中国の李克強首相は、全国人民代表大会の閉会に合わせ、BATJ(バイドゥ/百度、アリババ、テンセント、ジンドン/京東)など海外上場しているIT大手が、国内A株市場(上海または深セン)に上場することを歓迎すると述べた。その環境作りに協力するという意も含まれているだろう。
一方でIPO環境のほうは、BATJが海外市場へ逃げ出したころと一向に変わっていない。それどころか悪化しているかもしれない。最近IPO市場に、一大事が発生しているという。
「IPOが認められるのは、3年で少なくとも1億元かせぐ企業でなければならない」という話がささやかれているのだ。
これでは少なからぬ企業がIPOをあきらめざるを得ない。中国のIPOはゆっくり死に向かっているのだろうか。「捜狐網」「東方財富網」など多くのメディアが伝えている。
36社が申請撤回に追い込まれる?
証券監督管理委員会(証監会)と大手証券会社とのやり取りから、近日、証監会が“IPO大検査”を行うのは間違いない。そのとき、3年間の利益合計が1億元未満の会社は、IPO申請を撤回させられるというのだ。
現在、110社の「新三版企業」がIPO申請している。しかし、これにより36社が撤回に追い込まれるという。この「新三版企業」とはなんだろうか。新三版とは実体ではなく概念である。中国のシリコンバレー、北京・中関村科技園区の非上場会社向けに生まれた、金融支援方式であった。地域の政府や証券会社が主体となって市場外株式売買の支援などを行う“多層的資本市場体系”であるという。
今では中関村だけでなく、上海張江高新技術産業開発区、武漢東湖新技術開発区と天津濱海高新区などに広がっている。合計では1万1000社以上、発行済み株式は、約7020億株になる。いずれも資金需要の高い、新進企業であろう。
IPOが危なくなっている36社には2354人の株主がいる。最も多いのは、「潤衣節水」という会社の879人である。同社の2014~2016年の年報によると3年間の利益は8000万元となっていて、1億元には少し距離がある。879人は想定していた上場益を手にできない。そしてこの基準に合致するのは、1万1000社中の540社、全体の5%に過ぎない。
証監会の事情
3月中旬、証監会は現在の全体状況について言及した。それによると申請を受理した企業は407社、承認されたのは29社、未決は378社だが、そのうち19社は審査中止となった。この407社の他に審査“終止”となった会社も48社ある。
金融データサービスのWind(上海)によれば、1月に審査したのは49社、18社は通過したが、24社は却下された。通過率は36.73%であった。このペースが続けば、400社を審査するには10カ月かかることになる。
2017年の下半期、某証券会社のD氏は、証監会とともに22社のIPO現場検査に同行した。そのうち18社で問題が見つかっている。
要するに証監会は手一杯なのである。中国市場のIPOは“氷河期”に入った。
海外でも構わない?
すでにこうした事情は広く周知されている。今年に入り、証監会に提出され、受理されたIPO目論見書は、5社のみである。前年同期は30社だった。
某経済学者は、IPO申請減少の原因を2つ指摘している。一つめは、これまで見てきた通り、審査の厳格化である。もう一つは、ユニコーン企業の上場の途を整えるためであるという。
後者はわかりにくいが、価値の高いユニコーン企業が国内市場に上場すれば、さらに多くのユニコーン企業を培養する土壌になる。例えば「滴滴出行」「今日頭条」などである。海の物とも山のものともつかない新三版企業は優先順位が低いのだ。
それに首相が表明したように、国務院、証監会とも、BATJを始めとする海外上場組の国内回帰を優先している。それでは新興企業はどこで資金調達すればよいのだろうか。海外へ行って大きく育ってもどってくれば、それでよい。口には出さずともそういうことなのかも知れない。これはこれでスケールの大きな育成システムかも知れない。そして真に注目すべきは、上場意欲のある企業の多さである。(高野悠介、中国貿易コンサルタント)