はじめに-結婚川の向こう側を知る
日本において未婚化が進行していることから、未婚者の意識調査、実態調査が様々なところで行われている。
国の大規模調査で18歳から34歳までの男女の約9割が「いずれは結婚したい」と回答しているため、その希望を実現化させるためにもこれらの調査は有効であるだろう。
しかし、未婚者の結婚の希望を叶えるために未婚者の意識や実態だけにフォーカスしても、未婚者の生活実態はわかるものの、解決策は見出しにくい。なぜならば彼らが持つ意識や実態が、結婚への希望を叶えるまさに障壁になっている場合があるからである。
未婚者の結婚希望を叶える、というのであれば、未婚者と既婚者を隔てる「結婚川」のこちら側の未婚者だけでなく、対岸の既婚者との差異を検討する必要がある。
既婚者との意識や生活などの差異を検討することによって、あらためて「障壁」が見えてくるだろう。未婚化が進む中で、これまで以上に「既婚者の実態」「結婚の実態」が注目する価値があるようだ。
本レポートでは、未婚者ではなく、あえて「成婚状況の実態」にクローズアップする。中でも以前、初婚同士カップルの分析をおこなった「成婚時の年の差」について、再婚者も含めたすべての結婚の年の差分析を行い、何が見えてくるのかを考察したい。
本レポートは(上)・(下)の2回にわかれる。(上)では男女の生涯未婚率(50歳時点婚暦なし割合)の男女格差について、初婚・再婚の組み合わせの動向を見る中で、その発生要因の分析を行う。
その上で(下)にて、初婚・再婚組み合わせ別の年の差の実態の分析と、そこから得られる未婚化社会に対する示唆を考察してみたい。
50歳時点婚暦なし割合に見る「男女格差」
合計特殊出生率が1.5を切る超低出生率が1993年以降、20年以上続いている。
男性は出産することが出来ないため、女性が男性の人口分も出産を背負うことになる。そのため、単純に考えても(出産可能な年齢の女性の)出生率が継続的に2.0を超えない限り、人口は減少してゆく。実際には次世代を再生産する年齢まで生きられない赤ちゃんのグループが存在するために、日本の場合は合計特殊出生率2.07が次世代人口を維持する再生産(人口置換水準)の目安となっている。
主に見合い結婚によって結婚することが当たり前だった世代がこの低出生率情報を得ると、自らの時代感覚から「妻が産まなくなった・産めなくなった」イメージを抱きやすい。
実際、出生率の長期低迷傾向に危機感をもって策定された1994年のエンゼルプラン以降、長期にわたり日本の少子化政策は「子育て支援」施策であった。
この子育て支援諸策が奏功したこともあってか、夫婦の出生率はいまだ2近くをキープしている。1980年代から30年以上にわたり、初婚夫婦が(統計上)最終的にもつ子どもの数(完結出生児数)は約2人で推移しており(図表1)、これだけをみると、合計特殊出生率がどうして低迷しているのか、なぜ1年間に日本で生まれる子どもの数がわずか45年間で49%に激減した(1)のかはわからない、なるはずがない、ということになる。
合計特殊出生率と夫婦の出生率との両者の乖離の差を説明するのが「未婚者」である。長期低迷している合計特殊出生率の分母には15歳から49歳の未婚者・既婚者すべての女性が含まれている。
合計特殊出生率は、既婚女性に限らず、「日本にいるすべての出産可能年齢の女性の出生率」を算出する指標なのである。
日本は婚外子比率が長期に2%台で推移しており、ほぼ既婚女性が出産をしているので、合計特殊出生率の分子の子どもの数はほぼ既婚女性が出産した子ども、である。
故に、分母の未婚女性割合が上昇すれば、夫婦の出生率が2人程度と変わらなくても、全体としての出生率は低下していくのである。
「あまり変化のない夫婦の出生率」と「長期低迷化している女性全体の合計特殊出生率」の差は「女性の未婚化の進行」である。勿論、1人では結婚できないので、相手の男性もともに未婚化しているということになる。
