中国では昨年来、国有四大銀行のATMや、杭州市のホテル、北京市の大学やマンションなどで虹彩認証の導入を進めていた。2018年の春節、交通機関を中心に導入は加速した。西安の「渭南新聞網」、経済サイト「金融界」などさまざまなメディアが伝えている。以下、詳しい記述のある西安の国際空港と、長沙南駅について見てみよう。
西安咸陽国際空港
春節のピークを目前にした2月上旬、西安咸陽国際空港ターミナル2には、北京旅行に出発しようとしている西安の少女、倪さんの姿があった。彼女はかなり前に、オンライン上でチェックインを済ませ、専用QRコードを生成させていた。安全検査場で、彼女は身分証とそのQRコードを提示し、虹彩識別装置ゲートの前に立った。そして6秒後に通過した。次は搭乗口だ。虹彩認証はここで真価を発揮する。もはや何も提示する必要はないのである。ゲートをくぐるだけで1秒もかからない。空港保安職員の話によれば、この方式で確実に効率は上がった、1日2000人の処理が可能になったという。
ただし、これには注意が必要だ。乗客の大部分は、荷物を預けるために列に並ぶ。依然として紙のボーディングパスを受取る人も多い。まだ一部の人たちの効率が上がっただけである。
空港当局も、オンラインチェックインの浸透には、もう一段の時間が必要と認めている。また直前に搭乗便を決める、多忙なビジネス旅客にも適用は難しい。
まず、西部機場集団の微信公衆号「暢想旅行」にアクセスする。そして少なくとも2時間前までにオンラインチェックインを済ませ、専用QRコードを生成させておかなければならない。
しかし多くの乗客の利用可能な“敏捷モデル”が登場したことは間違いない。ペーパーレス化、スピード化に向けた第一歩を踏み出したのだ。
高速鉄道・長沙南駅
長沙市は人口743万2000人を要する湖南省の省都である。2月上旬その長沙南駅に、虹彩認証システムが採用された。乗客は虹彩認証を済ませると、すぐにプラットフォームに出ることが可能になった。
従来の中国の鉄道駅では、まず入場するためにキップを提示し、荷物をX線装置に通す。その後待合室で長時間待つ。そして、切符にスタンプを押す形式の最終改札が始まるのは、発車の直前である。その間プラットフォームには出入りできなかった。
長沙南駅の虹彩識別システムは、2重の改札口を通る。第一のそれには、右側にスキャン装置がある。乗客は、切符と身分証をスキャンする。第二の改札では右側上方に虹彩測定装置がある。ここで第一改札の情報と照合する。これが済めばあとは自由だ。記者の観測では一人6秒ほどで通過していたという。
このシステムは北京、上海、広州、鄭州、西安、太原、武漢、長沙、南昌、佛山、瀋陽、長春などかなり多くの大都市に導入された。
日本はハードのニュースばかり
春節の鉄道切符を手配することは、ここ数十年来、永遠の課題のように思われていた。しかしインターネットの発達により、状況は劇的に改善された。さらに2018年の春節大移動は、虹彩認証システム導入も寄与し、よりスピーディーに、より効率的に、より公平になった。切符の購入難、長い行列、不評だった高くて不味い食事などは、みな過去の遺物になろうとしている。
一方、日本で虹彩認証、顔認証のニュースを検索すると、ほとんどスマホやタブレットに採用された、などというハードに関するものばかりである。有資格者しか検査場入れないよう、顔認証システムを導入する日産自動車というニュースがあった。しかしこれは不祥事への対策である。未来志向の明るいニュースは少ない。
中国では政府による個人データ収集が、あまり問題とはならない。そういう特殊性を考慮に入れても、日本は不備や批判を恐れず、もう少し大胆に採用して欲しいものである。差は開く一方になってしまう。(高野悠介、中国貿易コンサルタント)