韓国で日本のドラマ「孤独のグルメ」が人気を博している。主人公・井之頭五郎を演じている俳優の松重豊氏が2018年5月8日、韓国ソウル市龍山区を訪れた様子がツイッターやインスタグラムに掲載され、新聞やテレビ局が取り上げた。孤独のグルメ7シーズンのロケで訪れたものだ。

韓国でドラマ「孤独なグルメ」が人気を得た理由は3つある。毎回、舞台となる店が気軽に利用できる普通の店であること、訪日観光客が増えていること、そして韓国でも一人飯が増えていることである。

孤独のグルメとはどんな作品か?

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(画像=asiastock / Shutterstock.com ※写真はソウル広蔵市場の屋台)

ドラマ「孤独のグルメ」は、1994年から1996年まで連載された谷口ジロー氏と久住昌之氏による漫画が原作で、インターネットで話題になったことを受けて2008年から再出版がはじまった。2012年からテレビ東京系で始まったドラマは韓国でも放映され、厚いマニア層を形成している。

韓国独占配給会社「ドラマコリア」はツイッターで韓国ロケを予告。松重氏が韓国語で「アンニョンハシム二カ(こんにちは)」とあいさつをし、シーズン7は海外出張があり、あなたの国に行くかもしれないと韓国での撮影を示唆していた。

第3の日本食ブームが起きている

韓国ではかつて何度も日本食がブームになっている。

日本料理は1988年のソウル五輪の頃から高級食として認知され、2000年代後半には日本酒とあいまって居酒屋がブームとなった。

ただ2011年の東日本大震災に伴う福島第一原発の事故を契機に日本食は放射能を浴びているという風評被害が広がり、日本料理店や居酒屋の経営は厳しくなった。

一方で、日本で人気のドラマ「深夜食堂」が韓国でもドラマ化され、その食堂を模した小規模な居酒屋が広がった。弘大どんぶり、かつや、丸亀製麺などの庶民的な日本食が注目を浴びるようになり、日本式ラーメンや丼物などを提供する店が次々と開業した。従前から、うどんやとんかつは韓国でも身近な料理として市民権を得ていたが、手軽な値段で日本の味を提供する店が増えたのだ。

小規模な居酒屋は、売上規模はさほど大きくはないが、家賃や人件費などの固定費が小さく、日本料理を学んだ料理人が個人でも開業できる。2000年代後半からブームとなった大規模な日本式居酒屋は、江南をはじめとするオフィス街や若者が多く集まる弘大などの繁華街に集中していたが、住宅地でも小規模な居酒屋が目につくようになった。

ホンパブ(一人飯)が増えた時期とドラマ放送が重なった

1人で食事を楽しむ「孤独なグルメ」のテレビ放映は、ホンパブ(一人飯)が本格的に増えた時期と重なっている。1人用メニューを用意し、1人や2人など少人数に対応するカウンター席や2人がけの座席を備える飲食店が増えるようになった時期である。

韓国の飲食店は多くがグループ客を想定している。10人前後の団体が利用できる個室を備え、4人掛けや8人掛けが主流で、2人掛けのテーブルは限られる。家族や職場の同僚など、グループを想定したメニューが多く、店が混雑する昼食や夕食の時間帯には2人以下の個人客を断る店も珍しくない。

1人世帯や2人世帯の増加で、2010年頃から1人でご飯を食べる「一飯族」が目立つようになった。だが若者は一緒に食べる友人や同僚がいない人、年配者は家族がいない寂しい人と見られる風潮があり、1人で食事を摂る人たちは肩身の狭い思いをしていたのだ。

さらにドラマに登場する店はいずれも、豪華なインテリアやミシュランガイドで星を獲得するようなレストランではない。誰でも気軽に利用できる素朴な店ばかりだ。どこにでもいそうな主人公の風ぼうもドラマ人気に一役買っていると見られる。主人公による細かい味の評価は共感を呼び起こしている。

外国人観光客がドラマのロケ店を訪問

日本政府観光局(JNTO)の調査によると、2015年から急増した訪日韓国人の65.2%が日本食を主たる目的のひとつと答えている。ドラマ「孤独のグルメ」で放送された店を探して訪れる訪日外国人客も少なくない。

ロケで訪問したソウルの焼肉店も、どこにでもある普通の店だ。グルメサイトを見てもこれといった特徴はない普通の飲食店だが、孤独のグルメで取り上げられたことがSNSで広がり、週末には2時間を超える行列ができたという。

松重氏と制作フタッフはソウルを訪れた翌日9日に韓国中西部にある全羅北道の全州市で撮影を行なっており、全羅北道庁が公式ツイッターで紹介している。道庁が発信に対するリツイートはほとんどが10件に満たないが、孤独のグルメの場合、リツイート数は900件を超えており、注目の高さがうかがわれる。

日本のテレビ局が取り上げる韓国の飲食店は明洞などの有名店が多い。韓国のテレビでも、日本の人気飲食店が紹介されることが多い。庶民的な店の紹介は、新たな観光資源になる期待がありそうだ。(佐々木和義、韓国在住CFP)