しかし、人生のコマを50歳まで進めた時点でみると、女性の倍の数の男性が婚歴なしで未婚化している姿が浮かび上がってくる(図表2)。
2015年の国勢調査においては、男性の4人に1人、女性の7人に1人が50歳まで1度も結婚していない。
自然の摂理によって年間に生まれる男女の数はほぼ同数であることから、50歳の男女もほぼ同数存在するため、女性の約1.7倍の数の男性が婚歴なし状態であることがわかる(2)。
ここで疑問として浮かび上がるのが、男女がほぼ同数存在するのに、どうして50歳時点で女性の1.7倍もの男性が婚歴なしであるのか、ということである。
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(1)天野 馨南子「消え行く日本の子ども-人口減少(少子化)データを読む-わずか半世紀たたず、半減へ」2018年4月9日ニッセイ基礎研究所「研究員の眼」
(2)ちなみに2017年10月の人口推計確定値によれば50歳から54歳の男性が40.48万人、女性が39.82万人である。
どの年齢層でみても男性未婚者数が女性未婚者数を上回る
男性の婚歴なし未婚者(以下、未婚者と表現)が女性よりかなり多いことについて、例えば「男性は出産を担わないので、結婚を考えるようになる年齢が遅いから」という仮説はどうであろうか。
50歳時点で1.7倍いるので、そこから上の年齢で一気に女性に追いつく、つまり自分より若い年齢の女性と結婚することによって未婚ではなくなるのだろうか。男性と女性の結婚年齢に大きな差があれば考えられなくもない。
しかし、2015年の国勢調査(速報値)で計算した際も、未婚者である男女の割合の格差がすべての年齢に見られた(図表3)。
未婚者割合の男女格差は20代後半から10ポイントを超え、同年齢帯の女性人数に対する男性人数が、その年齢帯が上がるほど大きくなる傾向がある。
つまりは寿命が尽きるまでみても、婚歴がある人数に男女差があり、一生涯結婚しない男性の人数が女性の人数を上回るということになる。
このことについて「どうしてなのか」の回答は、あまり難しくない。
例えばこの未婚者数の男女格差は、一夫多妻制の国では普通のことである。1人の男性が4人5人の妻を持つので、女性は若い段階でほぼ未婚者がおらず、男性は未婚者だらけとなる。
日本は一夫多妻制国ではないので、そこまでの未婚者男女数の格差は生じないものの、再婚が認められているため、例えば1人の男性が1度離婚して生涯に2度初婚の女性と結婚した場合、そこにはタイムラグ式の一夫多妻制が生じることになる。
勿論、その逆もある。1人の女性が1度離婚し初婚男性と2回結婚すればタイムラグ式の一妻多夫制が生じる。
タイムラグ式の一夫多妻制と一妻多夫制が同数生じていれば、婚暦なし男女の割合はイーブンとなるが、そこに差があると、婚歴の男女間格差となるのである。
そこで次章では、日本における「再婚夫・初婚妻」「再婚妻・初婚夫」の割合、ならびにともに初婚もしくは再婚のカップルの割合をみてみることとする。
初婚・再婚組み合わせ別の動向~未婚の男女格差が生じる理由~
●初婚同士のカップルが4組に3組、再婚者含みは4組に1組へ
1970年代、日本の人口マジョリティの一角である団塊世代が20代であった時代は、未婚者は珍しかった。また離婚も珍しく、再婚者(双方、もしくはどちらか)を含む結婚も増加傾向にはあったものの1割前後と少なかった(図表4)。
再婚者を含む結婚の割合は戦後1960年頃を底に増加を続け、2016年に提出された婚姻届の19.5%には再婚夫、16.8%には再婚妻が含まれている。
つまり、5組に1組の夫が再婚夫、6組に1組の妻が再婚妻ということになる。
ここで、再婚夫・再婚妻を含む結婚には次の3つのタイプがある。
Aタイプ:夫が再婚・妻が初婚
