中国の習近平主席は4月中旬、海南省の経済特区建設、省昇格30周年大会に出席し、重要講話を行った。経済特区は改革開放の窓口であり続けなければならない。初心を忘れず、使命感を持って新戦略を策定し、改革開放の開拓者たるように、という内容である。

今回、国務院の発表した「関于支持海南全面深化改革開放的指導意見」はその一環だろう。注目すべきはその中に、競馬の発展を奨励すべきという意見があることだ。中国は定期的な競馬開催に乗り出すのだろうか。経済サイト「界面」が観測記事を載せている。

財政に貢献する競馬

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(画像=Milleflore Images / shutterstock.com ※写真はイメージです。)

2016年、全世界で財政収入に貢献した馬券の売り上げは、73億ユーロ(530億元)に上った。米国、英国など先進国にとって、重要な産業ともなっている。競馬は13世紀ごろから欧州で盛んになり、19世紀には現在の形に近付いている。全世界の産業規模は、競争馬24万8000頭、競馬場15万カ所、騎手24万名、賞金総額32億ユーロ、馬券売上1065億4000万ユーロである。

近代競馬の発祥地、英国の場合を場合を見てみよう。300年の歴史を誇るサラブレッド誕生の地である。“国王のスポーツ”として始まった競馬も、現在ではサッカーと並ぶ英国の2大体育産業である。2012年の資料では、英国競馬産業の経済への貢献率を、次のように算出している。

消費者間接支出……36.2%
B2B 間接支出……24.4%
競馬場……10.8%
馬主……8.8%
競馬場外支出……7.2%
馬の育成調教……5.5%
メディア……5.0%
馬券収益……2.0%

少なくとも60%以上の波及効果をもたらすと解読できる。また英国の植民地だった香港では、1884年に香港競馬会が成立、1971年には正式な職業競馬機構に改組された。その香港競馬会の2015~16年の収入は、327億香港ドルだった。そしてそれは次のように分配された。

税金64%、競馬会運営費20%、慈善基金へ寄付11%、積立4%、剰余金1%である。多額の税金を納め、公益に多大な貢献をしているることがわかる。中国政府の強調するのも常にこの部分である。      

中国の競馬史

中国の競馬の歴史は古い。「史記」の孫子呉起列伝に競馬の記述が見られる。斉国(現在の山東省)で流行したという。その後、欧米流の競馬が中国に流入したのは1840年代、アヘン戦争のころである。1848年、租界の成立とともに上海競馬場が開設され、これは1953年まで続いた。

その後1991年になり、中華人民共和国成立後初めての競馬が、西安長楽跑馬場で開催された。92年には。北京初の競馬が康西草原賽馬場で開催。93年には、広州と北京に競馬を建設、深センに競馬会が成立される。

ところが1999年、広州競馬場は営業停止となる。2001年から北京では、通順賽馬場で馬券を発売した。しかし2005年には場外賭博行為が激しく営業停止となる。ここで一旦90年代から始まった動きはとん挫する。

2007年、再び競馬解禁の提案が出る。2010年に浙江省で非賭博性のレースを開催。2015年、中国馬会は55の賽馬場(競馬場)でレースを開催、最高賞金は50万元。そして2016年、中国馬会はアジア競馬連盟に加入した。

いずれも単独の催事として開催されている。90年代以降、中国の競馬は一進一退を繰り返してきた。

リゾート地での競馬開催の利点

「2017年中国馬術行業発展状況調査報告」という資料によれば、中国の馬術クラブ数は1452カ所、ただし三分の二は赤字である。競走馬数6万984頭、競争や馬術活動のできる施設は200カ所ある。

変転を繰り返した現代中国競馬は、英米や日本のように定期開催の体制はまだ整っていない。どうやらそれを海南島で強力に進めていこういうのである。

海南島は今年の春節にも大きな話題を提供した。観光客が殺到し、本土へ帰る航空券が手配できず、ついに2万元(34万日本円)の値が付いたというのである。リゾート地としての人気は非常に高い。

また2010年からは「海天盛宴」というハイエンドなライフスタイルの展覧会が開催されている。これはセレブの世界である。ここに競馬を付加する分には、悪い影響は限定的ということだろう。すでに富二代(富豪の子弟)たちであふれかえっているのだ。そうした連中のあぶく銭を回収する分には、確かに公益にかないそうである。とにかく海南島は中国の将来を先取りする地となる。これは間違いない。(高野悠介、中国貿易コンサルタント)