シンカー:米国企業の金融負債の増加を懸念する声がある。しかし、資金循環では米国の企業部門の貯蓄率は0%近傍であり、金融ライアビリティはほとんど増加していないことが確認できる。 金融負債が増加しているのは、資本政策として、資本コストの大きい株式から、金利コストの小さい社債や借入に移る動きが進行してきたのが理由であると考えられる。株式の資本コストは金利コストと比較し圧倒的に大きいとみられる。金利上昇によって、これまで節約となってきたスプレッドが縮小しているだけであると考えられる。名目GDP成長率までの長期金利の上昇が、企業の資本政策と資金調達環境を強く圧迫するとは考えられない。

SG証券・会田氏の分析
(画像=PIXTA)

最新のSGグローバル・レポートと要約

中国経済(2/20): 金融政策見通し-PBOCが、FRBに追随して利上げを進めることはない 

弊社の考えでは、(時代遅れになった)基準預金/貸出金利、様々な流動性管理ツールの金利ともに、FRBに追随してPBOCが引上げを進めることはない。その理由は、まず、利上げを行うと引締めが過剰になるとみられることだ。金融デレバレッジだけでも、信用状況の強い引締めや、借入コスト全体の大幅上昇につながることはほぼ間違いない。2点目は、金融面のストレスが高まる可能性があり、金融システムがそれを乗り切れるように、PBOCが流動性安定の維持を重視する可能性が高い。3点目に、人民元下落や資本流出の深刻さは、昨年に比べて遥かに軽減されている。これは、PBOCが為替レートの安定化を求めてFRBに追随することは無い、と主張する根拠になる。ただし弊社も、PBOCが3月に1回、流動性管理ツールの金利を追加でわずかに引上げるという可能性を、完全には否定できない(弊社が想定するメインシナリオではないが)。その理由の1つは、総合CPI上昇率が(一時的とはいえ)間もなく3%を上回る可能性が非常に高いことだ。

いずれにせよ、金融政策がさらに引締められる可能性は、小さく、かつ狭まりつつあると弊社ではみている。これが正しければ、安定した流動性状況と規制強化の組合せが、国債にとってネガティブに働くことはないとみられる。また弊社は、今年後半には中国景気の減速が目立つようになると見込んでいる。そしてこれを基に、PBOCは今年中のいずれかの時点で、実体経済への銀行貸出しを下支えするために、預金準備率 (RRR)の引下げが必要になると考えている。

欧州テーマレポート(2/19): イタリア総選挙 - 安定政権は誕生しないが、政策大幅変更もなさそう 

前回と同じとなる選挙は一つもない。3月4日に実施されるイタリアの総選挙は、2013年の総選挙(中道左派が事実上の過半数を占めた)や、最近のフランス総選挙(改革志向で親EUの安定政権が誕生した)とは異なるものになる可能性が高い。弊社が見込んでいるのは、ドイツ総選挙と似た結果(過半数を占める政党が現れずに、連立政権成立への交渉が長期化)である。弊社は、「五つ星運動」主導の政権誕生はテールリスクとみており、総選挙の結果イタリア景気が現在の回復軌道から外れることは無いと予測している。だが、安定政権の不在によって、イタリアが直面する構造的な課題が注目されるようになると見込まれる(例えば、労働参加率の低さ、生産性向上の緩慢さ、不良債権比率の上昇、高水準の政府債務など)。

ハングパーラメントに:イタリアの世論調査は、これまで実際の選挙結果と正確に一致しておらず、誤差も大きい。だが今回は、準比例制で(右派連合、五つ星運動、民主党の)三つ巴の戦いであり、ハングパーラメント(過半数を占める政党が出ない)となる可能性が非常に高い。

「継続」VS「変化」:弊社が想定する基本シナリオは従来と同じで「問題処理内閣(長期化する可能性もある)の後、右派少数政権が続く」である。その他、大連立、反エスタブリッシュ連合政権、または再度の総選挙が考えられる。五つ星運動主導の政権となった場合に限り、政策の大きな変更につながるだろう。右派政権または大連立の場合は、政策が継続される可能性が高い(政治的に不安定で、財政規律順守や改革に反対する動きは限定的と見込まれる)。

