東芝が米国原子力事業子会社の巨額損失計上及び不正会計疑惑に関し調査開始を公表したのが去年の2月であり、あれから約1年が経過した。事件発覚までの背景及び事態収拾に向けた現在までの動き、そして東芝経営の今後について、株価動向を交えて考察する。
異例の決算発表延期
東芝は創業明治8年、売上高4.9兆円、従業員15万人に及ぶ巨大企業グループである。現在は家電メーカーというより、エネルギー・インフラと電子デバイスを主要ドメインとしている。
その東芝のトップ綱川社長は2017年2月14日、巨額損失に関する情報と同時に、2016年度第3四半期決算及び年度業績見通しについて正式な発表の延期を明らかにし、巨額損失に関しては、米国原子力事業子会社に関連するのれんの減損が7,100億円に達する結果、営業損益が4,100億円にまで落ち込む旨の見通しを公表した。
ただし、この見通しは暫定的であり、第3四半期決算については監査法人であるPWcあらたの適正意見を受けることができなかった。この事態の責任をとり志賀重範会長は辞任、社長と原子力事業担当常務をはじめ取締役に対して報酬返上処分を課した。
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のれんの減損損失とは
「のれん」は会計用語であり、M&A巨額買収した際に計上されるプレミアムであり、買収価格と被買収企業の資産価格との差額だ。被買収企業のブランド価値や合併によるシナジー効果がプレミアムに織り込まれているわけだが、期待に反して業績が悪化すればプレミアムの価値を下げ損失を計上しなければならない。これが「のれん減損損失」だ。
東芝による減損損失は突出して大きいが、他企業での損失計上も珍しくない。最近でも、楽天は動画子会社に関連して243億円、キリンホールディングスはブラジル子会社に絡んで76億円の減損損失を計上した。
2016年の日本企業によるM&A買収額は、2年連続で10兆円を超えた。ソフトバンクによる英アーム・ホールディングス買収(3.3兆円)やアサヒビールによるビール事業買収(1.1兆円)など巨額買収も目立つ。同時にのれん額も膨らむ傾向にあり、上場企業合計で25兆円以上に上る。仮に全額減損となれば、上場企業の純利益の9割が吹き飛ぶリスクを抱えている。
監査法人の監査結果報告書と揺れる株価
企業の決算をレビューする監査法人は、監査結果報告書に意見を記載する。通常は適正との意見が付される。しかし、東芝の監査法人であるあらたは東芝の決算に対し、当初適正意見を表明しなかった。米国子会社の損失に関し、東芝本社がもっと以前からわかっていたのではないか、と疑問を抱いていたからだ。
決算に適正意見が付かないと、市場や投資家はその企業の存続が危ぶまれているとみなし、最悪の場合は上場廃止に追い込まれる危険性がある。東京証券取引所は、適正意見不表明を受け、2017年3月には東芝株を上場廃止の恐れがある「監理銘柄」に指定した。
東芝の正式決算発表は再延期を繰り返し、半年後の8月11日に、ようやく限定付き適正意見が付された監査結果報告書が提出された。これを受け、東京証券取引所は10月11日、監理銘柄指定を解除した。東芝株は東証1部より2部に降格されたものの、今のところ上場廃止を逃れた格好だ。
株価は?上場廃止は?
この間、株価も乱高下を繰り返す。2016年12月事件発覚以前に475円の高値(12月15日)をつけていたのが、翌年2月17日には178円にまで急落、その後の指定解除で株価は347円(10月16日)にまで値を戻した。
さて今後の東芝だが、何とか今後も上場は維持できそうだ。巨額損失の影響で、2016年度決算では債務超過に陥ったが、稼ぎ頭である半導体メモリー事業の売却もめどが立ち、2017年度は債務超過から脱する見通しだ(東証基準では、2期連続で債務超過が続くと上場基準に抵触する)。
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