ファイル共有サービス「Drop Box」が、米国証券取引委員会(SEC)に上場申請を行った。同社の企業価値は2014年の時点で94億ドルの評価を受けており、国内で上場するIT企業の中では数年ぶりの大型上場となりそうだ。目標調達額は5億ドルで、債務返済や一般事業目的に利用される。

また中国最大の検索エンジン百度の子会社、愛奇芸(iQiYi)も、米国での上場準備中であることが同社の発表で明らかになっている。同じく予想評価額80億〜100億ドルの大型上場となりそうだ。

フォーチュン500企業の5割が利用するDrop Box、現在の評価額は66億〜85億ドル?

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(画像=Drop Boxサイトより)

2007年サンフランシスコで設立されたDrop Boxは、世界中で5億人以上から利用されているファイル共有サービスだ。ビジネス向けのサービス ではYahoo!やナショナル・ジオグラフィック、ハイアットホテルアンドリゾーツ、Expediaなど国際企業を顧客にもち、フォーチュン500企業の56%がサービスを利用している。

2007〜17年にかけて7回の資金調達ラウンドやデット・ファイナンスを行っているが、2014年のシリーズCでは企業価値94億ドルの評価を受け、モルガン・スタンレーやブラックロック、セールスフォース・ベンチャーズなどから総額3.5億ドルを獲得。続く2017年のデット・ファイナンス ではJPモルガン・チェースがリードインベスターを務め、ゴールドマン・サックス、バンク・オブ・アメリカ、ドイツ銀行、ロイヤル・バンク・オブ・カナダなどから、総額6億ドルを調達した。

2014年の評価額は10億ドルに手が届く勢いだったが、この数字に見合う価値があるかは証明できず、翌年にはフィデリティ・インベストメンツやブラックロックなどに、評価額 や予想株価を下げられている。

しかしその後順調に業績を伸ばし、2017年の収益は前年比30%増の11億ドル。純損失は(9800万ドル減)へと縮小した。CNBCのアナリストは現在の評価額を66億〜85億ドルと見積もっている(CNBC2018年1月12日付記事)。

市場の反応はポジティブ、共同設立者「拡大中だがまだまだ敏速に動ける」

上場の報道を受け、市場はおおむね「上場準備は整っている」とポジティブな反応を見せている。リードインベスターはゴールドマン、JPモルガン、ドイツ銀行、アレン・アンド・カンパニーが務める。ナスダック・グローバル・セレクト・マーケットにティッカーシンボル「DBX」で上場予定だ。

共同設立者のドリュー・ヒューストン氏とアラシュ・フェルドーシ氏は株主宛ての手紙の中で、「拡大中だがまだまだ敏速に動くことができる」と上場への意気込みを述べた。ファイル共有サービス分野ではAppleやAmazon、Googleと競合するだけに、目標調達額は5億ドルとかなり強気だ。しかしあくまで申請のための仮の数字であるため、変更される可能性も考えられる。

近年の大型上場例では、2015年、ニューヨーク証券取引所に上場したファースト・データ・コーポレーションが、評価額140億ドル、総額26億ドルを調達した。

上場後も百度が筆頭株主に、最高評価額150億ドル?

百度は動画配信サービスを提供する傘下愛奇芸(iQiYi)が、米国での上場を準備中であると発表した(ロイター2018年2月14日付記事)。詳細は明かされておらず、百度も「上場の規模は決まっていない」とコメントしているものの、同社が株の大半を保有する意向を示している。現在百度は愛奇芸の株の80.5%を保有している。

上場については昨年9月頃から報じられていたが、あくまで「関係者の証言」の範囲を超えていなかった。同社の評価額は少なくとも80億ドル以上、一説では150億ドルになるといわれており、上場によって市場における勢力が拡大すると予想されている。

百度にとってはライバルとの闘いで優勢に働く要素となるほか、現行のAI(人工知能)開発により多くの資金と時間を投じるための土台作りに貢献するだろう。

バンク・オブ・アメリカ、ゴールドマン・サックス、クレディスイスの3行が既に選出されたとの報道もあるが、これについては確認がとれていない。

百度の「金食い虫」?愛奇芸、過去に小米科技からも資金調達

愛奇芸は2010年の設立以来、騰訊(テンセント)に次ぐ中国第2の動画配信サービスに成長した。昨年12月の時点で月間ユーザー数は4.6億人を突破している。

2012年に百度が筆頭株主となり、翌年、国内の動画配信サービスPPS影音を買収。奇芸と合併させるかたちで事業拡大に成功した。現在は自社コンテンツなどの制作にも力を入れているものの、基本的には無料サービスが中心で広告収入を主な財源としている。つまり百度にとっては「金食い虫」的な要素が強いということになる。

愛奇芸に巨額の投資を行ってきた百度は一度しびれをきらし、2016年に愛奇芸の売却を試みている。しかし評価額の上昇を指摘する株主の声に従い、売却を見送った—という因縁付きだ。

愛奇芸の事業拡大を継続する上で、資金確保は必須である。同社はこれまで3回の資金調達ラウンド で、百度、小米科技(シャオミ)、セコイアキャピタルなどから総額19億ドルを獲得。今回の上場でさらなる資金確保を狙っていることはいうまでもない。

百度の第4四半期の決算報告は、市場の予想を上回る収益37.2億ドル(前年同期比29%増)、時価総額は780億ドル。愛奇芸を上場させることで、さらなる新境地を開拓できるのだろうか。(アレン・琴子、英国在住フリーランスライター)