アメリカ株が下落している。4月2日のNYダウ指数は場中で年初来安値を付けており、終値では前営業日比459ドル下げ、23644ドルで引けている。これは、1月26日に記録した過去最高値から、11.2%下落した水準である。
もちろん、単なる経験則に過ぎないが、長い間高値更新が続いた後、最後の高値から10%下落すると、それが相場の転換点となり、その後しばらくの間、下落相場が続くと言われている。アメリカ株式市場は今、大きな岐路に立たされている。
保護貿易、グローバル企業に不利
最大の下落要因は、トランプ政権の保護貿易政策への懸念である。トランプ大統領は3月1日、鉄鋼とアルミニウムの追加関税を課す方針を表明。その後、政権内における人事面での混乱、中国による知的財産権侵害に対する制裁措置、中国側の対抗措置といった具合に、保護貿易措置の応酬が始まっている。一部は実際に実施され、一部は話し合い、検討中といった段階である。現段階では、一応の決着がつくまでには少なくとも数か月の交渉期間が必要となりそうだ。
アメリカ株式市場の主要銘柄をみると、グローバル企業がほとんどである。例えば、4月2日時点の時価総額ベストテンを上げると、アップル、マイクロソフト、アマゾン・ドット・コム、アリババ・グループ、フェイスブック、JPモルガン・チェース・アンド・カンパニー、グーグル(GOOG、議決権なし)、ジョンソン&ジョンソン、エクソンモービル、グーグル(GOOGL、議決権あり)となっている。
例えば、時価総額トップのアップルについて、そのビジネスモデルをみると、アメリカでマーケッティング、商品戦略を練り、生産については、部品をアメリカ、日本、韓国、台湾などから中国に持ち込み、中国メーカーからの部品仕入れを加え、そして組み立て、最後に世界中に販売している。まさに、自由貿易体制の恩恵をフルに生かして、事業運営を行っている。
その他の企業についても、アメリカにおける設備投資、消費動向よりも、世界全体の景気状況や、国際化、自由化の進展などの方が、むしろ収益への影響は大きいだろう。
保護貿易政策はアメリカのグローバル企業に対してマイナスの効果を与える悪い政策である。トランプ大統領は3月29日、アマゾン・ドット・コムを「税金を払っておらず、多くの小売業者を廃業に追い込んでいる」と批判している。アメリカ第一主義も、グローバル企業にとってはネガティブな政策である。
大統領選挙期間中、トランプ大統領が誕生すれば、株価は大きく下落するだろうとみられていた。それは、アメリカ第一主義、保護貿易主義への懸念が強かったからである。ただ、実際には企業業績の好調が続いたこと、金融政策が市場の予想よりも少し緩和気味であったこと、減税政策、インフラ投資政策など景気対策への期待が高かったことなどから、今年の1月下旬まで長い上昇相場が続いたのである。
果たして、保護貿易政策は今後、さらに深刻になるだろうか?
中国はアメリカに対して、米国債を売り浴びせるほかにも、強力な対抗措置をいくつか持っている。中でも、大豆を対象とした追加関税措置はトランプ政権に大きな打撃を与えることできる。アメリカは中国に対して、口先ほどには厳しい要求はできないだろう。
大豆輸入制限は政権基盤に大打撃
3月31日の国営放送では、複数のチャンネル、ネットなどを通じて、大豆がトランプ政権の大きな弱みとなることを伝えている。その内容をまとめるとおおよそ以下の通りである。 http://k.sina.com.cn/article_2608979285_9b81dd550010057bt.html?cre=tianyi&mod=pcpager_fin&loc=1&r=9&doct=0&rfunc=37&tj=none&tr=9
アメリカの大豆輸出依存度は高く、生産量の40%以上を輸出しており、その内の60%以上が中国市場向けである。
世界の大豆生産量は最近、増加し続けており、2017年には3億5000万トンに達している。生産量の増加を受けて、国際大豆市況は2012年の最高値と比べ40%下落している。ブラジル、アルゼンチンなどが生産量を増やしており、アメリカ市場の一部が侵食されている。その結果、アメリカの大豆生産者の収益は基本的にわずかの黒字、あるいは収益トントンといった状態である。もし、中国が、アメリカからの大豆輸入に制限をかければ、アメリカ国内に大量の大豆が逆流し、国内市場は供給過剰に陥り、価格は下落、アメリカの大豆産業は大きな損害を被るだろう。
アメリカの大豆生産の95%以上が中西部の農業生産地域に集中している。このうち8つの農業州はトランプを大統領選で勝利に導いた重要な票田となったところだ。もし、中国がアメリカからの大豆輸入を制限すれば、これらの地域の経済は直接影響を受け、トランプ大統領は政治的に大きなダメージを受けるだろう・・・。
アメリカが仕掛けた貿易紛争であり、中国は「それに付き合うしかないが、断固として自国の利益を守る」としている。トランプ大統領の脅しをかけるような交渉のやり方は中国に対しては逆効果だ。
田代尚機(たしろ・なおき)
TS・チャイナ・リサーチ 代表取締役
大和総研、内藤証券などを経て独立。2008年6月より現職。1994年から2003年にかけて大和総研代表として北京に駐在。以後、現地を知る数少ない中国株アナリスト、中国経済エコノミストとして第一線で活躍。投資助言、有料レポート配信、証券会社、情報配信会社への情報提供などを行う。社団法人日本証券アナリスト協会検定会員。東京工業大学大学院理工学専攻修了。人民元投資入門(2013年、日経BP)、中国株「黄金の10年」(共著、2010年、小学館)など著書多数。One Tap BUY にアメリカ株情報を提供中。
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