2017年10-12月期の実質GDP成長率(1)は前年同期比7.2%増(前期:同6.5%増)と上昇し、市場予想(2)の同7.0%増を上回った。
10-12月期の実質GDPを需要項目別に見ると、投資の回復が成長率上昇に繋がった(図表1)。
民間消費が前年同期比5.6%増(前期:同6.6%増)と低下した一方、政府消費が同6.1%増(前期:同2.9%増)と上昇した。
総固定資本形成は同12.0%増(前期:同6.9%増)と上昇した。貴重品(*3)は同40.8%増(前期:同56.5%)と小幅に低下したものの、3期連続の高水準となった。
純輸出は実質GDP成長率への寄与度が▲1.4%ポイントとなり、前期の+0.2%ポイントからマイナスに転じた。輸出が同2.5%増(前期:同6.5%増)と低下した一方、輸入が同8.7%増(前期:同5.4%増)と上昇した。
実質GVA成長率は前年同期比6.7%増(前期:同6.2%増)と上昇し、市場予想(同6.7%増)と一致した(図表2)。
産業別に見ると、製造業とサービス業の回復が成長率上昇に繋がった。
まず第二次産業は同6.8%増(前期:同5.9%増)と上昇した。内訳を見ると、製造業が同8.1%増(前期:同6.9%増)、建設業が同6.8%増(前期:同2.8%増)と上昇した一方、鉱業が同0.1%減(前期:同7.1%増)、電気・ガス業が同6.1%増(前期:同7.7%増)と低下した。
第三次産業は同7.7%増(前期:同7.1%増)と上昇した。内訳を見ると、商業・ホテル・運輸・通信業が同9.0%増(前期:同9.3%増)と低下したものの、金融・不動産・専門サービス業が同6.7%増(前期:同6.4%増)、行政・国防が同7.2%増(前期:同5.6%増)と、それぞれ上昇した。
第一次産業は同4.1%増(前期:同2.7%増)と上昇した。
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(1)2月28日、インド統計・計画実施省(MOSPI)が2017年10-12月期の国内総生産(GDP)統計を公表した。
(2)Bloomberg調査
(*3)インドは金の輸入大国であり、資本形成の内訳として貴重品の項目が設けられている。貴重品(取得-処分)の増加はGDPを押し上げるが、金の輸入が増加してGDPが押し下げられる側面もある。
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10-12月期GDPの評価と先行きのポイント
インド経済は着実に回復している。16年11月の廃貨以降は現金不足のショックで経済が停滞し、さらに7月の物品・サービス税(GST)導入を控えて企業の在庫削減の動きが広がったことから、4-6月期まで景気は低迷したが、その後は悪影響が徐々に和らぐなか、10-12月期には成長率が7%まで回復するに至っている。実際、足元の現金流通量は廃貨前の水準まで回復しており(図表3)、現金不足は解消されている。GST導入に伴う企業の混乱は収束までには至ってはいないようだが、製造業とサービス業が揃って回復したことを勘案すれば克服しつつあると言えるだろう。
景気回復の主因は投資拡大だ。GSTのシステムに適応した企業が復調するなかで設備投資需要が拡大したことや、政府のインフラ整備事業の進展が投資を押し上げたと見られる。実際、鉱工業生産指数を見ると、10-12月期は資本財が前年同期比11.1%増、インフラ・建設財が同8.5%増と、それぞれ好調だった(図表4)。また10-12月期の連邦政府の歳出も同24.4%増と高水準を記録した。政府が財政赤字目標を後退させてまで景気下支えを図ったことが公共部門の消費・投資の拡大に繋がったと見られる。このほか低金利環境を背景に、国民の間で金需要が増加したこともGDPの押し上げ要因となった。一方、GDPの約6割を占める個人消費は3期連続で減速した。穀物価格の低迷による農業所得の伸び悩みや消費者物価の上昇が家計の購買力の低下に繋がったと見られる。
先行きは、引き続きGST導入に伴う混乱が収束に向かうなか、景気は3月末までに巡航速度に近い状態にまで回復しそうだ。またGSTに合わせてサプライチェーンを再構築する動きが広がるなかで設備投資の拡大や物流コスト低減を通じた物価の安定などのプラス効果も徐々に表れるだろう。また来年度政府予算案では農業や貧困層の保護政策が重点的に盛り込まれたことから、足元で落ち込んでいる個人消費も持ち直していくだろう。
インド統計・計画実施省の成長率見通しは18年度が7.4%、19年度が7.8%と徐々に上昇し、21年度には8%台に達するという、やや楽観的な見通しとなっている。このように景気が「回復」から「加速」に転じるには、モディ改革が成功して民間投資が持続的に拡大するかどうかが鍵を握る。確かに10-12月期の投資回復は好ましい動きではあるが、政府部門が貢献している面が大きい。まずは公営銀行に焦点に当てた改革や資本注入がうまく機能し、不良債権問題が解消に向かうとなれば持続的な民間投資の拡大の道が見えてこよう。
先行きの懸念材料としては物価動向が挙げられる。今後は原油と穀物の価格上昇や景気回復による需要拡大などがインフレ圧力となり、物価が上昇傾向を辿る可能性は高まっている。インド準備銀行(RBI)は先行きのインフレ懸念を指摘しつつも、景気支援とのバランスを取って政策金利を据え置いている。利上げが遅れて物価のコントロールが難しくなる展開には注意が必要だ。
また政府が来年度予算案で財政赤字目標を後退させたことは金融市場で注目を浴びたが、今後は原油価格上昇と内需拡大で貿易収支が悪化することも見込まれる。こうした経済ファンダメンタルズの不安定化により、通貨ルピーの下落に繋がる展開も想定される。2019年に予定される国政選挙に向けて支持率が低下すれば、モディ改革が頓挫しかねない。今後、政府は経済の舵取りで重要な局面を迎えることになりそうだ。
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斉藤誠(さいとう まこと)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 研究員
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