米中の株価が乱高下した。NYダウは3月22日(木)に▲2.9%下落、23日(金)に▲1.8%下落したが、26日(月)は2.8%戻している。一方、上海総合指数は3月23日(金)に▲3.4%下落、26日(月)に▲0.6%下落したが、27日には1.1%上昇している。

株価急変動の要因は、トランプ政権が仕掛けた保護貿易政策にある。

トランプ政権は22日、中国が知的財産権を侵害しているとして米通商法301条に基づき制裁措置を行うと発表した。昨年実績で500億ドルから最大で600億ドル相当のハイテク電子製品など1300品目の輸入品に関税を課すといった内容である。さらに、23日、鉄鋼、アルミについて輸入制限が発動され、それぞれ25%、10%の追加関税が課せられることになった。EU、カナダ、韓国など一部の国・地域は適用を猶予されたが、中国は日本とともに除外されなかった。

こうしたアメリカの措置に対して、中国商務部は23日、アメリカにおける鉄鋼、アルミ製品に関する通商拡大法232条措置に対する中止・譲歩を迫るための製品詳細リストを発表した。7種類、128の税項目がリストアップされており、2017年にはこれらの製品に関して中国はアメリカから30億ドル相当の輸入を行っている。この内、第一部は、120項目、9.77億ドル相当で、フルーツ、ナッツ類・乾燥フルーツ、ワイン、変性アルコール、西洋ニンジン、シームレスパイプなどで、15%の追加関税をかける。第二部は8品目であり、合計19.92億ドル相当で、豚肉・加工品、アルミ廃棄物などで25%の追加関税をかけるとしている。米中が規定の時間内に貿易保障協議を結ぶことが出来なければ、第一部の製品リストについて追加関税をかける。更にアメリカの措置による中国の影響を評価した上で、第二部の製品リストについて追加関税をかけることになる。

中国は“恐れず、逃げない”

中国経済
(画像=PIXTA)

更に26日、新華社が報じたとして各社が一斉に同じ情報を配信している。

「もし、アメリカが貿易戦争をどうしても仕掛けるというのであれば、中国はただそれに付き合うしかない。自身の合法的権益が傷つけられるようなことを座視することは絶対にない。いかなる国家も中国経済が日増しに適応能力、防御力、反撃力を強めているということを過小評価すべきではない。中国商務部は対抗措置として既にアメリカからの輸入制限品目を発表した。関連する商品のアメリカからの輸入額は30億ドルである。これは単なる警告に過ぎない。中国は、“恐れず、逃げない”といった明確な信号を発しており、もし、必要ならば、中国は当然、新たな反撃措置を講じることができる」

中国は、米国債を売り浴びせることも含め、あらゆる手段を使って戦うつもりであろう。この問題がより深刻になるのか、それとも収束するのかはトランプ政権の今後の出方次第である。

一方、アメリカサイドでは、26日、ホワイトハウス貿易問題の顧問であるピーター・ナバロ氏は「我々は既に中国と話し合いを行う準備が整っている」と発言。ムニューシン財務長官は「アメリカ通商代表部と共に積極的に中国側と接触している。我々は既に、中国と交渉のテーブルに座っている」などと発言した。この時点では貿易紛争への懸念が安らいでいる。

米中の貿易、投資はお互いに密接に結びついている。たとえば、アップルは中国でiPhoneを作り、アメリカをはじめ世界中にそれを売りさばいている。中国の航空会社はボーイングから大量の航空機を買っている。アメリカは中国との間で、物の貿易については大幅な赤字であるが、中国はその分をサービス貿易や、アメリカ国債を買ったり、事業投資をしたり金融取引で還元している。

中国が知的所有権を侵害していることは、20年以上前からずっと言われ続けていることである。これまで放置しておきながら、今さらそれを正そうにも、米中関係がここまで緊密になってしまった後となってはもう手遅れである。

26日、李克強首相は「中国は対外開放の門をどんどん大きく開いており、外国企業に技術譲渡を強制的に要求するようなことはしておらず、中国は知的所有権の保護を強化している。貿易戦争に勝者はいない。米中はお互いの意見の相違を解消するために話し合いを続けなければならない」と語っている。中国側がアメリカ側の批判を受け入れるはずもない。

株価が下がればごり押しは無理

トランプ政権は米中の客観的な力関係を正確に分析できてないとみられる。さらに、アメリカ以外のG20参加国が保護貿易政策に反対している。こうした状況でアメリカ第一主義を貫き、対中強硬策を打ち出すことができるだろうか?

トランプ大統領は原理主義者ではない。現実主義者である以上、有権者の反応が重要である。また、トランプ大統領は数少ない成果の一つとして、株価が上昇トレンドを形成しているということを強調している。トランプ政権が株価の下落を嫌がるのであれば、その点からも保護貿易政策のごり押しは難しくなる。

アメリカは自由民主主義国家であり、その大統領は民意による代表者である。トランプ大統領が何でもできると思わない方が良いかもしれない。アメリカ経済に悪影響の多い保護主義政策は実行されない可能性が高いだろう。

中国は冷静である。貿易赤字を解消するというのであれば、アメリカからハイテク電子製品を中心に輸入を増やす用意があるだろう。それはこれまでもアメリカ側に要求してきたことであり、技術流出を恐れるアメリカが制限してきたことである。

対中強硬策の実施は困難であろう。この問題の落としどころは見え始めている。

田代尚機(たしろ・なおき)
TS・チャイナ・リサーチ 代表取締役
大和総研、内藤証券などを経て独立。2008年6月より現職。1994年から2003年にかけて大和総研代表として北京に駐在。以後、現地を知る数少ない中国株アナリスト、中国経済エコノミストとして第一線で活躍。投資助言、有料レポート配信、証券会社、情報配信会社への情報提供などを行う。社団法人日本証券アナリスト協会検定会員。東京工業大学大学院理工学専攻修了。人民元投資入門(2013年、日経BP)、中国株「黄金の10年」(共著、2010年、小学館)など著書多数。One Tap BUY にアメリカ株情報を提供中。
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