シンカー: 米国景気は現在の拡大サイクルが減税により長期化し、2019年5月には史上最長になると見込まれるが、2019年遅くか2020年初めのリセッション入りの可能性が出てきている。米国のイールドカーブのフラット化に関する議論も活発化しつつある。欧州ではイタリアの政治的な不安定が今後更に目立つようになり、公約の大半は実現が難しくなり、今年末から来年初めにかけ再選挙の可能性も出てくるなど、大きなリスクに直面している。ビッグデータの指数も先進国経済の減速を示唆している。中国では、鉱工業生産の力強い回復にもかかわらず、4月は多数の内需関連指標が減速し、信用状況タイト化が続き、資金調達コストがより幅広く、加速的に増加していることで、実体経済の痛みが表面化し始めている。 一方、最近の景気減速が一過性のものであり、景気過熱懸念は恐らく誇張されているという見方もある。グローバルに金融政策は引き続き慎重なペースで進められるというコンセンサスのようであり、今後の景気先行きは財政政策の方向性で決まる可能性が高いだろう。

最新のSGグローバル・レポートと要約

SG証券・会田氏の分析
(画像=PIXTA)

●米国経済(5/18):今を楽しめ ! ? リセッション入りは2019年遅くか2020年初め

米国景気は現在の拡大サイクルが減税により長期化、2019年5月には史上最長になると見込まれる。ただし弊社は2019年遅くか2020年初めのリセッション入りを懸念しており、現在は見えつつある亀裂に注目しているところだ。

2018年中と2019年の早期は、減税が引続き景気拡大を支える:米国が今後の12カ月以内にリセッション入りする可能性は非常に低い。弊社は、米国景気はトレンドを上回るペースの拡大が続き、2019年春には拡大サイクルが史上最長になると見込んでいる。その後は、企業収益率が基調的に弱くなりリセッション入りの可能性も高くなると、弊社では懸念している。労働市場がタイトなことが企業の収益率に引続き圧力をかけ、それは減税の恩恵が一巡するにつれて明らかになると見込まれる。

イールドカーブのフラット化に注目:イールドカーブのフラット化に関する議論が活発化しつつある。弊社は、逆イールドはリセッションの十分条件ではあるが必要条件ではない、と指摘したい。FRBの追加利上げとフラット化の持続を弊社は見込んでいる。また逆イールドとなりそれが持続すれば、最終的には必ずリセッションを伴う。だが、全てのリセッションの前に逆イールドが発生していた訳ではない。

企業収益率は再び縮小トレンドに:2017年後半は企業の収益率が驚くほど安定していた。弊社はこの原因は、労働コストが安定していたことだとみている。2017年中頃には、生産性の急上昇によって労働コストは安定していた。ただこうした図式は終了するとみられる。労働市場がタイトなことで、2017年末と2018年の初めには単位労働コストが再び上昇し始めている。従業員への報酬も、今後数四半期で緩やかに加速すると見込まれる。

リセッションの引き金:弊社も、リセッションの具体的な引き金(は何になるのか)を聞かれることが多い。本レポートの10ページで、リセッションの引き金となる可能性がある多くの要因について概要を示した。弊社は、企業の収益率が薄くなることで米国経済がショックに左右され易くなる、と分析している。対照的に、利益率が拡大しているか非常に高水準な時には、企業は同じ大きさのショックでも大きな影響を発生させずに吸収できる。リセッションの潜在的な引き金としては、「企業収益率が低水準になること」(その結果、企業が雇用や投資に慎重となる)が重要だと考えられる。

税引前・税引後の利益率が鍵を握る:簡単に言うと、両者が互いに対立することはない(景気サイクル分析は、どちらを使っても似た結果となる)。税引後利益は、消費者、企業の両方にとってポジティブに働く。だが、減税で米国の潜在成長率が変わらなければ、減税効果は最終的には弱くなる。景気サイクル後期で減税(財政面からの景気刺激策)が実施された最も新しい例は、1980年代初めにレーガン減税が議会で承認されその後すぐにリセッション入りした、というケースだ。これは一例に過ぎず現在には直接当てはめられないが、リセッションを回避するという意味で減税が持つ力は限定的であった、とはいえる。

●欧州経済(5/21):不確実性ショック発生の下地が整いつつある

イタリアでは政治的な論争が2カ月以上続いた後、ようやく新政権が成立しようとしている。連立政権の政策プラットフォームには、大規模な(だが非現実的な)財政刺激策(GDP比で約5%)、EU財政ルールの撤廃要求のほか、欧州他国やEU制度とは衝突する数点の政策が含まれている。従来考えられていたよりEUと対立的なスタンスとなる可能性が高くなっており、その場合イタリアの経済、市場の両方にネガティブな結果となる。こうした中、(五つ星運動と同盟の)両党の間には政策面で大きな差異があり議会での過半数も小幅であるため、新政権の公約の大半は実現が難しくなるとみられる。すると政治的な不安定さが目立つようになり、今年末から来年初めにかけ再選挙の可能性も出てくると見込まれる。