法人減税や(企業の)労働コスト負担削減:右派少数政権は、大規模な財政刺激策を実施すると公約したが、それを実行するための、財政面や政治面の能力は限られることになろう。このため財政ショックの発生(財政状態の急激な悪化)は考えづらい。だが、法人減税と(企業の)社会的費用負担軽減は、一方か両方が実現する可能性がある。それらが、いずれの党のマニュフェストにも含まれているためだ。したがってイタリアの政治家も、イタリア企業の競争力回復は必要という認識を共有している、と考えられる。

フランスとは異なり、国内改革は論点になっていない:フランスの大統領選(2名の候補者が改革アジェンダを掲げた)とは異なり、イタリアでは改革がほとんど論点にはなっていない。このため親・市場的な政権でも、改革を進める正当性は限られ、改革が実行に移されることもほぼ無いとみられる。

EU改革も二の次に: ユーロ懐疑派(五つ星運動や北部運動)も、EU統合に強く反対する一方で、自身のユーロ離脱計画は横に置いている。また弊社は、他党はあいまいなポジションを継続する可能性が高いとみている。即ち、統合深化に公然と反対はしないが、統合を主導することもない、というスタンスだ。銀行同盟が今年完成することや、EUの他の経済プロジェクトも進展しているため、交渉を難航させる要因となり得るのは、移民政策のさらなる統合と考えられる。

外国債券(2/19):双子のピーク、謎の米国ホラードラマ

総論: 双子のピーク、謎の米国ホラードラマ
米国の双子の赤字 - 財政収支と貿易収支 - が再び話題に上り始めている。だが、どちらも今はまだピーク到達にはほど遠い段階にある。当面は財政・物価動向の背後にあるモメンタムが強まり、米国債相場が一段と下落する可能性を懸念せざるを得ない状況が続くだろう。

米国: 見え始めた3%、その先は?
最近の金利上昇の勢いは米10年国債利回りを3%に押し上げる可能性もあるが、持続的な金利上昇を促進する強力な要因は見当たらない。大型減税にもかかわらず、今後数年間の経済成長率は2.0~2.5%の範囲内にとどまる見通しだ。今年前半を過ぎれば、物価上昇のペースも失速する公算が大きい。フェデラルファンド(FF)金利の最終着地点も3%程度だろう。こうした状況では、米10年国債利回りが上昇し続けるのは難しいと考えられる。また、弊社エコノミストは2019年後半から2020年前半の景気後退を予想しており、景気サイクル終盤のダイナミクスも大幅な利回り上昇を抑制することになろう。しかし、この見解にはいくつかのリスク ― 財政赤字の拡大、金融緩和策の世界同時解除、米経済成長率の上振れ ― が存在する。為替がドル高に振れた場合も、タームプレミアムの蓄積や利回りの上昇を支える可能性がある。こうした背景を念頭に置き、イールドカーブのフラット化を想定したポジションを維持するとともに、弱気トレンドの加速をヘッジするため、権利行使期間4カ月・ドル10年金利のゼロコスト・ペイヤー・スプレッドの開始を推奨する。

フランス経済(2/16):失業率低下の主因は、労働力人口の減少 

INSEE(国立統計経済研究所)は15日、フランスの労働力人口と失業率を発表した。2017年第4四半期(Q4)の失業率は、Q3の9.6%から8.9%に急低下(海外県を除く本土は、同じく9.3%から8.6%へ低下)していた。これらは2009年以降で最も低い水準となる。これをみると失業率低下の理由は、景況感が最近上昇していること、または労働市場の改革だと考えたくなる。実際も、シクリカルな景気回復が雇用創出を促進したことはほぼ疑いなく、失業率も中期的には低下が見込まれる。しかし詳しくみると、2017年Q4に失業者が大幅(20万5,000人)減少した背景には、14万7,000人という労働力人口の驚くほど大幅な減少(かつ、生産年齢人口の増加基調~四半期当たり2万-2万5,000人のペース~と一致しない)があった。よって弊社は、今後数四半期で失業率が反転上昇する可能性を否定できない。いずれにせよ、失業率が今後さらに大幅低下するとは考えづらい。弊社はフランスの失業率が、2017年末の8.9%から2018年末には8.7%に低下する(に留まる)と見込んでいる。また、マクロン大統領が選挙戦で公約した「2022年までに失業率を7.0%まで低下させる」の達成は、依然として難しいとみている。

