シンカー:1-3月期の軟調な経済データを背景に中央銀行は一時的にハト派敵スタンスを強め、政策の正常化・引き締めペースに一時的なブレーキがかかり、様子見し姿勢を強めている。しかし、引き続き、実質経済は堅調であり、経済・物価動向が政策目標に達する自信も引き続き持っているようだ。マーケットより楽観的な姿勢を背景に、中央銀行の政策正常化・引き上げの動きは今後再開するだろう。ただ、中長期的には政策を緩和的にする必要が出てくるリスクも強まっており、加速しているインフレ率も今後、鈍化するリスクも強まっている。グローバルに景気循環が一巡し、政策を緩和的に戻す必要性が生まれる前にどれだけ、政策の正常化・引き締めができるかにマーケットは注目していくことになるうだろう。
金融政策見通しの変要
FOMCは2018年に後2回の利上げ(6月、9月)へ踏み切るだろう。FRB要人は、インフレ率が目標の2.0%に達する、という自信を強めている。しかし、2019年にはその後はインフレが軟調となり、FRBの動きを抑制するとみている。弊社は、(早ければ)2019年後半のリセッション入りを見込んでおり、その結果FRBによる利上げ回数の弊社見込みも制限されるだろう。
トランプ大統領は比較的タカ派的な3氏を空席のFRB理事のポストに指名する可能性もある。しかし、政策スタンスへの具体化は2018年を通じて時間をかけて進むことになるため、政策への短期的なインパクトは限定的だろう。新任理事は、経済、ひいては政策に対する見解がまとまるまでは議長と同じ立場をとる可能性が高い。トランプ大統領にはFRB理事を再編する機会はあるが、2018年中にFRB理事の打ち出す政策が過度にタカ派的になることは無いだろう。
ECB理事会はインフレ率が 目標に達するという自信を引き続き持っているが、政策引締めには慎重な立場をとっている。注目は2018 年初めのコアインフレ率の動向だろう。6 月(または7 月)の理事会で、今年残りの行程表が示されるだろう。堅調な景気拡大が続いているなか、持続的なインフレ率の加速が確認されず、APP を月間300 億ユーロから一気にゼロへと過度に減額を避けるためにも「資産 買入れが月150 億ユーロ(に縮小された)ペースで2018 年末まで続き、初回利上げが 2019 年6 月に実施される」と見込んでいる。その後の2019年6月と9月に利上げが実施されると見込んでいる。だがその後は米国景気の減速で追加利上げは遅れるだろう。
日銀は引き続き、デフレ完全脱却の動きを確かにするため、海外金利が上昇する中、国債買いオペを増額してでも、長期金利を誘導目標である0%に辛抱強く誘導し続けるだろう。持続的な物価上昇が可能な環境が整ったことを確認後、早くても2019年中頃ににかけて長期金利の誘導目標が引き上げられるだろう。
5 月の決定会合では政策の現状維持を決定した。しかし、インフレレポートでは引き続きBOEの政策委員のほとんどは引き続きタカ派的なスタンスを持っていることも確認された。BOEは8月に利上げに踏み切れるだろうが、今後の経済・物価統計次第では11月に後ずれする可能性もあるだろう。また、2019年にはもう一回利上げに踏み切るだろう。
米国(Fed)
FFレート(予想:2018年はあと2回の利上げを予想):
FOMCは3月の政策会合で利上げに踏み切った。SGの予想は2018年に3回の利上げを実施し、FFレートの誘導目標は2.00%-2.25%になると予想し、後2回の利上げが実施されるだろう(6月、9月)。5月のFOMCではFOMC声明ではインフレや成長率に関する文言が見込み通り変更され、前者には、インフレリスクを重視していないと示すことが目的とみられるものもあった。実際、市場参加者は最近になりインフレ加速を懸念しているが、FRBは(インフレ加速リスクに)楽観的となっている。現時点ではリスクは「利上げ回数が4回になる」の方に傾いている
FRB要人は、インフレ率が目標の2.0%に達する、という自信を強めている。しかし、2019年にはインフレが軟調となり、FRBの動きを抑制するとみている。弊社は、(早ければ)2019年後半のリセッション入りを見込んでおり、その結果FRBによる利上げ回数の弊社見込みも制限されるだろう。
