仕組みを理解して「ロジカルシンキング」を使いこなそう!

苅野進,ロジカルシンキング
(画像=The 21 online)

社会人であれば、仕事をしているうえで「ロジカルシンキング」という言葉を聞いたことがない人はほぼいないのではないだろうか。しかし、そもそもロジカルシンキングとはどんな考え方なのか、理解している人は少ないかもしれない。そこで、これまで小学生からビジネスマンまでロジカルシンキングを教え、指導してきた学習塾ロジムの塾長・苅野進氏に、ロジカルシンキングの基本についてうかがった。

ロジカルシンキングは魔法の道具ではない

ロジカルシンキングというと、フレームワークを使ったり、「結論から先に言う」「言いたいことは3つにまとめる」といった作法に沿って考えたり話したりすることだと思われがちです。

しかし、単に形をなぞっただけのロジカルシンキングは、実際の仕事や生活では役に立ちません。それどころか、周囲とトラブルを起こしたり、人間関係に摩擦を生じさせる原因にもなります。「ロジカルに話している自分は正しくて、理解できないのは相手が悪い」と考え、一方的に自分の意見を押し通したり、相手を論破するためにロジックを使えば、コミュニケーションがうまくいかなくて当然です。

まず理解してほしいのは、「ロジカルシンキングは、いつでも誰にでも通用する答えを出してくれる魔法の道具ではない」ということ。その場にいる全員で「前提」を確認し、共有していなければ、考えた結論に対して納得感を得ることはできませんし、論理的に導き出した案も実際にうまくいくかどうかは未知数なので、ほぼ確実に修正が必要になります。

ロジカルシンキングは、論理というルールに従うなら、皆が“一定の”納得感を得られる結論が導き出せるし、目の前の問題を解決できる可能性が高まるという「考え方のコツ」というべきものなのです。

「暑いから半袖を着る」は本当に論理的!?

私が小学生にロジカルシンキングを教えるとき、よく出す例題があります。

「今日はとても暑い。だから半袖のTシャツを着る」

さて、これは論理的な文章でしょうか。

確かに筋は通るし、論理的です。ところが沖縄の人は、同じ文脈でこんな文章を作ります。

「今日はとても暑い。だから長袖を着る」

日差しが強い南の地域では、暑い日ほど日焼けを防ぐために長袖を着るという「前提」がある。だから沖縄の人には、これが論理的な文章になるわけです。

つまり、その考えが論理的であるかどうかは、「前提」によるということ。お互いが自分の価値観を前提に話しているうちは、いくらロジカルに話したところで理解し合えないし、問題解決もできません。その場その場で全員の前提を擦り合わせ、論理というルールを生かすための土俵作りをする。これがロジカルシンキングの第1ステップです。

この「前提」には、「ゴール」も含まれます。「そもそも何を目指すのか」という前提を確認しなければ、やはり誤解やすれ違いが生じます。

たとえば、あなたがコンサルタントで、クライアントから「会社の売上げを増やしたい」と相談されたとします。そこで、フレームワークを駆使して売上げアップの戦略を立て、実行した結果、売上げを伸ばすことができました。

ところがクライアントから、「売上げは増えたが、コストも増えたじゃないか」とクレームが入りました。つまり、「売上げを増やしたい」という言葉の裏には「コストは上げずに」という前提が隠れていたということ。すると、そもそもクライアントが目指すゴールは「売上げを増やす」ではなく「利益を増やす」ではないのか、あるいは「売上げも利益も増やす」ではないのか、といった可能性が出てきます。

また、「売上げを増やしたい」という要望に対し、「ブランドを一新しましょう」と提案したら、「今の社長は創業家でブランドに強いこだわりがあるので、そこは変えられない」と拒否された、といったケースもよくあります。このように、ビジネスでは「相手は言葉にしないが、実は譲れない感情や社内的な事情」を“隠れた前提”として持っているケースが多いもの。だからこそ、まずは「ゴールを含む前提の共有」が欠かせないのです。