ドイツ経済(2/15):賃金上昇率、相対的にはまだ低い 

弊社は3年以上も前に、ドイツの労働者がいつ(どの段階で)「景気拡大の分け前増加」を強く求めて立ち上がるのか、という疑問を持ち始めた。その実現までに長い時間がかかった。だが、IGメタルの交渉が最近妥結したことは好スタートとはいえ、労働コストに及ぼす意味合いは、不確実な部分が多いためまだ見えてこない。賃金伸び率(年間3.4%)は過度ではないと思われるが、労働時間短縮オプションの大量行使があれば、生産水準や生産性、ひいては労働コストへの影響が大きくなる(とくに、労働市場がいまと同じくタイトな場合は)。ドイツでの足元の賃金トレンドは、GDPに占める賃金のシェア(労働分配シェア)の長期的低下を一時的に食い止め、インフレ率を過去の平均(1.4%)をわずかに上回る水準に持ってくるに足る内容だ。だが労働分配シェアの上昇には遠く、インフレ目標達成へのECBの取組みを強く支持したり、ドイツ経済のリバランスを急速に進めるには至っていない。その実現には、今後の賃金交渉(大規模な公的セクターで間もなく始まる)の結果が上振れることが必要になる。またドイツで賃金上昇が加速すれば、(その場合でも中期的に競争力が低下するリスクはほとんど無いと弊社ではみているが)投資を質量ともに増強させる必要性が意識されるようになるだろう。

米国経済(2/15):1月CPI…「コア」が上振れサプライズ、だが一時的とみられる 

米国の1月コアCPI(食品とエネルギーを除く)は、前月比0.3%の大幅上昇となった(また小数第2位までみると、四捨五入して0.4%になる0.35%に近い水準)。ただ、今回が上振れサプライズだったことは確かだが、インフレが基調的に大きく加速したとは弊社には考えづらい。さらに1月の力強さは、今後持続する可能性は低いとみられる何点かの品目に集中していた。弊社は、「米国のコアインフレ率は今年前半に(前年同月比)2%を目指して上昇するが、後半には軟化する」という自身の見方を変えない。

米国経済(2/13):CPI…診療サービス価格低下を、ウエイト変更で調整へ 

2017年のCPIデータで非常に不可解だった点に、診療サービス価格の持続的かつ歴史的な大幅低下が挙げられる。ただその原因はおそらく解明された。それは現金支払い価格の大幅低下で、自費負担に占める現金支払いの割合が高いことで影響が増幅された。本レポートでは、現金支払い価格低下の理由を探り、「診療サービス価格」サブ指数のウエイト調整の内容も予想する。

外国債券(2/13):金融引き締めに戻る 

総論: 金融引き締めに戻る
最近の株価の調整はまだ我々の金利見通しに修正を迫るほど強烈なものではない。米国の10年債利回りはフェデラルファンド(FF)金利の最終着地点と目される水準に迫り、この辺で上昇は一服、もみ合いに転じる余地が生じている。リスク資産価格が揺らぎ続け、米連邦公開市場委員会(FOMC)が金融引き締めのレトリックを微妙に修正し始めた場合は、なおさらだ。これに対し、ユーロ金利はもっと急激な引き締めを織り込む余地を残しており、ベリー主導の調整局面が再開すると予想される。英国ではイングランド銀行(BOE)が政策金利を据え置いたが、早期利上げに向けたお膳立てをしており、これもベリー・セクターの利回りを押し上げるだろう。

米国: 債券とリスク資産の綱引き
米連邦準備制度理事会(FRB)の金融正常化プロセスを通じて判明したことだが、市場と中央銀行高官のタカ派的な発言の間に負のフィードバックループが完全に復活し、世界的なスケールで作動している。最近の金利上昇局面では、因果関係の連鎖が明らかになったようだ:グローバルなリスクセンチメントは米国株の動向に左右され、米国株は米国債利回りの影響を強く受け、米国債利回りはユーロ圏中核国の債券利回りに引っ張られる度合いが大きい。市場が負のフィードバックループの脚本に従うのなら、中央銀行高官は漸進主義の方向にメッセージをゆっくりと微調整し、債券市場は下値もみ合いの展開となるだろう。本稿では、目先的に一進一退の膠着感が強まりそうな理由として、その他のファンダメンタルな要因についても考察する。金融政策の正常化はのろのろ運転(ストップ・アンド・ゴー)のような過程が予想されるため、ミクロ的または短期的な相対価値分析に頼るのではなく、中長期的なシナリオに基づいたトレードが望ましい。

過去の翻訳レポートを弊社のリサーチサイト( https://insight.sgmarkets.com/#/page/japanese )に掲載しています。

また、原文の英語レポートもご覧いただけます。

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ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司