不動産バブルの最盛期だった2010年前後、墓地の価格もその波に巻き込まれ高騰した。投機の対象となってしまったのである。もともと住宅市場とは違い、公正な価格基準はなかった。近年になり、中国最大の葬祭サービス会社、福寿園(香港市場上場)の発表するデータが、権威を持つようになる。それによると、中国の墓地価格は急上昇している。清明節に前後して、この問題を「網易新聞」「騰訊網」など複数のニュースサイトが分析している。中国における葬送の問題点を見ていこう(1元=16.95日本円)。
家も無し、墓も無し
福寿園の2017年財務報告によれば、同社の販売した墓穴(区画)の平均価格は174万円(10万2400元)だった。この1年で1万5000元上昇した。最も高価な墓地は、平均価格711万円(42万元)だった。こちらは1年で10万元上昇している。その結果、同社の荒利益率は82.7%となった。ここ数年75%を下回ったことはない。“暴利”ともいえる水準である。
上海においては、1平方メートルに満たない最低ランクの墓地でも平均100万円(6万元)を要する。北京では郊外なら50万円で買えるところもあるが、環状6号線の内部なら、やはり最低100万円である。整地、墓碑、埋葬、管理など各種費用を含めると、実際はこの2倍かかるとみられる。
お墓を手に入れるのは、住宅以上に困難を極めているのだ。なぜこうなってしまったのか。
北京のメディアによれば、北京ではここ10年来、公墓用地の面積は、1平方メートルも増えていない。そして民生部の公布した「中国殯葬事業発展報告2012-2013」は、全国ほとんどの都市で、墓地は10年以内になくなってしまう、と指摘している。
墓の使用期限は20年
墓の供給不足が象徴しているように、中国葬祭業の前途には、巨大な市場空間が広がっている。中国は今まさに高齢化社会に入ろうとしているからだ。現在、年間の死亡者数は1000万人前後だが、自然死亡者数はこれから毎年増加していく。墓地の需給はさらに逼迫する。福寿園の幹部は、墓地価格の上昇空間もまた広大なのだと述べている。
北京市中心から120キロほどに位置する「河北世界華僑陵園」は、すでに第六期の工程を終えた。市の中心には購入できる墓はない。したがってここには人気が高まり、毎年20%のペースで値上がりを続けている。
こうした状況下、首尾よく墓を手に入れ、安らかな眠りについたとしよう。しかし中国では、そのままゆっくりしているわけにはいかないのである。
国家規定により墓地の所有権は、国または自治体に属している。したがって墓地の売買とは、所有権ではなく、使用権の貸借関係を意味する。最長使用期限は70年である。これは一般の不動産も変わらない。
しかし墓地の場合は、20年を超えると管理費が発生するのである。毎年5%を納めなければならない。もし20年たって、これを支払う親族がいなかったらどうなるか。
その場合は告示を行い、新聞に公告を載せ、政府のサイトで支払いを呼び掛ける。どこからも反応がない場合は、お墓は別の場所へ移設される。元の墓は埋め戻す。地方紙がこうした手順を紹介している。お墓はなくなり、他人のお墓にとって代わられるのだ。
法整備と科学技術で解決?
これらの規定は、1997年国務院公布「殯葬管理条例」を基に、各地方政府が独自に定めている。あとは民生部による通達が出るくらいで、それ以上の法体系はない。そこで“上位法”の制定によって、使用権と所有権、また期限の問題を解決しようという。これが“官”の動きである、
一方“インターネット+殯葬”で葬祭業の不透明性を打破しようという“民”の動きもある。葬祭業は、とても透明な業界ではなかった。そこでネットサイトを介し、墓地の位置、価格、大きさ、面積等の情報をまとめる。そしてこれらを世間に公表することで、中間業者の暗躍を排する。新しい墓地購入のチャンネルを提供し、価格低下に貢献しようというのである。
北京市民生部は“厚生薄葬”(充実した人生と簡素な葬祭)を奨励している。そして民間による墓地開発と、公営墓地の管理強化を多元的に行わなければならないという。
中国の墓地問題は深刻さを増し、社会不安を招きかねないところまで来ていた。解決の途は、まだはっきりとは見えていないのである。(高野悠介、中国貿易コンサルタント)