重んじる。日本では投資助言業はわずか500事業者だが、本場米国のRIAは2万6000事業者にも及んでいる。

沈没船ジョークで日本人に効果的な言葉は?

余談であるが、沈没船ジョークを聞いたことがあるだろうか?豪華客船が沈没しかかっており、救出用ボートは人数オーバーだとする。船長が乗客を海に飛び込ませるために使う言葉が、国民性によって効果が違うことを想像した冗談だ。

女性好きとのイメージがあるイタリア人に対して効果のある言葉は「海で美女が泳いでいますよ」

品位あるジェントルマンを目指すイギリス人に対しては「紳士はこういう時に海に飛び込む行動が求められます」

規律を重んじるドイツ人に対しては「規則ですので海に飛び込んで下さい」

そして、日本人に対してはこう言うのだ。
「みんな、もう飛び込んでいますよ」

相場下落局面で日本の国民性、行動経済学を理解したセールスマンが、「みんなが売っていますよ」と言うことは不思議ではないのかもしれない。

安東隆司(あんどう・りゅうじ)
RIA JAPANおカネ学株式会社代表取締役。CFP®ファイナンシャル・プランナー、元プライベート・バンカー。日米欧の銀行・証券・信託銀行に26年勤務後、独立。お客様サイドに立った助言を実践するためには高い手数料は弊害と考え、証券関連の手数料を受け取らない内閣総理大臣登録の「投資助言業」を経営。著書に『個人型確定拠出年金iDeCo プロの運用教えてあげる!』等がある。