サイクロン(遠心分離)技術を導入した掃除機に代表される斬新なプロダクトを手掛ける世界的メーカー「ダイソン」は2017年9月、イギリス・ウィルトシャー州マルムズベリーの本社研究開発施設内に、デザインエンジニアを本格育成する大学「ダイソン・インスティテュート・オブ・テクノロジー」を開校しました。学生は質の高いエンジニアリングを学びながら給与をもらい、現役のエンジニアと研究開発にも携わります。2020年までにエンジニアを現在の2倍に増やすことを目標に掲げています。

深刻なエンジニア不足でダイソンが大学を設立

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(写真=industryviews/Shutterstock.com)

出願条件はイギリス国籍保有者またはEU加盟国の国籍保有者に限定。理系での成績優秀者など、高いハードルも設けられました。定員25名に対し、優秀で意欲的な850人を超える入学希望者が殺到し、最終的に33名が学生エンジニアとして入学を認められたのです。

教育プログラムは、ダイソンのエンジニアとウォーリック大学傘下の研究開発機関が共同作成。1~2年目はエンジニアリングの基礎、3~4年目は専門的な電子、機械工学を学びます。また、ダイソンがマレーシアとシンガポールに設けているテクノロジーデザインセンターで学べる機会もあります。学生には4年の在学中に給与が支払われ、卒業後はダイソンに入社する見込み。入社後は大卒同等の給与が支給されることになっています。

ダイソンは今後5年間で1,500万ポンド(約23億円)を大学に出資し、イギリスが抱える深刻なエンジニア不足という課題に取り組むのです。

可能性ある未来の人材をダイソンが後押し

深刻なエンジニア不足に陥っているイギリスでは、IT(情報技術)やAI(人工知能)の急速な伸展など、激しい変化に既存の教育システムが追い付いていないのが現状です。

従来の学校教育に実践的な技術や能力を身に付けた人材の輩出を依存し、待っていても状況は好転しない危機感から、ダイソンは給料まで付与して自社で大学を設立しました。自ら未来の人材を育て、将来雇うための囲い込みという狙いに加え、より大きな次世代のエンジニアを育成するという理念を掲げています。それは創業者のジェームズ・ダイソン氏が開校時に語った次の言葉にも表れています。

「学びながら世界をリードする3,000人の現役エンジニアの側で新しいテクノロジーの開発や新製品を生み出し、世界中の家庭で利用されるようになる。4年間でどんな素晴らしいことをやってのけるのか楽しみ」

イノベーションにかけるダイソンの熱い思い

イギリスでは従来、十分なエンジニアの育成体制が整わず、欧州連合(EU)からの脱退が迫る経済界に科学、技術、数学、工学などのSTEM分野で危機感が募っています。特に、工学分野でその深刻さに直面しており、独創的な商品開発を手掛ける企業は国内で研究開発するか、欲しい優秀な人材をどこで見つけるかという選択に迫られているのです。

2002年に設立されたジェームズ・ダイソン財団は技術や工学、デザインに関する教育事業を支援。2014年はケンブリッジ大学に800万ポンド(約12億円)、2015年はインペリアル・カレッジ・ロンドンへ1,200万ポンド(約18億円)を寄付。これまでに計約5,500万ポンド(約83億円)を寄付しています。

ダイソンは世界約40大学と共同で多彩なテクノロジーを初期開発し、今後4年間で1億ポンド(約150億円)を外部の研究プロジェクトに投資する計画。アメリカやイスラエル、シンガポールなどで有望な技術系スタートアップ企業との提携も視野に入れています。

ダイソンの特許はイギリスのどの大学よりも多い

1993年に設立されたダイソンは、2016年には世界に約7,000人を抱える大企業に成長。その斬新で機能的なデザインは3,000人のデザインエンジニアが担っています。同社が出願した9,000件近い特許は、イギリスのどの大学よりも多いのです。

家電量販店などに近年、ダイソン製「羽のない扇風機」が並び、2020年までに電気自動車事業への参入を目指すと発表。エンジニアはデザインを学ぶべきだ、という企業ポリシーが独自の技術を結集させ、新たな製品を世に送り出しています。

新しいタイプの給与までもらえる大学は、企業が次世代のエンジニアを育成するのが理念です。ダイソン氏は既存の大学に「年間9,250ポンド(約139万円)の学費を払った上で、授業時間はせいぜい週に4時間程度。学生たちは当然、高等教育に価値はあるのかという疑問を持っている」と指摘しています。しかし、今回の1期生の1/3は女性で、イギリスで働くエンジニアの女性が9%に過ぎない現状にも、新たな教育が新しい学生エンジニアを引きつけているのもポイントだといえるでしょう。

未来への投資で一歩進んだ自分へ

「将来的に、この割合が増えるように」と期待するダイソン氏。熱い思いを感じられるのではないでしょうか。これは未来の自社のエンジニアへの投資であるともいえます。大学で将来就きたい職業のために給与を得ながら学び、それが将来の自分のエンジニアとしての道に繋がるのであれば、学べるだけ学ぼうという強い意志が芽生え、より優秀な人材が育つ可能性もあります。

このようなチャンスはあなたにもあるかもしれません。大学やMBAで学びたいと思えば、学んだ先のこともよく考え、行動しましょう。そうすれば、自分の人生がよりステップアップするかもしれません。(提供:J.Score Style


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