読者の中には、今春、入社した新社会人の皆さんもいるかもしれない。はじめての給料はいかがだったろうか?初任給の給与明細書を見て、「研修ばかりで、まだ会社の業績に貢献しているわけではないのに、これだけもらえるの?」と喜んだ方もいただろうし、「毎朝、眠い目をこすりながら頑張った結果がこれだけ?」とがっかりした方もいるだろう。

おそらく、給与明細書で多くの新社会人が気にするのは、銀行口座に振り込まれる「支給額」の欄。しかし、実際のところ注目すべきは、会社から支給される「総支給額」から差し引かれる「総控除額」とその内訳の内容なのだ。

「基本給」+「諸手当」で構成されている支給額

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(画像=PIXTA)

支給額についての確認から。基本的に支給額は、「基本給」と「諸手当」の2つ。 基本給は、給与の基本となる部分で、ボーナス(賞与)の査定や退職金の計算などの際のベースとなる。

かつての年功序列が重視された頃であれば、各社員の能力にかかわらず毎年、自動的に昇給させるのが一般的だった。最近では、各社員の能力や成果などを重視する傾向が強い。

一方、諸手当には、役職手当、資格手当、家族手当、住宅手当、通勤手当といった、固定的給与と、時間外労働手当、休日労働手当、深夜労働手当などの変動的給与に大別できる。原則として、前者は毎月固定で、各企業の裁量で支給されているもの。後者は勤務状況により毎月変動する可能性があり、労働基準法によって、その支給が定められているものだ。 これら支給額の合計が、いわゆる「額面」と呼ばれる。

法定控除は、「社会保険料」+「税金」の6種類

続いて、控除額について。こちらも「法定控除」と「法定外控除」に分けられる。このうち後者に該当するのは、社宅費や財形貯蓄、従業員持株会の拠出金、労働組合費、社員旅行積立金など。会社によって異なるが、前者を除いたものと考えておけば良い。

ここでは、法定控除について詳しく見てみよう。この控除は、名称の通り、法律上、会社が賃金から差し引くことが定められているもので、以下の6つ(保険料率等は、2018年4月時点)。

(1)健康保険・・・本人や家族が、病気・ケガなどで診療を受ける場合、一定の自己負担分のみで医療等をうけるために支払う保険料。控除額=標準報酬月額×保険料率(協会けんぽの場合、都道府県ごとに異なる。被保険者負担分は約5%)
(2)介護保険・・・一定の要介護状態になった場合、介護サービスを受けるために、40歳以上になると納付する必要のある保険料。控除額=標準報酬月額×保険料率(協会けんぽの場合、全国一律で被保険者負担分は0.785%)

① 厚生年金保険・・・法律で定められた所定の年齢に達した場合、年金の支給を受けるために支払う保険料。控除額=標準報酬月額×保険料率(被保険者負担分は9.15%)
② 雇用保険・・・退職したときなど、再就職するまでの間、ある一定の条件下で給付を受けるために支払う保険料。控除額=額面×保険料率(一般の事業の場合、被保険者負担分は0.3%)
③ 源泉所得税・・・個人の所得に対して課税され、総支給額から社会保険料の合計額を控除した金額をもとに算定する。
④ 住民税・・・個人住民税は、都道府県が徴収する都道府県民税と、市町村が徴収する市町村民税(東京23区は特別区民税)の総称。地方自治体による行政サービスを受けるために負担する。市区町村から通知された額で、基準は前年の所得。

上記の①~④までが社会保険料、⑤⑥が税金である。とくに①~④については、「保険料」を支払っているわけだけだから、新社会人はすでにこれらの「保険」に加入している。

介護保険の保険料が徴収されるのは40歳以上なので、その年齢以下は対象外だが、保険料が全額事業主負担である「労災保険(労働者災害補償保険)*」を加えると、新社会人はすでに4つも保険に加入している。

就職して、「保険くらい入っておかなくちゃ」と民間保険への加入を勧められることもあるだろうが、契約前に、これらの公的保険でどれくらい自分のリスクをカバーできるかを検討しておくことが重要である。

*業務上または通勤上の労働者の病気やケガに対して、労働者やその遺族のために、必要な保険給付を行う制度

新社会人の初任給の手取り額は多い!

また前述の法定控除の控除額で頻繁に出てくる「標準報酬月額」とは、耳慣れない言葉だろう。計算しやすいように、賃金額を一定の幅で区切った表にあてはめたもの。おおむね、額面だと考えておけば良いだろう。

さらに、この説明を読みながら、自身の4月分の給与明細書を見て、「あれ?」と感じた新社会人もいるかもしれない。

実は、初任給から控除されるのは、所得税と雇用保険のみで、厚生年金保険や健康保険の保険料は4月分からは差し引かれない。また、住民税は、前年度の所得に対してかけられるものなので、1年目から2年目の5月の給与からは天引きされないのだ。

要するに、新社会人の初任給の手取りは多いということ。来月以降、手取り額が減って、首をかしげないように。さらに、手取り収入が多い時期に積立等を始めて、貯蓄クセをつけておくことも大切だ。

可処分所得は、収入(額面)から法定控除を差し引いた実質的な「手取り収入」

新社会人が注意すべき点がもう一つある。
支給された給与がすべて自由に使えるわけではないということだ。
前述の法定控除から、額面に対して、社会保険料が約15%、税金で約5%を負担しているとすると、おおむね法定控除だけで約20%が差し引かれている。

収入から社会保険料と税金を差し引いたものを「可処分所得」というが、額面から約2割の法定控除を差し引いた額面×8割が実質的な手取り収入(可処分所得)となる。
みなさんが、これから実際に生活していく上で必要な消費支出は、この金額でまかなわなければならない。

さらに、前述の法定控除の保険料率は、定期的に改正されるが、少子化、超高齢社会の現状を考えると、これらの負担が軽くなるとは考えにくいことは周知の事実だろう。新社会人のみなさんには、今後も何度となく眺めることになるであろう給与明細書の中味を、きちんと理解しておいていただきたいと思う今日この頃である。

黒田尚子
黒田尚子FPオフィス代表 CFP®資格、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、CNJ認定乳がん体験者コーディネーター、消費生活専門相談員資格を保有。立命館大学卒業後、日本総合研究所に入社。1996年FP資格取得後、同社を退社し、1998年FPとして独立。新聞・雑誌・サイト等の執筆、講演、個人向けコンサルティング等を幅広く行う。2009年末に乳がん告知を受け、「がんとお金の本」(Bkc)を上梓。自らの体験から、病気に対する経済的備えの重要性を訴える活動を行うほか、老後・介護・消費者問題にも注力。著書に「がんとわたしノート」(Bkc)、「がんとお金の真実」(セールス手帖社)、「50代からのお金のはなし」(プレジデント社)など。

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