●欧州経済(5/16):連立政権成立への交渉…7点の確定・不確定要因

イタリアでは、五つ星運動と同盟で連立政権を組む形が見えつつある。弊社はこうした展開を、3カ月前には最悪のシナリオと考えていた。だが、議会での過半数が小幅であることや、経済問題では両党の見解が分かれていることから、財政面から大規模な刺激策を行う余地は限定的と見込まれる。とはいえ、財政赤字拡大やEU他国と緊張関係になることが予想される。驚くべきことに、市場は今のところ、こうしたニュースを非常に納得して受入れている。投資家は、イタリアはポルトガルと同じ道を進む(新政権が改革を撤回する)と考えているのかも知れない。しかし重要な相違点が複数あるほかに、ムーディーズによるイタリアの格付けは、ジャンク債を少し上回る(だけの)水準でアウトルックも「ネガティブ」となっている。

弊社は格付けの動向に注目している。結果は、双方向的な面が強い(一方に明確に動く)とみられ、「バックスプレッドのプット」などのオプション戦略を正当化している。

●中国経済(5/16):減速が明らかに

中国では、鉱工業生産の力強い回復にもかかわらず、4月は多数の内需関連指標が減速した。信用状況タイト化が続いており、資金調達コストがより幅広く、加速的に増加していることで、実体経済の痛みが表面化し始めている。そのため全般的な政策スタンスが、徐々にではあるが緩和され始めている。最近のPBOCからのシグナルも、そうした方向性を示している。

●外国債券(5/21):幸運を祈る

ショート・ポジションの投資家は最近の金利上昇が励みになるだろう。一方、デュレーション・ロングのポジションは、直近の債券相場下落に直面した後も依然としてリスクを抱え込んだ状態にある。これは米国債市場に該当することだが、それにも増してドイツ国債に強く当てはまることだ。今後数カ月間は主要格付け機関がイタリアに注目してくるため、イタリア国債も下落リスクを抱えた状態が続くだろう。

テクニカル分析は米国10年国債利回りのオーバーシュートを支持している。ユーロ圏では、金利正常化の巨大な余地があるにもかかわらず、欧州中央銀行(ECB)は驚くほど緩和的な政策スタンスを維持している。我々の予想どおり、最近の景気減速が一過性のもので終わるなら、夏場を通じて債券市場の緊張は高まっていく可能性が高い。

イタリア国債は今後3カ月間が正念場で、大きなリスクに直面する。この3カ月中に2019年度予算を策定する必要があり、主要格付け機関がイタリアに注目してくるからだ。幸運を祈る! 向こう数日間、イタリア国債は最近の急落に対するアヤ戻しを交えながら、一進一退の足踏み状態が続くと予想される。

●アセットアロケーション(5/15):先進国市場のニュースフローが重力を受けるなかでドルが上昇

高所恐怖症:今のところ、この症状はまだかなり軽く、若干の目まいと足のふらつきを感じ、念のために何かつかまるものを探している程度である。それを認めるなら、我々は恐らく同じ目まいの感覚を共有している。弊社のグローバル・アセット・アロケーション・リサーチ・チームの何人かのように貴方が身長2メートル近いなら、これはかなり困惑させられる状況である。筆者の場合、不安の原因は、経済ニュースフロー指数が持続不可能な高水準から正常化し始めていることである。これが最近のドル上昇の真の理由だとすれば、市場はリスクオフに転じつつあるのか、というかなり不愉快な問題を回避することはもはや不可能である。

先進国市場のニュースフローは急速に悪化:先進国市場の経済ニュースフロー指数はいずれもまだ50を上回っているが(依然として景気拡大を示唆)、ほとんどはピークを過ぎたとみられ、一部の国々では急速に悪化しつつある。最近調整しているのは主に米国の経済ニュースフローであり、景気過熱懸念は恐らく誇張されているという弊社の見方を裏付けている。成長減速は債券にとって支援材料であり、従って米10年国債利回りが3%を持続的に上回る可能性は低いと弊社はみている。この正常化プロセスは他の先進諸国でも始まっている。

新興市場のニュースフローは(今のところ)重力に抵抗:貿易戦争の脅威と最近のドル高にもかかわらず、主要新興市場諸国の経済ニュースフロー指数はごく最近まで上昇を続けていた(ロシアは主な例外)。この新興市場と先進国市場のデカップリングは弊社がMULTI ASSET PORTFOLIO(MAP)で述べた見解と合致している。一方、新興市場のニュースフロー指数は足元ではやや方向性を欠いている。

ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司