FOMCメンバー(予想:2018年はタカ派色が強まるが、過度にタカ派になることは無いだろう):
マービン・グッドフレンド氏(カーネギーメロン大教授)がFRB理事に指名されたが、上院の承認が滞っており結果は不確実だ。直近では、リチャード・クラリダ氏(コロンビア大教授、ピムコのアドバイザー)が副総裁に指名された。
FOMCのメンバー構成は、2018年にはタカ派色が強まる。非常にハト派だった地区連銀総裁(シカゴ連銀エバンス総裁、ミネアポリス連銀カシュカリ総裁)が、よりタカ派的な地区連銀総裁(クリーブランド連銀メスター総裁、リッチモンド連銀バーキン総裁)に交代するだろう。昨年末にリッチモンド連銀総裁に任命されたバーキン氏はまだ政策に関する演説を行っていなく、政策スタンスが明確でない。学者出身のエコノミストでない同氏は、少なくとも当初は、伝統的にタカ派的なリッチモンド連銀スタッフの見方に強く左右されタカ派的なスタンスをとる可能性がある。
また、ニューヨーク連銀のダドリー総裁は6月に退任する。ダドリー氏はイエレン議長、フィッシャー・前副議長とともに、FOMCの意思決定の中心だったことから、この3人の退任は非常に重要だろう。後任にはサンフランシスコ連銀のウィリアムズ総裁が任命された。同氏の今までの発言から推測すると、FOMCでは中立的または若干タカ派的なスタンスを取る可能性が高いだろう。Fedのエコノミスト出身である同氏はFOMCの常任委員になることで、今後の利上げ局面で大きな役割を果たす可能性がある。注目は今後のFOMCの政策金利が見通し通り引き上げられると、同氏が提唱してきた実質均衡金利モデルが示す水準を大幅に上回り金融政策の大幅な引き締めを意味することをどう説明するかだろう。
トランプ大統領は比較的タカ派的な3氏を空席のFRB理事のポストに指名する可能性もある。しかし、政策スタンスへの具体化は2018年を通じて時間をかけて進むことになるため、政策への短期的なインパクトは限定的だろう。新任理事は、経済、ひいては政策に対する見解がまとまるまでは議長と同じ立場をとる可能性が高い。トランプ大統領にはFRB理事を再編する機会はあるが、2018年中にFRB理事の打ち出す政策が過度にタカ派的になることは無いだろう。
FEDバランスシート縮小(予想:マーケットへの影響が限定的な縮小を継続):
FRBの米国債ポートフォリオは、2017年10月から(2年物と5年物国債を中心に)縮小し始めた。月々の縮小額上限をFRBは発表しているが、10月は(米国債に関しては)60億ドルで始まった。FRBガイダンスが数カ月間慎重に進められた後、市場はFRBの資産縮小をそれほど懸念していない。直近では、債券利回りが上昇した際に、ポートフォリオ縮小に言及された。これは、債券利回り上昇の理由を探す自然な動きかも知れない。それに加え、欧州や日本で出口戦略が見込まれることが、世界の中央銀行が市場から手を引きつつあるという懸念と組み合わさった可能性もある。
ユーロ圏(ECB)
金融緩和政策(予想:2018年中の量的緩和終了を目指す):
ドラギ総裁は4 月のECB 理事会後の記者会見で過度にタカ派的、または ハト派的のどちらにもならないようにバランスを取り、現在は実体経済の状況と、最近モメンタムが減速した理由を評価・ 検討することが重要だと述べた。理事会は、インフレ率がECB 目標に達するという自信を引き続き持っているが、政策引締めには慎重な立場をとっている。注目は2018 年初めのコアインフレ率の動向だろう。6 月(または7 月)の理事会で、今年残りの行程表が示されることが望まれる。堅調な景気拡大が続いているなか、持続的なインフレ率の加速が確認されず、APP を月間300 億ユーロから一気にゼロへと過度に減額を避けるためにも「資産 買入れが月150 億ユーロ(に縮小された)ペースで2018 年末まで続き、初回利上げが 2019 年6 月に実施される」と見込んでいる。
政策金利利上げ(予想:2019年中に2回の利上げを実施):
ECBはフォワードガイダンスを調整し始め、金利ガイダンスと最新の経済指標にますます注目するようになっている。量的緩和が短期間ながら再び延長され、その後の2019年6月と9月に利上げが実施されると見込んでいる。さらにその後は、米国のリセッション入りによって追加利上げは不可能になるだろう。
