シンカー:この1年間の大きな変化は、グローバル・デフレの懸念から、グローバル・インフレの懸念である。一方、ポピュリズムを母体とする政府は、求心力の維持のため、支持者に利益を短期間に直接的に届ける財政支出に依存し始めている。財政支出の拡大に対するコストは、インフレであり、インフレが懸念されれば、財政支出の拡大余地は小さくなる。インフレ懸念を縮小させる政策の方向性は、為替高と自由貿易促進である。これまでは、ポピュリズムを母体とする政府は、通貨安と保護貿易への回帰に誘惑されていたが、短期的に直接的に利益を届けることができる財政支出を優先すれば、為替と通商政策は転換せざるを得ないだろう。1年後には、トランプ大統領が強いドルは国益であり、自由貿易を推進するTPPの交渉に戻ってくる可能性も考えられる。
最新のSGグローバル・レポートと要約
外国債券(2/26):さらなる前進
総論: さらなる前進
米連邦公開市場委員会(FOMC)の議事要旨は、物価上昇率の目標達成に対する米連邦準備制度理事会(FRB)の自信と潜在的な景気上振れリスクを反映し、政策金利の「さらなる緩やかな引き上げ」を正当化する内容だった。弊社の見解として、「さらなる」という文言は、利上げペースの加速を意味するものではなく、引き締め局面の長期化とフェデラルファンド(FF)金利の最終着地点が切り上がる可能性を示唆している。こうした状況や世界経済の好調を背景に、3月の欧州中央銀行(ECB)理事会と米雇用統計の発表を控えて、我々は債券市場に対する弱気なスタンスを維持していく。
ユーロ・デリバティブ: 2018年の金利上昇余地が拡大
昨年12月半ば以降、欧州中央銀行(ECB)の利上げ観測が浮上してきた。今後も長期にわたり、利上げ期待が高まっていく見通しだ。このため、弊社はドイツ10年国債利回りの年末目標水準を0.85%から1.05%に引き上げる。景気サイクルの現段階では、ユーロ5年金利と比べて2年金利の膠着感が依然として強いため、金利上昇圧力は2年-5年カーブのスティープ化につながりやすい。ユーロ金利の2年-5年スティープナーは、6カ月間のコストが0.5BPに満たない割安なベア・トレードである。このほか、イールドカーブのベリー部分におけるユーロ金利ボラティリティーのリスク・リバーサル買いは、金利上昇時にはガンマをロング、金利低下時にはガンマをショートする魅力的な手法である。
ユーロ・ソブリン債: ユーロ圏周縁国に危険が迫る
弊社のソブリン・リスク・エクスポージャーは3月5日を控えてニュートラルの状態となっている。その日は、イタリアとドイツの政権発足をめぐり、予見不可能だが非対称のリスクを伴う大きな一日となるだろう。
米国経済(2/22): 1月FOMC議事要旨 - 2018年は従来見込み通りに利上げが進む
1月FOMC議事要旨には、FRBがインフレ目標の達成に自信を深め、景気上振れリスクをより強く認識するようになった、という内容が含まれていた。だが弊社は、自身の金利見通し(今年は25BP利上げが、3、6、9月の計3回実施される)を変更する強い理由は見当たらなかったと考えている。
1月FOMCの声明では、FFレートを「さらに(“FURTHER”)」段階的に引上げることが必要になるだろうという見込みを示しながら、その意味は明確にされていなかった。弊社が見たところ1月FOMC議事要旨に、12月のSEP(FOMC参加者の経済見通し)を超す追加利上げを行う、と示唆する内容は全く無かった。それ(「さらに」という文言)はその代わりに、短期的に景気が力強く拡大サイクルが長期化した場合は、数年後の利上げ終了時の金利水準が従来想定より高くなる、というシグナルだった可能性がある。
米国経済(2/21):インフレ加速は、まだ本格化していない
先週発表されたCPIとPPIは強いとみられる結果で、「インフレの妖精が、ボトルから飛び出した(インフレ加速が始まった)」という市場の見方を裏付けた。しかし弊社は、(インフレリスクが上方に傾いていることは認めるが)コア物価上昇が本格的に加速したとはみていない。CPIとPPIの他にも、一部の地域では製造現場(工場)で部品価格が上昇していたが、これが今後もコアインフレ率を押し上げるかどうかは、弊社には疑わしい。同様に先週発表された輸入価格も、コンセンサスを上回っていたとはいえ、消費者物価を左右する輸入物価指数は依然として低調である。以下、弊社の主張を説明する図を何点か示した。総じて言うと弊社は、「コアCPI上昇率は、年央まではベース効果によって(前年同月比)2.0%-2.1%まで押し上げられるが、年後半は減速する」という見方を変えない。
過去の翻訳レポートを弊社のリサーチサイト( https://insight.sgmarkets.com/#/page/japanese )に掲載しています。
また、原文の英語レポートもご覧いただけます。
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ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司