Bタイプ:妻が再婚・夫が初婚
Cタイプ:夫妻ともに再婚
この3タイプに「Dタイプ:夫妻ともに初婚のカップル」を加えた4タイプの合計がカップルの総数となる。全体に占める4タイプの割合をみてみたい(図表5)。
AタイプからCタイプのすべてのタイプの再婚者を含む結婚は、全体の25%を占めており、今では4組に1組が再婚者を含むカップルとなっている。
●婚暦ナシの男女格差の発生経緯
このうちともに初婚もしくは再婚である結婚を除いた「どちらか一方が再婚」のカップルの状況によって婚暦なし割合の男女格差が生じてくることになる。
計算上は「Aタイプ:夫が再婚・妻が初婚」と「Bタイプ:妻が再婚・夫が初婚」を比べてみて、常にAタイプの数が多ければ、婚歴なし男性数が婚歴なし女性数を上回ることになる。
再婚男性が初婚女性と複数回結婚することによって、婚歴なし男性の数を変えないまま、婚歴なし女性をより減少させることができる。これが男女逆転のケースより多い年が続けば、婚歴なし男性が婚歴なし女性を大きく上回ることになる。
そこで1975年から2015年の40年間における再婚のタイプ別の組数推移をみてみることにしたい(図表6)。
図表からは再婚夫が初婚妻と結婚することによって、男性の婚歴なし人数を変えることなく女性の未婚者を減らすタイプAの結婚が常にその男女逆であるタイプBよりも上回ってきたことがわかる。
2015年の国勢調査で男性の50歳婚歴なし割合が女性のそれを過去にもまして大きく上回った理由が明確に示されているといえるだろう。
初婚・再婚別にみた「年の差婚の今」(上) のおわりに
本稿では、初婚・再婚の組み合わせがこれまでどのように推移し、現在どのような状況になっているかを詳らかにした。
この考察によって、国勢調査において50歳時点における婚暦なし割合が男女間において大きな格差が生み出している要因が「再婚」にあることを説明した。
次の続編レポート(下)では、タイトルともなっている初婚・再婚別にみた「年の差婚の今」について考察する。初婚・再婚別にみた「年の差婚」を考察することによって日本におけるカップルの組み合わせから見えてくる「特徴」も明らかにしたい。
わが国の出生率に大きな影響を及ぼす未婚化。
未婚化の要因を探るべく未婚者への調査が活発ではあるものの、「過去に結婚を経験した男女の再チャレンジ動向」を知ることで、より深い背景がみえてくることもあるのではないだろうか。
【参考文献一覧】
国立社会保障人口問題研究所.「出生動向基本調査」
厚生労働省.「人口動態調査」
国立社会保障・人口問題研究所. 「人口統計資料集」2017年版
総務省総計局. 「2015年 国勢調査速報値」
総務省総計局. 「人口推計(平成29年(2017年)10月確定値)
厚生労働省.「平成27年度 人口動態職業・産業別統計」
天野 馨南子.“2つの出生力推移データが示す日本の「次世代育成力」課題の誤解-少子化社会データ再考:スルーされ続けた次世代育成の3ステップ構造-” ニッセイ基礎研究所「研究員の眼」2016年12月26日号
天野 馨南子.“未婚の原因は「お金が足りないから」という幻想-少子化社会データ検証:「未婚化・少子化の背景」は「お金」が一番なのか-” ニッセイ基礎研究所「基礎研レポート」2016年9月5日号
天野 馨南子. “消え行く日本の子ども-人口減少(少子化)データを読む-わずか半世紀たたず、半減へ”ニッセイ基礎研究所「研究員の眼」2018年4月9日号
天野 馨南子. “ 「年の差婚」の希望と現実-未婚化・少子化社会データ検証-データが示す「年の差」希望の叶い方”ニッセイ基礎研究所 基礎研REPORT(冊子版) 2017年4月号
天野馨南子(あまのかなこ)
ニッセイ基礎研究所 生活研究部 研究員
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