「超AI時代」 を生き抜くカギは、ワーク “アズ”ライフにある!

落合陽一,超AI時代の働き方
(画像=The 21 online)

凄まじいスピードでテクノロジーが進化している現代、AIが私たちの仕事を奪うのではないかと心配している人も多いだろう。しかし、今やるべきことはAI対策ではないと、筑波大学助教でありメディアアーティストとしても活躍する落合陽一氏は言う。“現代の魔術師”と呼ばれる落合氏が考える未来の働き方とは。

「お堅い会社」の人が実は求められている!?

これからの働き方を考えるうえで日本社会が早急に進めなければならないことは、兼業や副業の容認でしょう。兼業や副業をするというのは、「職をポートフォリオ・マネジメントする(最適に配分する)」ということです。

これまでビジネスマンは、一つの会社で定年まで働くのが普通でした。それゆえ、会社で意にそぐわないこともやらなくてはならず、仕事にモチベーションを持てなくなった人も多いのではないでしょうか。また、企業側としては余剰人員にも働く場を作らなくてはなりません。これらの問題は、働く人・企業ともに生産性を下げる要因ともなります。ところが、職のポートフォリオ・マネジメントという考え方を取り入れると、違った見方ができます。

大企業に勤めてきた人や、いわゆるお堅い仕事を長年してきた人。実は、こういう人材をベンチャー企業は欲しがっています。なぜなら、ベンチャー企業にはイケイケのイノベーション人材しかいないから。イケイケでない代わりに、ちゃんと会社の「守備」ができ、批判的な目線でモノを見られる人材がどこの企業においても1割程度は必要なのです。

問題は、ベンチャーにはそのような人材を週に5日も雇う余力はないということ。私もベンチャーに関わっていますが、「会計締めや出納とか納品の前にだけ、そういう人がいてくれたらいいのに」と思うことがあります(笑)。

そこで、週に3~4日は今の会社で働き、1~2日はベンチャー企業やスタートアップ企業に出向して働く、という兼業・副業が実現すれば、皆が得をします。そのためには企業と人材のマッチングが必要ですが、そこにAIを活用すればいい。

こうした「職のポートフォリオ・マネジメント」は、これから5年の間に現実化してくるでしょう。そうなると、今の仕事にやりがいを感じられない人、企業が持て余している人にも、新しい活躍の場が生まれてくるわけです。

ストレスフリーな働き方が可能な時代に

ポートフォリオ・マネジメントをするうえで最も重要なのが、働く人の「やりがい」です。週に1~2日、違う仕事をするとしたら、やりがいのある仕事を選ぶことが大切です。

たとえば、ソーラーカーを開発しているベンチャーがあって、技術力はあるけれども事務仕事に手が回らなくて困っているとします。そこで、これまで総務や経理などの分野でキャリアを積んできた、クルマが大好きな人が、そこの事務仕事を週に1日手伝ってあげる――そんな、仕事面で持つ自分の能力・スキルを好きなことに活かせる場があるのなら、そこにはやりがいが生まれ、働くことのストレスもなくなるのです。

この「ストレスフリー」で働くという考え方は、今後、主流となってくるでしょう。多くの人のストレスの主因となるのは、量(日数)ではなく質(やりがい)の問題なので、まずは、休日に、自分が普段やっているのと同じ業務をしてもストレスが溜まらない相手や場を探してみること。それは、給料が安くても、ボランティアでもかまいません。職のポートフォリオ・マネジメントはそこから始めるのが一番簡単です。

好きなことで価値を生み出す働き方に転換

とくにやりたい仕事が思いつかないという人でも、何か趣味はあるでしょう。アートを鑑賞するのが好きだとか、サッカー観戦が趣味だとか。それに近しいところから、自分の能力を活かせる場所を探せばいい。

だからこそ、好きなことが何もないという人は辛い。できれば、3つくらいは仕事になりそうな趣味(好きなこと)を持つことをお勧めします。合理性・利便性はコンピュータに吸収されてしまうけれど、趣味性は人間だけがその人の色をつけていけるのです。

これからの日本社会では、会社に雇用され、労働し、その対価をもらうという従来の働き方から、好きなことで価値を生み出す働き方に、考え方も仕組みも転換することが求められてきます。これまで「ワークライフバランス」が重要と言われていましたが、近い将来、「ワーク“アズ”ライフ(ライフとしてのワーク)」の時代がやってくるのです。

グローバル化や、インターネット環境と通信インフラの整備によって、いつでもどこでも働ける世の中になりましたが、これは一方で、ワークライフバランスの考え方が崩壊したとも言えます。ワークとライフの関係性が「バランス」でなくなった今、自分なりの人生価値を、ワークとライフの両面で生み出し続ける方法を見つけられた人が生き残る時代となるのです。

AI時代には「面倒なこと」が重要に?

今後、自分の仕事がAIによって失われていくのではないかという漠然とした不安を持っている人は多いかと思います。AIがもたらす変化は確かに劇的ですが、私たちの仕事がただちになくなるわけではありません。今は、機械と人間のイタチごっこのスピードが昔より速くなったゆえに、それを肌で感じる人が多いのでしょう。

たとえAIが人間の仕事を代替しても、人間とAIの間には必ずギャップがあります。たとえば、経理が自動化されたとしても、領収書をきれいに揃えて会計ソフトに入れる仕事は人間がしなくてはいけない。AIで便利になるほど、面倒な仕事を嫌がる人が増えて、面倒くさい仕事をきちんとやれる人が意外に重要になってくる側面もあります。

今、私たちに求められていることは、AIへの恐怖をやみくもに掻き立てることではなく、新たな価値観を作り上げていくことです。自分のできることと、好きなことを掛け合わせた仕事を探し、ストレスの溜まらない働き方を始める。この「働き方のアップデート」をいち早く始めることが、これからの「超AI時代」を生き抜く最善の手段なのです。

落合陽一(おちあい・よういち)筑波大学助教/メディアアーティスト
1987年、東京都生まれ。2011年、筑波大学情報学群情報メディア創成学類卒業後、東京大学大学院学際情報学府博士課程早期修了。博士(学際情報学)。15年より、筑波大学助教・デジタルネイチャー研究室主宰、Pixie Dust Technologies, Inc CEO。映像と物質の垣根を再構築する表現を計算機ホログラムによって実現するなど、計算機時代の自然観としてデジタルネイチャーと呼ばれるビジョンに基づき研究に従事。著書に、『超AI時代の生存戦略 シンギュラリティに備える34のリスト』(大和書房)など。(取材構成;川端隆人)(『The 21 online』2018年1月号より)

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