日本の宇宙開発事業といえば、ロケットの打ち上げを行う種子島宇宙センターや内之浦宇宙空間観測所に代表される鹿児島県が全国的に有名です。

しかしながら、意外なことにロケットの打ち上げが成功するか否かの鍵は、秋田県能代市にあります。今回は、宇宙開発に欠かすことのできないロケット実験場である「能代ロケット実験場」の知られざる秘密について紹介します。

日本の宇宙開発に貢献する国内唯一のロケット実験場

rocket
(写真=3Dsculptor/Shutterstock.com)

能代市浅内浜にある「能代ロケット実験場」は、JAXA(宇宙航空研究開発機構)の付属研究機関です。この実験場は、宇宙空間における科学観測を目的とした観測ロケットや、科学衛星および探査機の打ち上げ用のM(ミュー)ロケットに利用される固体ロケットモータの地上燃焼試験を行うため、1962年に開設されました。

開設に先だって当時の能代市を視察した旧宇宙科学研究所の秋葉鐐二郎元所長によると、浅内浜は、地上燃焼実験に十分な広さ(最大1kmの保安距離)を確保できるうえ、町工場が多い市街地からも近く、急きょ実験で必要になったものを調達できるので実験場の立地としてはとても魅力的に映ったそう。

ちなみに、固体ロケットモータとは、固体燃料と酸化剤を燃焼して推進力を得るロケットエンジンのことです。固体燃料ロケットは、液体燃料ロケットに比べて構造が簡単なので取り扱いが容易というメリットがあります。とりわけ、ここ能代ロケット実験場の技術が活用された日本のM-V(ミュー・ファイブ)ロケットは、あらゆる点で固体燃料ロケットの世界最高水準にあると評価されており、2010年に話題となった小惑星探査機「はやぶさ」の打ち上げにも利用されています。

世界中が注目する能代ロケット実験場の動向

現在、能代ロケット実験場では、次期固体ロケット「イプシロンロケット」の技術要素試験や液体水素を燃料とするエアーターボラムジェットエンジンの燃焼実験など、さまざまな野外実験も行われています。2018年1月18日には、商業衛星(NECの地球観測衛星「アスナロ2」)を国内で初めて搭載したイプシロンロケット3号機が内之浦宇宙空間観測所からの打ち上げに成功するなど、同実験場は数々の成果に貢献しています。

能代ロケット実験場では、2018年4月以降も地上燃焼試験を実施します。この試験は、2019年度に予定している再使用ロケットの垂直離着陸飛行実験の第一歩として行われます。再使用ロケットの垂直離着陸技術が実用化されると、宇宙ベンチャー・米スペースXの試算では、宇宙輸送のコストが最大30%カットできるとされています。そのため宇宙開発に携わる世界中の研究者・技術者が、秋田県の能代ロケット実験場に注目しているのです。

教育県・秋田が秘めた唯一無二のポテンシャル

exam
(写真=Chinnapong/Shutterstock.com)

秋田県は、2017年度全国学力テストにおいて平均正答率の都道府県別順位が全科目3位以内に入るなど、とても教育に力を入れている土地柄です。「教育県」とも称えられている風土のおかげか、能代ロケット実験場も研究・教育の場として活用されています。

たとえば、JAXA宇宙科学研究所が推進する大学共同利用研究の場として、同実験場は2009年から京都大学と共同で液体水素の熱流動特性試験を行っています。ほかにも、秋田大学や産業技術センター、地元企業とともに、ハイブリッドロケット(固体燃料と液体酸化剤を搭載した、爆発の危険性が非常に低いロケット)の研究開発に取り組んでいます。

また、事前予約をすれば無料で施設見学ができることも、能代ロケット実験場の魅力です(土曜日、日曜日、祝祭日、年末年始、8月12日~15日は閉館日)。毎年8〜9月ごろには「のしろ銀河フェスティバル」も開催されています。

これまで行ったフェスティバルでは、能代ロケット実験場の特別公開をはじめ、ハイブリッドロケットの燃焼実験の見学や宇宙開発事業に携わる研究者・技術者たちの講演会など、イベントが盛りだくさん。のしろ銀河フェスティバルは、実行委員に取材したところ今年2018年も開催する予定で、大人から子どもまで楽しめるさまざまな催しを現在企画中とのことです。

なまはげなど誰しもが知っている伝統文化だけでなく、最新の宇宙開発テクノロジーも秋田県の魅力の一つです。私たちの知的好奇心を刺激するスポットとして、今後も目が離せません。(提供:JIMOTOZINE)