企業においてもプライベート・バンキング(PB)部や富裕層部門を設置する場合が増えてきており、プライベート・バンカーの認知度は以前よりも高まってきた。しかし実態はただの「販売者」である場合も多い。富裕層が選ぶプライベート・バンカーの共通要素には「聞くこと」「親身な説明」「顧客想い」がある。どういった点を見極めればよいのだろうか。

プライベート・バンクとは?

プライベートバンカー,富裕層,
(画像=Ditty_about_summer / shutterstock.com)

プライベート・バンクは一般的には「富裕層のための金融機関」と考えられることが多い。様々なレポートなどで「保有金融資産100万ドル以上」を保有するいわゆる「富裕層」を対象とするサービスと捉えられているようだ。その担当者をプライベート・バンカー(PB)と呼ぶ場合が見られる。プライベート・バンクも、働く担当者も共にPBとの略称となる。英語ではBankerは「銀行経営者」や「銀行役員」である。日本でプライベート・バンカーの肩書きを持つ者にはどちらにも当たらない場合が多く、実際にはPrivate Banking clerkが正しいのかも知れない。

顧客ニーズを「聞き」、「親身な説明」を行う「顧客想い」プロの出現 

理想のPBサービスを理解する上で必要な「顧客想い」の重要性について、一般的な生命保険契約の事例を用いて説明する。

定期保険を長年継続して契約してきても、「保険料が高くなってきて保険を保持できない」という場合がある。契約当初は20歳の安い保険料を提示され、10年毎に保険料が値上がりを続けるのだ。60歳代の時の保険料負担額の大きさについては、契約時にわざわざ説明しない場合も多かった。しかし、本当に保険が必要なのは年齢が高くなってきてからなのだ。

生命保険分野では、ファイナンシャル・プランニング的要素を盛り込み、顧客の将来設計を「聞き」、ともに考え、若いうちから終身保険を提案し「親身な説明」をする事業者が現れた。契約時は割高でも終身の保障が必要である時に役立つことを、顧客寄りの立場に立ってきちんと解説をし始めたのだ。

筆者はニーズを「聞き」、ニーズに合った保険を「親身な説明」を用いて行う理念に感銘を受けた。自身の保険を既存の系列の契約から、親身な提案をしてきた事業者に切り替えた。「系列よりも顧客想いの親身なサービスが重要」と考えたのだ。

金融機関の説明は十分?顧客に寄り添う親身なプロは顧客を守る

金融商品の導入時に特に高齢者は「有名な銀行だから安心」「大手の生命保険だから安心」といった印象を持つことが多いと感じる。しかし多くの金融機関は営利企業だ。そして様々な分野で「それ、ちょっとおかしくない?」ということが実際には起こっている。

是非認識して欲しいのは、金融機関の担当者の多くは「販売者」で、販売者のセールスにとって言いたくない部分は語らないのが普通だということだ。そして契約してしまえば、そのリスクは「自己責任で」となる。自分の身を守るのは「自身の知識」か、「親身なプロ」だ。

前例の生命保険の事例では、より良いサービスの提供を目指す者は、顧客にとって親身な説明を語り始めた。しかし、投資運用商品においては「顧客にとって有益な情報を、顧客目線で」という動きはまだまだ停滞している。金融庁長官が2017年4月に語った言葉が以下だ。

「顧客である消費者の真の利益をかえりみない、生産者の論理が横行しています。特に資産運用の世界においては、そうした傾向が顕著に見受けられます」

「顧客に寄り添う」サービスとしてのPB

筆者は日本のメガバンクに勤務していたが、顧客のニーズを「聞き」、ニーズに合った提案を「親身な説明」を用いて行うことができないかと模索を始めた。そこで出したひとつの解がPBだった。1990年代からプライベート・バンキングを研究しPBが富裕層にとって優れたサービスになり得ると考え、PBを提案すると共に自身もPBサービス提供者を目指し、その後プライベート・バンカーとなった。

顧客のニーズを「聞き」、ニーズに合った情報提供をする。そしてそれは自社で取り扱っているものとは限らない場合もあった。自社の利益にも、自分の成績にもならない場合もあった。しかし、目の肥えた富裕層が求める担当者は「販売者」ではなく、「顧客に寄り添う者」として顧客に尽くす姿勢であることを確信した。

そして顧客を長期に担当してゆくと、時には大きな収益がもたらされる場合があった。収益率は低くとも取り扱い金額が大きいために、大きな収益となる場合である。プロとして自分が考える最良のものをアドバイスしても、企業にとっても収益が上がるサービスのヒントを得た。

PBを語る者でも実質は紹介者や販売者の場合も

現在PBを語る者も千差万別だ。実際は手数料目的の「紹介者」や「販売者」でありながら、イメージ戦略で言葉巧みに「PBとして」富裕層を誘う場合もある。「海外だから」「大手だから」「紹介された」からといって、運用成績やサービスが良いとは限らない。投資家は富裕層の運用を語るPBを過信し過ぎないことだ。

顧客想いのPBならば、顧客の名前に傷が付く可能性がある脱法行為を指南したりはしないだろう。日本で営業資格を持たない脱法者が実質的に日本で営業を行っている場合などは、中立な立場やPBを語るものであっても特に要注意だ。

社会問題となった、運用の9割以上が消失した過去の金融詐欺では、価格の検証ができない海外私募ファンドを「販売者」に関係していた者が熱心に勧誘をしていた。しかも中立な紹介者と思われた金融コンサルタントは、正規の投資助言ライセンスを保持していなかった。紹介者として経済的な利益を得ていたと推察される。投資家の運用の成功より販売者・紹介者の収益だけを目指している場合もあるのだ。

残念だがPBと取引するステイタスを求めた結果として後悔するケースが後を絶たない。大事な資産運用には自己防衛が求められる。繰り返すが自分の身を守るのは「自身の知識」か、「親身なプロ」だ。

目の肥えた富裕層が求めるPBやアドバイザーの共通点は以下だ。 顧客ニーズを聞くことに熱心で、ニーズにあった提案を親身に説明する。価格の透明性に疑念があるもの、戦略に高いリスクがあるものへの、過度な投資は避けるようにアドバイスをする。投資家に相応しいアドバイザーは「顧客に寄り添う、顧客想いの者」だろう。

安東隆司(あんどう・りゅうじ)
RIA JAPANおカネ学株式会社代表取締役。元プライベートバンカー、CFP®、海外ETF専門家、立教SS大学講師、TVコメンテーター。日米欧の銀行・証券・信託銀行に26年勤務後2015年独立。顧客の投資成功には高い手数料は弊害、証券関連手数料を受取らない内閣総理大臣登録「投資助言業」経営。著書に『個人型確定拠出年金iDeCo プロの運用教えてあげる!』等がある。