かつて中国の貯蓄率は常に世界トップクラスと言われた。しかし、中国工商銀行の調査によれば、2010年以降、中国国民の貯蓄率は下降を続けている。2010年の16%から2017年には7.7%と大幅に下落、史上最低値を記録したのである。この2010年代、中国人の財布の中身は、どのような変化を遂げたのだろうか。ニュースサイト「今日頭条」が分析している。

銀行預金は流出

中国経済,貯蓄率
(画像=PIXTA)

従来型の生活習慣では、余資は銀行に預けるものだった。利息は高くなかったが、何より安全だった。しかし近年の可処分所得中に占める貯蓄の割合は、大きく下がっている。2010年~2017年までの間に25.4%から12.7%へと、ちょうど半分に減った。

確かに若者たちは、両親世代のように貯蓄を重視していない。彼らは消費を惜しまないというのではなく、消費する領域を決めているのだ。それがときに広くなりすぎ、そのときはためらわず金を借りる。欧米式の考え方だ。

一方で長期にわたる低金利政策と低インフレ率は、伝統的貯蓄への積極性を挫いた。その結果、余資は新しい金融商品へ流れる。

2010~17年における最大のトピックは、インターネット金融の勃興であった。とくに画期となったのは2013年「余額宝」の登場である。これはアリババグループのMMFで、2017年には年率換算利息は4%に達した。それに対して2017年の国有5大銀行の定期預金利率は、1年もの1.75%、2年もの2.25%である。さらに余額宝はスマホ操作一つで出し入れ自由だ。

こうして資金は“宝宝類”と呼ばれる理財産品へ向かう。近年の増加ぶりは爆発的だ。2017年末の残高は、6兆7400億元に達している。そのうち2兆5000億元は、昨年1年間だけで増加した。

これは貯蓄率低下の原因ではない。ネット金融発達の一面を表したものである。

不動産とネット金融の発達

中国の貯蓄率低下の真因はどこにあるのだろうか。確かに家庭負債率は、急速に上昇した。2010年以前、中国の家計負債率は極めて低かった。借金して消費する習慣もあまり見かけなかった。しかし2013~2017年にかけて、家庭負債のGDP比は、33%から49%へ突如急増したのである。これには2つの要因が考えられる。

一つは多くのの市民が、高騰した住宅を購入したことである。これで手持ち資金を失い、住宅ローンを抱えた。住宅債務の対GNP比は、2015年の36.4%から2017年には48.3%に上昇した。家庭負債の上昇を抑えるべく、地方政府はさまざまな抑制策を打ち出した。中には世間を大きく騒がせる施策もあった。

もう一つは消費者金融の、これもまた急速な発展である。分割払いの定着によって大型商品、金銀宝石、乗用車、家電などが、若者でも購入できるようになった。ネット通販業者以外にも、さまざまな金融サービスを提供する業者が現れた。これらはネット通販の興隆を下支えした。

また人民元価値の上昇に伴い、海外商品の購入も増えた。さらに“双11”セールの認知度も高まり、中国ネット民の“実力”を世界に知らしめた。

総合的に見て、貯蓄の増加する時代は終わりを告げた。理財産品の選択、住宅購入、借金をしての消費、さまざまな場面において、リスク管理の“平衡感覚”が必要だ。一方これらが刺激となって、国内の経済成長を支えているとも言える、と記事は結んでいる。

不動産政策と連動

この記事に対して、ユーザーコメントが殺到している。とても黙っていられない、という雰囲気が伝わってくる。

「どうせ貯蓄は、すべて住宅の頭金に回る」
「金持ちの銭を民へ回せ」
「すべての悪は、不動産にある」
「住宅、病院、教育が、金を飲み込む怪獣だ」
「住宅購入のプレッシャーは高まるばかりだ。馬雲に何とかしてもらおう」

馬雲氏とはアリババ創業者のことだ。特に住宅政策に関わる不満が目立つ。ここをしくじると社会不安を招く。しかし不動産売買は、地方政府の収入源でもある。政策の運用は綱渡りなのだ。

一方でインターネット金融発達により、これまでの伝統金融業が手をつけてこなかったニーズ、細かい資金の貸し借りが可能となった。しかし住宅購入で失った資金を、こちらのやりとりで何とか補っている、というのが実態だろう。貯蓄率はもはや増えることはない。しかし資金の運用は極めてアクティブになっていく。これが当面のトレンドのようである。(高野悠介、中国貿易コンサルタント)