一見、当たり前なことの「例外」を探してみる

加えてもう一つ、やるべきことがあります。それは「例外」の把握です。

先ほどの「暑い日に何を着るか」という問題なら、東京に住んでいる人は「Tシャツ」「タンクトップ」「短パン」といった回答が浮かぶでしょう。そこで「例外はないのか」と考えてみるのです。「東京より日差しが強い地域ならどうだろう?」「東京より湿度が高い地域ならどうだろう?」など、さまざまな例外が考えられるはずです。

例外を考えると、第1ステップで「隠れた前提」の見落としがないかのチェックにもなります。この「例外の把握」がロジカルシンキングの第2ステップです。

これらのステップで、論理的な思考法やフレームワークを使うのは非常に有効です。

例外を洗い出すために、「MECE(ミッシー)」で考え漏れや抜けがないかをチェックしたり、「帰納法」を使って「過去にはこんな例外があったから、今回も同じような例外があるかもしれない」と類推したりできます。また、「Bad Case Thinking」といって、わざと意地悪な立場から反論を考えるという手法を使い、前提を疑ってみることもできます。

フレームワークという「思考の型」として残っているものは、多くの人が納得した実績があり、それだけ精度の高い仮説を立てられるツールだということ。うまく使いこなして、その場に関わる人たちが納得感を得られる仮説が立てば、意思決定もしやすくなり、素早く実行に移れます。

いくら論理的に考えても100%の正解は出ない

ただし、ここでもう一つ理解してもらいたいことがあります。それは、どんなにロジカルに考えても、100%の正解は出ないということです。

○×で評価する学校のテストとは違い、何が本当に正しいかはやってみなければわからないのがビジネスの世界です。どんなに前提を擦り合わせ、綿密に例外を洗い出したつもりでも、いざ実行してみたら「想定外の例外」が必ず発生する。これも当たり前のこととして捉えなくてはいけません。

ビジネスにおいて大事なのは、むしろここからです。

「例外が発生したから、これは失敗だ」で終わらせるのではなく、例外が発生した原因や理由を理解し、改善するというステップにつなげなければ、成果は出せません。このサイクルを速いスピードで回し続け、意思決定の精度をどんどん上げていくことが、目指すゴールに到達する一番の近道なのです。

苅野進,ロジカルシンキング
(画像=The 21 online)

この「例外の発生」→「理解」→「改善」というステップにおいても、ロジカルシンキングやフレームワークが役立ちます。

もう一度前提に立ち返り、「MECE」で考え漏れがなかったかを再チェックしたり、問題を小さく因数分解する「フェルミ推定」や問題解決のフレームワークである「SCAMPER(スキャンパー)」を使って理解や改善を進めたり、そもそも問題の論点が正しかったのか「ゼロベース思考」で考えるなどの活用ができます。

例外という結果は、実行した人しか得られない貴重なデータです。100点満点がないビジネスの世界で成果を出すには、その結果を次の意思決定に活かし、今より一歩でも二歩でも前進するという積み重ねが必要です。

また、組織で働くビジネスマンにとって、早い段階で上司と一緒に例外を把握しておくことはとても重要です。

上司に提案するとき、「100%うまくいきます」とプレゼンして決済をもらったのに、実行したら例外が発生したとなれば、上司からの信頼は失われます。しかし、「今回はこの案でいきます。ただし例外が発生する可能性もあるので、その場合はこんな対処法を考えています」と事前に伝えておけば、むしろ上司からの信頼は増すでしょう。

「100%完璧な案ができてからでないと実行できない」では、実際のビジネスは回りません。ロジカルシンキングが万能ではないことを知ったうえで、日々の仕事の中で論理的な思考を実践的に活用してください。

それでは後編で、ロジカルシンキングでよく用いられる思考法とフレームワークについて解説します。

苅野 進(かりの・しん)学習塾ロジム塾長兼代表取締役社長
東京都生まれ。東京大学文学部卒業後、経営コンサルティング会社にて、社会人向けのロジカルシンキングの研修・指導などを担当。自ら問題を設定し、試行錯誤しながら前進する力を養うことこそ教育の最も重要課題であるという考えから、2004年に学習塾ロジムを設立。小学生から高校生を対象に、論理的思考力・問題解決力をテーマにした講座を開講している。著書に、『10歳でもわかる問題解決の授業』(フォレスト出版)など。(取材・構成:塚田有香)(『The 21 online』2018年2月号より)

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