トランプ大統領は3月1日、鉄鋼、アルミに追加関税をかけると発表したのを皮切りに、次々に米中貿易摩擦を激化させていった。それによって、はっきりしたことがある。米中経済は深く相互に依存しあっており、それを制限しようとすれば、双方の経済に大きな悪影響が出るということである。

中国側統計でみると2017年、中国はアメリカに4298億ドルを輸出しており、輸出全体の19.0%を占めている。一方、アメリカからの輸入は1539億ドルで全体の8.4%に過ぎない(中国海関総署)。

アメリカ側統計でみると2017年、アメリカは中国に1304億ドルしか輸出しておらず、輸出全体の8.4%に過ぎない。一方、中国からの輸入は5056億ドルで、全体の21.6%に達している(U.S. Census Bureau Foreign Trade Statistics)。

この数字だけを見ると、アメリカに輸出の2割弱を依存している中国の方が、中国に輸出の8%強しか依存していないアメリカよりも、輸出が制限されることによる影響は大きいように見える。

大豆、自動車への追加課税は強力

中国経済
(画像=PIXTA)

しかし、表面的な金額以上に、何が制限されるかといった具体的な内容の方がずっと重要である。4月4日、中国はアメリカ原産の大豆、自動車、化学工業品など14種類106項目に渡る商品に対して25%の関税を課す案を発表した。

前回のレポートでは、大豆の輸入制限措置がトランプ政権の急所を捉えていることについて説明した。アメリカは大豆輸出依存度が高い上に、中国向けのウエイトが高い。市況は2012年をピークに下落しており、ここで中国が大豆輸入に追加関税をかければ、アメリカ国内に大量の大豆が逆流し供給過剰となり、価格は下落、アメリカの大豆産業は大きな損害を被る。アメリカの大豆生産の95%以上が中西部の農業生産地域に集中しており、この地域を票田としているトランプ大統領にとって大きな痛手となる。

自動車については、アメリカから中国への輸出量は少ないが、中国国内市場はアメリカ大手自動車会社にとって最大の戦略投資地域となっている。次の追加措置があるとすれば、それはアメリカ自動車産業の中国ビジネスに大きな打撃を与えるものになりかねない。日本の尖閣諸島国有化問題では、反日デモ、不買運動を通じて、日本メーカーが大きな被害を受けた。THAAD配備問題では、韓国メーカーが大きな被害を受けている。輸入制限という形を取らなくとも、本土での事業にダメージを与えるといった方法で、相手国に制裁を課すことができる。

レアアースの輸出制限は脅威

本土の複数のマスコミは10日、アメリカの“The Hill”の分析によればレアアースがアメリカの報復措置の秘密兵器だとするレポートを紹介している。 http://www.jfdaily.com/news/detail?id=85439

アメリカはレアアースについて、100%輸入に頼っており、中国は最大の輸入元である。もし、中国がレアアースのアメリカへの輸出を遮断したとすると、大多数の先進的な武器システムを製造することができなくなるだろうと指摘している。レアアースは武器以外にも、自動車、パソコン、航空機、スマホなどに幅広く使用されており、そうした製品も作ることができなくなると警告している。

この点については、2010年9月、日本が尖閣諸島海域に侵入した漁船をとらえた問題で、中国側は日本向けのレアアース輸出を実質的に制限したことがあった。日本ではレアアースの90%以上を中国に頼っており、日本の産業界は一時的に大混乱に落ちいったことがあった。アメリカにおいても、同じことが起きうるということである。

原油についても、中国はアメリカを揺さぶることができるようだ。国内の複数のマスコミが8日、海外のレポートを伝えるといった形式で同じ情報が拡散されている。

http://news.china.com/socialgd/10000169/20180408/32287179.html

「2017年、中国はアメリカを抜いて、世界で最大の原油輸入国となった。中国の輸入先はロシア、サウジアラビア、アンゴラ、イラク、イラン、オマーンがベスト6で、アメリカからの原油輸入量は全体の2%に過ぎない。しかし、アメリカにとっては、中国向けの輸出量は全体の21%に達しており、カナダに次いで第2位の規模の輸出先となっている。もし、中国が原油輸入に関して追加関税措置を取れば、アメリカの原油需給バランスに大きな影響が出る」と分析している。原油価格が下落すれば、収益力の弱いオイルシェル業者への影響は大きい。石油産業に従事する労働者はトランプ大統領の支持基盤でもあり、中間選挙にも影響が出るだろう。

今の世界は、国を単位に経済を考えるには、国際化、自由化が進みすぎている。各経済主体は利益の最大化だけを考え、国境を意識せずに、それを超えて自由に活動している。米中間では特に関係が密接になりすぎている。金額の問題ではない。経済システムの問題である。米中はすでにちょっとした仲違いもできないほど経済は密接に結びついている。

田代尚機(たしろ・なおき)
TS・チャイナ・リサーチ 代表取締役
大和総研、内藤証券などを経て独立。2008年6月より現職。1994年から2003年にかけて大和総研代表として北京に駐在。以後、現地を知る数少ない中国株アナリスト、中国経済エコノミストとして第一線で活躍。投資助言、有料レポート配信、証券会社、情報配信会社への情報提供などを行う。社団法人日本証券アナリスト協会検定会員。東京工業大学大学院理工学専攻修了。人民元投資入門(2013年、日経BP)、中国株「黄金の10年」(共著、2010年、小学館)など著書多数。One Tap BUY にアメリカ株情報を提供中。
HP:http://china-research.co.jp/