2月5日のNYダウ終値は先週末比で4.6%下落、24345.75ドルとなった。下落幅は1175.21ドル。これまでの過去最大下落幅は2008年9月29日、リーマンショックによる暴落時の777.68ドルで、今回はこれを大きく上回った。ちなみに、2日にも665.75ドル下落しており、2営業日で7.0%下落、1840.96ドル下落している。

NY市場の暴落が世界市場に与えた影響は大きい。5日、6日の2日間で日経225指数は7.2%下落、香港ハンセン指数は6.2%下落、台湾加権指数は6.5%下落、韓国総合株価指数は2.9%下落した。

アメリカでは今年から減税政策が実施されている。更にこの先大型のインフラ投資が行われる可能性がある。トランプ大統領は1月31日、一般教書演説を行ったが、今後10年に渡り、少なくとも1兆5000億ドル規模のインフラ投資を行いたいと述べている。当初の規模は1兆ドルであったので、50%の増額である。景気が好調な中で景気刺激策を続ければ、景気が過熱し、インフレが進行してしまうリスクがある。昨年の12月中旬以降、米国債(10年)の利回りには、はっきりとした上昇トレンドが出ていた。

こうした状況で2日に発表された1月の非農業部門の雇用者数は20万人となり、市場予想を2万人上回った。平均時給の上昇率が高かったこともあり、インフレ懸念が高まった。それが金利上昇に拍車をかけたことで、2日の急落となり、5日は一気にリスク回避の動きが強まり、暴落へとつながった。

中国市場は国際市場と連動せず

中国経済,A株
(画像=PIXTA)

世界の主要な株式市場は、金融の自由化、国際化が進み、資本が自由に移動できる状態となっている。その結果、世界市場において、資金量で圧倒的に勝る欧米機関投資家の存在感が際立っている。かれらは国際分散投資を行うが、国際間の株式比率の変更による個別市場の株価変動よりも、ポートフォリオ全体の資金管理の影響の方が大きい。かれらのリスク資産への投資許容度の変化により、世界の株式市場が同じ方向に動きやすい仕組みとなっている。

ただし、中国市場は規模の十分大きな市場の中では、欧米投資家の資金管理の影響が小さい唯一の市場である。これは金融市場の自由化、国際化が進んでいないからである。外国人も本土A株を買うことはできるが、上海香港ストックコネクト、深セン香港ストックコネクト、QFII(適格海外機関投資家)制度といった国家による厳しい規制を通さなければならない。

結果として、本土市場においては、国内の個人投資家や機関投資家が強い価格支配力を持つ市場となっている。今回の世界同時株安においても、上海総合指数は6日については3.35%下落しているが、5日は0.73%上昇している。

本土株に割高感はない

NYダウ指数は2009年3月を底に9年弱にわたる長い期間、上昇トレンドを形成している。特に2017年は連日のように過去最高値を更新、それが今年1月26日まで続いた。そこからの急落である。

一方、上海総合指数の史上最高値(場中ベース、以下同様)は2007年10月16日の6124.04ポイントである。その後の戻り高値は2015年6月12日の5178.19ポイントである。足元では1月29日に約2年ぶりの高値となる3587.03ポイントを付けたところで、2月6日の終値は3370.65ポイントに過ぎない。歴史的な株価水準からみると、上海総合指数に割高感はない。

5日時点における上海総合指数の平均PERは19.32倍(上海証券取引所より)だが、NYダウ指数の平均PERは25.09倍(THE WALL STREET JOURNALより)と高い。上海総合指数は過去10年間の歴史的な水準と比べるとむしろ低いが、NYダウ指数ではほぼ過去最高水準に近い。PERの面から見ても、上海総合指数に割高感はない。

中国は社会主義市場経済体制国家であり、経済政策においては市場を通じた間接的なコントロールよりも、当局の監督管理を通じた直接的なコントロールに重点が置かれている。

昨年12月に開かれた中央経済工作会議では、供給側構造性改革を深めるといったことが重要政策の一つとして示された。さらに、今後3年間の方針として重大なリスクの解消、貧困からの脱却を正しく進めること、環境汚染防止といった3つの問題を攻略するとしている。

金融市場への資金供給は中立を保つよう中国人民銀行が細かくオペレーションを行う一方、金融市場の投機を徹底的に抑え込み、金融レバレッジを縮小させる方針である。過剰流動性が発生するような状況ではないが、金利水準が大きく上がり、資金流動性がタイトになるといった先進国における金融引き締めのような状態になることもなさそうである。

足元の景気についてみると、1月の製造業PMIは51.3であった。前月と比べ0.3ポイント低い値ではあったものの、水準自体は景気判断の分かれ目となる50を大きく超えている。供給側構造性改革、環境対策が実施され、金融政策は中立的、金融レバレッジ縮小政策が進められる中で景気は穏やかに拡大している。経済の安定度も高い。

これらの点を踏まえると、国際市場が大きな混乱に陥る中で、リスク分散の意味合いから中国A株投資を増やすことは十分合理的な投資戦略だと考えられる。

田代尚機(たしろ・なおき)
TS・チャイナ・リサーチ 代表取締役
大和総研、内藤証券などを経て独立。2008年6月より現職。1994年から2003年にかけて大和総研代表として北京に駐在。以後、現地を知る数少ない中国株アナリスト、中国経済エコノミストとして第一線で活躍。投資助言、有料レポート配信、証券会社、情報配信会社への情報提供などを行う。社団法人日本証券アナリスト協会検定会員。東京工業大学大学院理工学専攻修了。人民元投資入門(2013年、日経BP)、中国株「黄金の10年」(共著、2010年、小学館)など著書多数。One Tap BUY にアメリカ株情報を提供中。HP:http://china-research.co.jp/