(本記事は、吉田裕子氏の著書『会社では教えてもらえない 人を動かせる人の文章のキホン』すばる舎、2018年3月26日刊の中から一部を抜粋・編集しています)

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会社では教えてもらえない 人を動かせる人の文章のキホン
(画像=Webサイトより ※クリックするとAmazonに飛びます)

難しいことを難しく書くのは簡単

会社では教えてもらえない 人を動かせる人の文章のキホン
(画像=A. and I. Kruk/shutterstock.com)

「良い書き手とは、難しい文章が書けること」。このように考えていませんか?

カタカナ語や難解な語句を駆使できてこそ一流、という誤解をしている人が多いように感じます。

作家・脚本家の故・井上ひさしさんは「むずかしいことをやさしく」をモットーにしていました。難しいことを小難しく書くのは、実は簡単なのです。難しいことをやさしくわかりやすく伝えられるのが、上手い書き手ではないでしょうか。

読み手にとって、難しい文章には2種類あります。

ひとつ目は、ヘタな文章です。何を言っているかわからず、読み解くのに非常に苦労します。これは論外ですね。

ふたつ目は、難解な言葉が多用されている文章です。ビジネスの文章は一読ですっと理解できるレベルの語彙、言葉遣いで書くべきです。

私が以前ある小説を読んでいるとき、

・鼎峙(ていじ、勢力のある三者が対立して存在すること)
・容喙(ようかい、第三者が横から口を出すこと)

という言葉が出てきました。国語講師の私でも、一瞬「ん?」となってしまいました。小説の場合、どうしてもその言葉でなくては伝わらないニュアンスというものがあるかもしれませんが、ビジネスでは、相手にわからないかもしれない難しい言葉、古風な言葉は避けたほうが良いでしょう。

業界用語や専門用語が紛れていないかチェック

やさしく書くように心がけている人でも、無意識のうちに、読み手には難解に感じられる表現を用いている可能性があります。

それは、業界用語、専門用語、その会社ならではの内輪の言葉などです。こうしたものが混ざっていると、読み手は混乱します。同業者同士、同部署の人間同士であれば、当たり前に通じる用語も、外の人からすれば、ちんぷんかんぷんということがあるのです。いつもの癖で、つい使ってしまっていないか、送信・提出前に読み返したいですね。

どこまでがOKで、どこからがNGか。これは機械的に決めることができません。重要なのは、読み手を思い浮かべ、その人の立場・感覚に基づいて書くことです。相手の年齢、立場、経歴、環境、性格。こうした要素を踏まえて、相手にとっての読みやすさを考える。シンプルな基本ですが、これしかありません。

でも、簡単に書いたら馬鹿っぽく見えるかもしれない......。

そんな心配が浮かんだ人は、この節の初めに掲げた井上ひさしさんの言葉を見てください。難しいことをやさしく書けるのが、真の文章力であり、知性なのです。

難解な言葉を使うことが頭の良さの証ではないのですよ。

定型文のように同じ表現しかできないと損

文章から知性が感じられるかどうかで、説得力は変わってきます。知的さに欠ける文章では、内容の信憑性も疑われかねません。

知性の決め手は、語彙力です。言葉をどれだけ知っていて、どれだけ状況に合わせて使いこなせているか、です。

メールなどで、定型文のように毎回同じ文章しか書けないようでは損です。

とくに、お願いをするときや、お礼を伝えるときなど、決まり切った言葉でしか表現できないようだと、気持ちが相手に伝わりません。どれほど感謝の気持ちを込めて書いた文章だとしても、定型文だと相手は、「ああ、適当に書いたのね」と思ってしまいます。

語彙力がないと、本来伝えたい気持ちすら伝わらないこともあるのです。

もちろん、闇雲に難しい言葉を使って文章を書く必要はありません。しかし、大の大人の書く文章が、「これはとてもすごいと思いました」のような稚拙な言葉遣いでは、あきれられてしまいます。

「平素」「厚情」「深謝」......目にしたら使ってみる

まずは日頃から次の2点を気をつけたいところです。

(1)熟語表現を自分で使えるようにする
(2)漢字の誤表記・誤変換、慣用句などの誤用をしない

(1)に関してですが、ビジネスのメール・文書では熟語表現が多く用いられます。

平素のご厚情を深謝し、皆様のご清栄を祈念いたします。

こうした熟語を目にする機会も多々あることでしょう。幸い、漢字を見れば、なんとなく意味はわかりますので、おおむね意味や用法は理解できていることと思います。ただ、なんとなく知っているだけでは語彙力として不十分です。こうした語を意識的に自分自身の語彙の中に取り込み、ふとした場面で使えるようになっておく必要があります。

気を遣う相手にメールを送るときなどに、意識的に背伸びして難しめの言葉を取り入れてみましょう。

習うより慣れろ。使い慣れていくうちに、言葉は自分のものになります。

続いて(2)について。語彙力のなさが露呈するのが、誤用の場面です。

「以外な事実」などと書いてあるのを見ると、「知識不足」と「注意不足」の両方のレッテルが貼られてしまいます。慣用句やことわざ、四字熟語などの誤りも同じです。

上手いことを言おうとして、逆にあきれられてしまっては台無しです。少しでも疑問を持ったら、辞書を引くようにしましょう。

吉田裕子(よしだ・ゆうこ)
国語講師。塾や予備校を利用せずに東京大学文科III類に現役合格。教養学部超域文化科学科。NHKEテレの「Rの法則」「テストの花道 ニューベンゼミ」に講師として出演。10万部を超えるベストセラーになった『大人の語彙力が使える順できちんと身につく本』(かんき出版)の他、『大人の言葉えらびが使える順でかんたんに身につく本』(かんき出版)、『大人の文章術』(枻出版社)、『大人の常識として身に付けておきたい語彙力上達BOOK』(総合法令出版)など多数。産業能率大学総合研究所の人気通信講座『文章力を磨く』『これだけは知っておきたい正しい日本語』のテキストも執筆。