日本のスマホゲーム、「旅かえる」が中国で大人気である。

目の黒い小さなアオガエルが、普段は自分の家にいて食事をしたり、本を読んだりしている。庭先に生えているクローバーを刈り取ると通貨を貰うことができ、その通貨でお弁当やお守り、道具などを買って旅の支度をする。あとはアオガエルが勝手に旅に出るので、それを見守るだけだ。いわゆる放置系と言われるゲームで10~30代の女性が中核ユーザーである。

昨年12月に配信が開始されたばかりで、中国語にも対応していない。ゲームの中にある店にはいろいろなものが置かれている。たとえば、よもぎのフォカッチャ、あさつきのピロシキ、スタイリッシュテントなど、イラストが付いているにせよ、相当の日本語能力がないと何だかわからないものが多い。細かい指示も当然日本語である。にもかかわらず、今年1月中旬から数週間、中国のアップルストア無料アプリ部門で1位を獲得した。正規のゲームはもちろんタダだが、海賊版が出ていてそれは30元するそうだ。春節直前にはちょっとした社会現象になるほど人気化した。

アオガエルが日本各地へ旅立ち、旅先から写真を送ってくる。その途中でネズミや蝶などと知り合ったりする、ほのぼのとしたストーリーが好かれているようだが、日本の観光地、名産品がたくさん紹介されており、それも人気の秘密の一つとなっている。つまり、日本の文化や日本そのものに興味を持ってくれる若い女性が非常に多く存在するということだ。

中国において、日本のアニメは一休さん、ドラえもん、ちびまる子ちゃんの時代からずっと多くのファンがいる。日本の製品に関しては、家電から日用雑貨、招き猫まで根強い人気がある。若者、特に、草食系若者が、日本のことを好きになってくれる。

昨年の出国者数は日本の人口以上

旅かえる
(画像=Webサイトより)

国家旅行局直属研究機関である中国旅行研究院は2月6日、「2017年中国旅行経済運行分析と2018年旅行発展趨勢」を発表した。それによれば、2017年における中国公民の海外旅行者数は延べ1億3051万人 となり、前年と比べ7.0%増加した。昨年は、日本の総人口を上回る人数が海外旅行に出かけた計算である。

また、国内旅行者数は延べ50億100万人で12.8%増加した。国土面積、総人口が広い中国なので、こういった巨額の数字になるのだろうが、2016年時点での中国の一人当たりGDPは8123ドルで第75位に過ぎない。ちなみに、日本は第22位で38883ドルである。中国の一人当たりGDPは日本の20.9%に過ぎない(IMF統計より)。これだけ国内旅行需要のすそ野が広く、更に成長性が高ければ、海外旅行者数も今後、どれだけ伸びるのか想像もつかない。

一方、海外からの旅行者数は延べ1億3948万人で0.8%増であった。

海外旅行については、もう少し詳細なデータがある。

中国旅行研究院、中国最大のオンライン旅行会社であるCtrip社は「2018年春節海外旅行趨勢予想報告」を発表。今年の春節休暇中に海外旅行をする中国人は延べ650万人で、昨年の延べ615万人をこえて過去最大になると予想されていた。

2月1日時点でのCtrip社の団体、個人のチケット枚数から計算すると、出国先で最も多いのはタイで、日本は第2位である。以下、シンガポール、ベトナム、インドネシア、アメリカ、マレーシア、フィリピン、オーストラリア、カンボジアと続く。タイに行く人は避寒地として、日本に行く人は逆に雪景色を鑑賞に行くことを目的としている人が多いそうだ。驚異的な潜在旅行需要が存在するので、中国との距離が近い日本の寒冷観光地は誘致の仕方によっては今後、大きく売り上げを伸ばせる可能性が高い。

ちなみに、昨年第3位であった韓国は、春節期間中、平昌オリンピックが開かれているにもかかわらず、今年はベストテン圏外に落ちた。2016年7月、韓国がTHAADミサイルを配置したことによる中国側の報復措置は予想以上に長く厳しく、多くの都市で韓国への団体旅行が事実上禁止されているような状況である。反日デモなどで日本も幾度か経験があるが、中国ビジネスは日中政府間の良好な関係が非常に重要であることが改めて認識される出来事だ。

春節直前、為替は人民元安へ

春節に関して金融面で少し変わった現象が起きている。上昇トレンドが出ていた人民元だが、春節を前に人民元安に転じていた。

人民元対ドルレート(USDCNY)の値動きをみると、12月12日に1ドル=6.6229元の安値を付けた後、人民元高ドル安が進み、2月7日には場中で6.2512元の高値を付けている。しかし、8日は終値ベースで0.75%下落しており、春節直前の14日には一時6.353元の安値を付けている。春節前の高値安値間の変動幅は1.63%となる。

かつて日本でも、盆休み直前には、OLなどの海外旅行者数が急増することで、ドル買い需要が拡大、一時的にドル高・円安に振れることがあった。中国についても、春節前はドル高・人民元安が発生するほど出国者の存在感が目立つ時代になってきた。

中国の海外出国者数は今後も増え続けるはずだ。5月のメーデー休暇、10月の国慶節休暇もドル高・人民元安に振れやすいといった傾向があるということを頭の片隅に記憶しておいてもよさそうだ。

田代尚機(たしろ・なおき)
TS・チャイナ・リサーチ 代表取締役
大和総研、内藤証券などを経て独立。2008年6月より現職。1994年から2003年にかけて大和総研代表として北京に駐在。以後、現地を知る数少ない中国株アナリスト、中国経済エコノミストとして第一線で活躍。投資助言、有料レポート配信、証券会社、情報配信会社への情報提供などを行う。社団法人日本証券アナリスト協会検定会員。東京工業大学大学院理工学専攻修了。人民元投資入門(2013年、日経BP)、中国株「黄金の10年」(共著、2010年、小学館)など著書多数。One Tap BUY にアメリカ株情報を提供中。HP:http://china-research.co.jp/