米国企業が中興(ZTE)への半導体などの販売を7年間禁止した「ZTE事件」を契機に、中国企業は慌ただしく戦略変更の準備をし始めた。

馬雲(アリババ)馬化騰(テンセント)劉強東(京東/JD)などIT大手の創業者たちは、一斉に知的所有権構を重視する発言をした。そして空調大手の格力(Gree)は、自社製造のICチップを使用すると表明した。

中国企業は構造的な欠陥に陥っているのではないだろうか。経済サイト「界面」をはじめとする多くのメディアが分析記事を載せた。

低い中国のポジション

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(画像=Andres velazquez / shutterstock.com 2016年撮影)

中国経済は世界2位の規模である。さらに成長率の高さによって、首位(米国)との差を詰めつつある。しかし、上海市産業発展評価センターの研究チームの発表した「2017中国産業発展年度分析報告ー創新駆動の視角」によれば、中国の産業体系と先進国のそれとは、依然として大きな距離がある。これこそが、中興事件が中国に激震をもたらした原因である。

例えば中国の通信端末業界は、世界リードしている。携帯端末の全世界出荷量トップ5社のうち、中国は3社を占めている。米国はアップル1社だけである。しかしその収益力は圧倒的であり、トップ5社の利益のうち80%を占めている。

中国企業のポジションは“非常に低い”。その原因として

(1) 需要と供給のアンバランス。
(2) 生産能力の過剰。
(3) 他の国(ベトナムなど)による代替が可能なこと。

などの構造的欠陥が挙げられる。これは通信以外の、エネルギー、家電、鉄鋼、不動産、ゲーム業界など、中国企業シェアの高い業界でも基本的に変わらない。技術水準と利益率を仔細に検討すれば、とても業界のリーダーとは言い難い。

ソフトウェア、半導体、医療機器、農業機械では、先進国との距離はさらに巨大である。そしてこれらの産業は米中貿易摩擦による打撃の最も大きい業界だ。

中進国の罠

第二次世界大戦以後、世界で何十もの国が工業化の階段を登って行った。しかし大部分の国家は、こうしたいわゆる中進国の罠に陥り、停滞を余儀なくされた。ただ日本と韓国だけは、すんなりこの攻囲を突破し、先進国陣営へたどり着いた。中国もこの陥穽を抜け出した先に、真の“中国の夢”がある。

上海市産業発展評価センターによれば、身もだえして苦しまざるを得ない企業の大半は、イノベーションを欠き、基礎研究も不十分で、ただ単に商業的に成功しただけの者たちと指摘する。中国企業がイノベーションによるブレークスルーに成功した例はまだ少ない。

研究開発、生産、市場、3つの部門でそれぞれイノベーションが必要である。研究開発こそイノベーションの要だが、生産と市場も“黒子”として無視できない。知的財産権保護はまだこれからで、内部管理能力も薄弱だ。したがってここでは合弁や提携も重要な選択肢に入る。

韓国の経験を力に

米国雑誌「知識産権資産管理」によれば、世界の特許量100強ランキングには、中国企業はファーウェイとレノボの2社しか入っていない。トップ3は韓国サムスン、米国IBM、日本のキャノンである。ワールドクラスの革新性を備えた中国企業は、まだまだ少ない。

一方、2017年1~10月における中国の特許申請数は287万件となり、前年比4%伸びている。さらに国家戦略による制度の柔軟な運用や各種の奨励策もある。これらによって、中国は巨大な産業革新力を引き出すことができるだろう。実際すでに4000社以上がこれらを利用して創業し、2017年には180万人の就業をもたらした。創業者たちの中には無数の英雄が存在している。

もちろんワールドクラスのイノベーションは政府がいくら叱咤したところで、どうなるものではない。シュンペーターの述べているように、イノベーションの駆動力は、企業家精神である。政府の役割は、創新企業と伝統企業の融合や、越境提携などを促すことだ。これには韓国半導体産業が参考になるという。

国家社会主義の利点を生かす

韓国の半導体産業は、1981年に制定した「半導体工業育成計画」に基付いている。90年代から低価格路線で日本を追い上げた。。バブル崩壊後の日本から、大量に技術者を引き抜き、97年のアジア通貨危機では、国策により持ちこたえさせた。そして2011年には半導体市場で16%のシェアを獲得し、計画的に日本を追い抜いた。

今回の各経済サイトの記事は、危機はチャンスに変わる。政府の関与する半官半民の国家社会主義体制の利点は多い。官民挙げてのイノベーションで、今回の中米貿易摩擦をチャンスに変えよう。このような積極的なトーンのものが多い。

高度経済成長を成し遂げた中国政府の信用は、色あせていないようである。確かに岩盤規制によって民間の足手まといとなっている日本政府より、利点が多いのは間違いないだろう。(高野悠介、中国貿易コンサルタント)