シンカー: ユーロ圏の財政赤字は、2017年には金融危機以前の水準に戻り、欧州委員会やユーロ加盟国の安定プログラムによると、今後数年間も削減が進む見込みだ。財政収支改善が各国に広がる傾向も強まり、2018年には史上初めて、全ての国でGDP比3%を下回る見通しになっている。企業のデレバレッジなどにより企業貯蓄率が恒常的にプラスとなり、総需要を破壊する力となっていることは日本と同様だ。景気の循環的な回復に従って、財政収支が改善していることも日本と同様だ。財政を緊縮にしすぎず、消滅しているネットの資金需要(企業貯蓄率+財政収支)を復活させることができれば、デフレからの完全脱却につながることも日本と同様だ。ユーロ加盟国は財政政策を打出す余裕をある程度取戻しており、次のリセッションが始まった時には、それが可能なことが実際に明らかとなる可能性がある。財政政策をその前に発動できれば、経済パフォーマンスの向上と格差の是正に向け、勢いをつけることができよう。しかし、加盟国や欧州委員会の予測と、財政協定の目標を比較すると、一部の国(フランス、イタリア、スペイン、ポルトガル)は、財政状態改善への追加努力を要請される可能性が高い。結果として、財政支出は不十分で、景気モメンタムを維持するため、ECBの政策の正常化はかなり慎重なペースで進められるだろう。

SG証券・会田氏の分析
(画像=PIXTA)

最新のSGグローバル・レポートと要約

●欧州経済(5/14):財政収支が幅広く着実に改善

ユーロ圏の財政赤字は、2017年には金融危機以前の水準に戻り、欧州委員会やユーロ加盟国の安定プログラムによると、今後数年間も削減が進む見込みだ。財政収支改善が各国に広がる傾向も強まり、2018年には史上初めて、全ての国でGDP比3%を下回る見通しになっている。

その結果、ユーロ加盟国は財政政策を打出す余裕をある程度取戻しており、次のリセッションが始まった時には、それが可能なことが実際に明らかとなる可能性がある。だが加盟国や欧州委員会の予測と、財政協定の目標を比較すると、一部の国(フランス、イタリア、スペイン、ポルトガル)は、財政状態改善への追加努力を要請される可能性が高い。政府債務GDP比も、数カ国(特にイタリア)では引続き懸念の原因になっている。

●欧州経済(5/09):再選挙を秋に実施しても、現状と変わらない結果に

イタリアでは、最も早ければ7月に再び総選挙が実施される可能性があり、市場は焦りを感じていた。実際にも主要4政党のうち3党(五つ星運動、同盟、フォルツァ・イタリア)は、(再選挙を避けるためのマッタレッラ大統領の最後の手段とみられる)問題処理内閣の形成を拒否した。だが、テクニカル、実際上の理由の両面から7月再選挙の可能性は低い。大統領の試みが失敗に終わるなら(確実にそうなる訳ではないが)、その代わりに秋に再選挙となる可能性が高くなると弊社はみている。

最近の世論調査も、(3月総選挙時と大変似ているが)再選挙は勢力が大きく分散する結果になると示している。このため(選挙法を変更しないで)再選挙を実施しても、現在の停滞状況は打破できないとみられる。よってイタリアの政治的な停滞はもう少し長引くと見込まれる。とはいえ、イタリアの経済ファンダメンタルズは今もなお景気回復を支える内容で、政治的不確実性を乗り切るツールをイタリアが持っていることは変わらない、と弊社は考えている。

●欧州経済(5/08):景気見通しは引続き良好

ユーロ圏のGDP成長率は、2018年第1四半期(Q1)には前期比0.4%となった。堅調が続いているが、2017年Q4の力強さ(同0.7%)に比べると少し期待外れだった。こうした減速の背景は、一時的な要因と、持続不可能な高水準から多少「正常化」したことだと弊社はみている。弊社のユーロ圏景気の中期見通しは、依然として強気だ。現在のセンチメント指標も、潜在成長率を上回るペースの景気拡大(年率2.0%超)を引続き示唆している。経済状況も景気拡大を後押しする内容だ。金融状況は緩和的で、ユーロも過去の水準に比べると割安、財政政策も多少拡大的となっている。また世界経済(および貿易)も好調が続いている。ユーロ圏景気が急減速する引き金になり得る要因としては、外的ショックしか考えられない。しかし現時点では、それが発生することは無いと弊社は見込んでいる。

●米国経済(5/11):コアCPI…4月は低調だった

米国の4月コアCPI上昇率は前月比0.1%と軟調で、住居費の上昇を除くと、マイナスになっていた。これによりFRBは(特に、昨年春はインフレ率が低調だったことで)一休みする機会が与えられた。いずれにせよ、減速がやや行き過ぎていたことは明らかだが(特に自動車)、「CPI上昇の広がり」が再び薄れ、コアCPIを押上げていた一部品目も減速がほぼ確実となっている。短く言うと、4月はインフレ強気派には非常に期待外れの結果だった。弊社は、今年末までコアCPI上昇率が2%を下回るという見込みを、自信を持って維持する。

●外国債券(5/14):従来の見通しを堅持

米連邦準備制度理事会(FRB)にとっては、いつもながらの見慣れた光景なのかもしれない。米国経済はしっかりと持ちこたえているが、グローバル経済全体を見渡すとひび割れが生じ始めている。欧州の成長鈍化、新興国市場への下押し圧力、イタリアの政治リスクの再燃、原油価格高騰の背景など、あらゆるリスク要因が中央銀行の金融政策正常化への道筋に混乱をもたらしている。英イングランド銀行(BOE)はこうした景気減速の動きに警戒感を抱き、早くも政策金利の引き上げを回避するようになった。しかし、我々は戦略的な観点から中期見通しを堅持しており、ユーロ圏主導で債券利回りの上昇が進むと予想している。世界経済の成長鈍化は一時的な現象にすぎないと考えている。今後数カ月間に発表される経済指標が極めて重要になってくるだろう。

過去の翻訳レポートを弊社のリサーチサイト( https://insight.sgmarkets.com/#/page/japanese )に掲載しています。

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ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司