中国では、ネット通販やシェアエコノミーなどの新しいサービス産業が、多くの雇用を創出している。これは誰の目にも明らかな事象だったが、今回それを実証する研究報告が出た。インターネット、ビッグデータ情報の「199IT(中文互聯網数据資訊中心)」がそのレポートを掲載した。

これはアリババ系の「阿里研究院」が発表したレポートである。ただし調査は、中国人民大学労働人事学院の研究チームが行っている。敢えて中立性は疑わず信用して見てみよう(1元=17.03円)。

“淘宝”による雇用創出は3680万

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(画像=M-SUR / shutterstock.com)

2017年の中国は、ネットビジネス、モバイル決済、シェアエコノミーで世界をリードした。“インターネット+”は、あらゆる業種において合言葉となっている。次々に提供される新しいサービスは、経済構造や生活スタイルにも大きな変更を迫った。また就職に関しても、大きな新空間を形成した。とくにアリババの運営する淘宝(タオバオ、C2C通販サイト)の、貢献は明白だ。レポートは、このような書き出しで始まっている。詳しく見ていこう。

中国では就職市場の良し悪しをはかるために、CIER指数という指数を使う。市場ニーズ/求職人数 で表す。1より大きければその市場は求人が多い、ということになる。トップはインターネット・電子ビジネスの10.24で、以下、交通/運輸 6.93 保険 6.13 となっている。ネット通販は最も人手が不足している業態だ。

計算によれば、2017年、淘宝と関連する業界は3681万の就業機会を創造したという。同年末の全国就業人員は7億7640万人なので、全体の4.74%に相当する。そのうち2276万は、淘宝の出店業者に雇用をもたらした。そして彼らの取引先にも1405万の雇用機会を提供した。

2276万のうち最も雇用を増やした業種は、服装・靴服飾業で354万だった。続いて日用品が229万、家電及び音響機器が113万と続いている。

淘宝村が拡大

さらに“インターネット+”は、農民の“就業空間”を拡大し、彼らの増収への道を開いた。全国で“淘宝鎮”と呼ばれる地域は242カ所、“淘宝村”は2100カ所を数える。彼らの運営する淘宝ネットショップは49万を超え、直接の就業機会は130万以上と推定されている。

山東省・荷澤市のケースを見ていこう。同市は沿海部に位置しながら、省内で最も貧しい地域の一つであった。それが現在では、山東省にある243の淘宝村のうち3分の2、168を荷澤市が占めている。曹県という地区は、32の行政単位が淘宝村で覆われている。すでに農村ネット通販サービスシステム、ネット通販公共サービスセンターが整備された。そして“一村一品一店”の特色ある“電商村”作りを進めている。全市で48カ所の“電商園区”には、2594社が進出し38万人の雇用を生んだ。ネット通販の売上は、207億元に達している。

シェアエコノミーの売り上げは?

国家信息(情報)中心の発表した「中国共享経済(シェアエコノミー)発展年度報告」によれば、2017年、中国のシェアエコノミー市場の売上は、4兆9205億元となり、前年比47.2%増加した。代表的な業種は、ライドシェア(配車アプリ)とシェアサイクルである。また民泊仲介も急速に定着しつつある。いずれも歴史は5~6年に過ぎない。瞬く間に広がり生活スタイルを変えた。

配車アプリの滴滴出行は、シェアエコノミーを代表する企業である。2012年9月に業務を開始したばかりだが、今やBAT(バイドゥ/百度、アリババ、テンセント)に次ぐIT企業の雄とされている。

シェアサイクル大手2社も、ofoは2014年、mobaikは2015年に創業したばかりである。こうした出来たばかりの若い業界を中心にしながら、2017年には何と7000万人を雇用しているという。前年比1000万人も増加した。またこのうち716万人は、運営サイトに関わるITの人員である。これも前年比131万人増加している。年平均30%増ペースである。

7000万人は全国就業人員の9%に当たる。ネット通販の創出した3681万人、4.74%を足すと、1億681万人、13.74%となる。これほどの雇用を“インターネット+”の新しい業態で生んでいるのだ。

中国の服装、靴服飾、日用品などの業種は、コストアップにより輸出競争力が落ち、海外からは衰退していると見られていた。しかしネット通販の発展により、最も雇用の増えた業態に様変わりしている。従来の価値判断ではとらえきれない変動の波が起こっている。もはや中国のネット通販とシェアエコノミーは、堂々と経済界の中心に座っているといってよい。継続的なウオッチは欠かせなくなっている。(高野悠介、中国貿易コンサルタント)