2018年度の与党税制改正大綱が決定され、今国会で成立する見込みとなった。現在、文書の書き換え問題という不祥事を抱える財務省だが、彼らはすでに2019年度の税制改正で、新たな課税先に照準を定めたようだ。それは「金融所得の税率引き上げ」。財務省はすでに現状より5%税率アップの試算を済ませ動きつつあるが、「富裕層課税強化にみせかけた大衆増税」との反論が上がっている。

日経報道と財務省の見解

金融所得,税率引上げ
(画像=pathdoc / Shutterstock)

「財務省の官僚たちが早くも2019年度税制改正に目を向け始めた。次なる増税項目としてささやかれているのが、株式の配当や売買にかかる金融所得課税の増税だ。(略)税率5%上げの主張も出ている」

こんな書き出しで始まる記事が日経新聞1月16日付夕刊に出た。今後は中所得層への増税に踏み込めないだけに、高所得者層や余裕のある中所得者層が行っていることが多い株式取引への増税を狙っているというのだ。

財務省によると、所得にかかる税率は所得1000万円では10.8%で、そこから同1億円では29.2%まで税率は上昇していくが、1億円を超えると低下していくという。確かに、税の再分配機能から言えば、この点は矛盾している。

さらに、株式の譲渡益は一律20.315%と累進課税ではないために、高所得層の税負担は低下する。確かにこれも改善の余地はある。財務省はこの2点を突破口に、株式取引増税に目をつけたそうだ。

財務省ではすでに「税率を5%引き上げれば2500億円程度の財源になる」との試算を済ませたうえで日経記者にリークしているだけあって、方針はほぼ固まっていると言えそうだ。

大和総研レポートによると……

この報道に対して、異論を唱えたのが大和総研だ。3月2日付で発表したレポートは8ページにわたってデータを示しつつ財務省に反論した。

大和総研の主張は大きく分けて以下の3点だ。

(1)年間所得1億円超の所得層は納税者の0.04%にすぎず、現行制度が所得再分配機能を歪めているとは言いがたい (2)仮に金融所得税率を現行の20%から25%に引き上げた場合、税収面では富裕層よりも中堅以下の所得層にかかる増税効果のほうがはるかに大きく、大衆増税だ (3)超富裕層はIPOに伴う株式売却益が多いと推察され、創業意欲の減退や税率の低い周辺国への流出を招くおそれがある

(2)の部分を掘り下げて紹介しよう。大和総研は、財務省が根拠としているデータは「申告納税者のみを対象としており、申告を行わない給与所得者層などを含んでいない」「株式の所得についても、申告納税が行われた者のみを対象としており、源泉徴収ありの特定口座や申告不要の配当により、確定申告なしで納税された株式所得を含んでいない」などと指摘した。

そのうえで、国税庁のデータから独自に試算したところ、金融所得税率を現行の約20%から25%に引き上げた場合、税収の増加額は約5500億円となった。ただ、年間所得金額の層で分けた増収額の内訳は、1億円超は約1050億円なのに対し、1億円以下は4450億円、500万円以下の層は1500億円だった。また、400万~700万円と1200万円前後の収入がある層からの税収増が特に多くなっているという。この層は共働きを含め、いわゆる会社員や公務員などが多くを占めるのではないだろうか。

このほか大和総研は、平均税率が1億円超の層にとって引き上げ幅が大きくなるのは認めつつ、給与所得者と申告納税者の合計に占める年間所得が800万円以下の層(全体の94.92%)は、「そもそも平均税率が10%以下(住民税を合わせて20%以下)であり、現行の金融所得税率20%のほうが平均税率より高くなっている」と指摘。さらに「5%引き上げることで、年間所得が800万~1500万円の層でも金融所得税率が平均所得より高くなる」としている。

この800万~1500万円の層は2017年の税制改正で設けられた所得制限により配偶者控除が受けられない層だ。配偶者控除と金融所得税率引き上げのダブルパンチは大衆いじめと言えるのではないか。(フリーライター 飛鳥一咲)