シンカー:マーケットは、日銀の金融緩和の出口への警戒感により、円高や株安が進行してきた。しかし、因果関係は逆で、マーケットが警戒すればするほど、2%の物価目標の達成は困難となるため、日銀の金融緩和の出口は遅れることになる。長期金利の誘導目標の引き上げで、副作用が懸念されるフラットするぎるイールドカーブを修正するのは2019年半ばになるだろう。その必要条件は、明確な賃金上昇などを背景にコアコア消費者物価指数が1%程度上昇し、展望レポートでの物価のリスク判断が「下振れリスクの方が大きい」という下方から中立化され、そして円安の動きが再開することであると考える。一方、需要拡大が財の価格を押し上げる形は製造業で続くと考えられるが、足元の円高によりその動きが一時的に抑制される可能性もある。リスクシナリオとして、ドル・円が100円を下回る水準で定着すれば、インフレ期待の縮小への対処として、若田部副総裁や片岡審議委員が指摘するように追加金融緩和の可能性が浮上することになろう。その手段は、マーケットが警戒してきたのが緩和の時間軸の短縮であることを考慮すれば、副作用が大きくなるリスクがある金利引き下げより、一定期間は金利引き上げ方向の政策変更はしないことを明確にコミットする時間軸の強化になるかもしれない。

SG証券・会田氏の分析
(画像=PIXTA)

2月のコア消費者物価指数(除く生鮮食品)は前年同月比+1.0%と、1月の同+0.9%から上昇幅が拡大した。

2017年は1月にマイナスからプラスに転じて以降、上昇幅が順調に拡大してきた。

潜在成長率を上回る成長が示す需要拡大と、賃金の上昇などによるコストの増加が、明確に物価を押し上げ始めている。

2月の消費者物価指数(除くエネルギーと食料)の前年同月比は+0.3%と、1月の同+0.1%から跳ね上がり、物価上昇圧力の広がりを示している。

2月のコアコア消費者物価指数(除く生鮮食品およびエネルギー)も前年同月比+0.5%と、1月の+0.4%から上昇幅が拡大している。

6M/6Mは年率で+0.7%まで上昇幅が拡大し、前年同月比を上方に引っ張っており、年末までには1%程度まで上昇する可能性が高くなっている。

アベノミクスが円安や短期的な需要対策だけではなく、日本経済の内需を含めた本格的な景気拡大に寄与しているのは、非製造業の売上高経常利益率がしっかり上昇し、これまでにない圧倒的な最高水準になっていることで説明できる。

その高水準の利益率がとうとう伸び悩み始めたことが確認されている。

賃金の上昇などによるコストの増加を、売上高の増加でカバーする余地が減っていることを意味する。

高水準の利益率を維持するためには、企業の選択としては、売上数量を更に増加させるか、価格を引き上げる必要が出てくることになる。

年度初めの4月以降に、サービス価格の引き上げがより強く進行していく可能性がある。

2017年3月から5月まで、コアコア消費者物価指数の季節調整済前月比はすべて-0.1%で弱かった。

2018年の4月前後の値上げが強ければ、ゲタの効果により、前年同月比の加速が鮮明となり、しっかりとした物価上昇が注目されるようになるだろう。

春闘を経た賃金上昇が需要を支える形もあり、売上数量増加と価格上昇の両立が可能とみられることが、経営者の値上げの判断を後押しするだろう。

マーケットは、日銀の金融緩和の出口への警戒感により、円高や株安が進行してきた。

しかし、因果関係は逆で、マーケットが警戒すればするほど、2%の物価目標の達成は困難となるため、日銀の金融緩和の出口は遅れることになる。

長期金利の誘導目標の引き上げで、副作用が懸念されるフラットするぎるイールドカーブを修正するのは2019年半ばになるだろう。

その必要条件は、明確な賃金上昇などを背景にコアコア消費者物価指数が1%程度上昇し、展望レポートでの物価のリスク判断が「下振れリスクの方が大きい」という下方から中立化され、そして円安の動きが再開することであると考える。

一方、需要拡大が財の価格を押し上げる形は製造業で続くと考えられるが、足元の円高によりその動きが一時的に抑制される可能性もある。

ドル・円が100円を下回る水準で定着すれば、インフレ期待の縮小への対処として、若田部副総裁や片岡審議委員が指摘するように追加金融緩和の可能性が浮上することになろう。

その手段は、マーケットが警戒してきたのが緩和の時間軸の短縮であることを考慮すれば、副作用が大きくなるリスクがある金利引き下げより、一定期間は金利引き上げ方向の政策変更はしないことを明確にコミットする時間軸の強化になるかもしれない。

既に、黒田総裁は2日に衆議院で、2018年度内に「出口について具体的な議論を探るとは考えていない」と指摘している。

ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司