2019年6月と9月の2回にわたり、第1次の利上げが実施されると見込んでいる。だが米国景気の減速で追加利上げは遅れるとみられる。これは、今年、来年とユーロ圏のGDP成長率が潜在成長率を上回る中で実現、GDPギャップがプラス(インフレギャップ)となる結果になるだろう。2020年後半に利上げサイクルが再開するにつれて、中銀預金金利、主要リファイナンシング・オペ金利、貸出金利のコリダーは、最低の50bpに戻ると弊社は見込んでいる。弊社が想定している2019年後半の米国リセッション入りの後、ECBが小幅利下げを実施するとみられる。2020年3月には預金金利がマイナス0.15%になると見込まれる。
日本(日銀)
誘導目標(予想:2019年中頃に長期金利の誘導目標を引き上げがメインシナリオ):
2%の物価目標にはまだ距離があり、デフレ完全脱却の動きを確かにするため、海外金利が上昇する中、国債買いオペを増額してでも、長期金利を誘導目標である0%に辛抱強く誘導し続けるだろう。しかし、堅調な国内ファンタルスを背景に物価目標の達成前に、日銀は長期金利の誘導目標引き上げに動くだろう。長期金利の誘導目標引上げの必要条件は、展望レポートの経済・物価のリスクバランスの中立化に加え、コアコアCPIの前年比が1%を超え、円安の動きが再開することであると考える。これらの条件が満たされ、長期金利の誘導目標が引き上げられるのは、早くて2019年中頃と予想する。日銀が誘導目標を引き上げても、上昇していく長期金利のフェアバリューとのスプレッドは拡大し、緩和効果は継続していると説明するだろう
2019年中に長期金利の誘導目標を引き上げることができる確率はまだメインシナリオだが、50%程度へ低下したと考える。政府は、2020年までの3年間を「生産性革命・集中投資期間」として「大胆な税制、予算、規制改革などあらゆる施策を総動員する」方針である。2019年10月の消費税率引き上げの環境を整えるため、その実施の前から景気拡大を強くする必要があり、補正予算を含む景気対策を実施する可能性がある。政府の財政政策の緩和のコミットメントがかなり強ければ、2019年度と2020年度の日銀の物価予想がかなり強くならない限り、日銀も共同歩調をとるため、長期金利の誘導目標の引き上げを先送りする可能性が出てくることになるかもしれない。その場合、消費税率引き上げによる景気底割れが回避されたことが確認できる2020年度中頃まで先送りされることになるだろう。
マイナス金利政策(予想:2%の物価上昇を達成する2021年に解除):
日銀は長期金利の誘導目標を徐々に引上げ、長期国債の買入額は減少していく。日銀は2%の物価上昇を確認した後に、マイナス金利政策の解除に動くと考える。
中国(PBOC)
銀行間金利(予想:政策実行のために、流動性供給を通じた安定したコリダー内で維持):
金融システミック・リスクの回避が、PBoCの優先事項の1つだろう。このためには、銀行の流動性状況(確保)を安定させる必要がある。同時に、金融レバレッジの大幅な拡大を抑制するという政策目的も、銀行の資金調達コストを低水準とする論拠になる。このため、PBoCは計算された流動性供給を通じて、銀行間金利を安定したコリダー内に維持すると弊社は見込んでいる。
中国では、鉱工業生産の力強い回復にもかかわらず、4月は多数の内需関連指標が減速した。信用状況タイト化が続いており、資金調達コストがより幅広く、加速的に増加していることで、実体経済の痛みが表面化し始めている。PBoCも緩和策(預金準備率と金利の一方または両方の引下げ)が必要になろう。なお弊社は、基準預金/貸出金利が引上げまたは引下げられる可能性は非常に低いとみている。預金金利、貸出金利とも正式に自由化されているためだ。
近年の中国の銀行や銀行以外の金融機関は、短期的なホールセール資金調達を行い、資本クッションをほとんど持たない中で、シャドーバンキング貸出しに積極的だった。その結果、金融システム全体が流動性リスクにますます左右されるようになった。現在の政策担当者は、デレバレッジをやり抜く覚悟ができており、副首相が主任として率いる金融安定発展委員会が、マクロプルーデンシャルな政策や金融規制を使いキャンペーンをリードしていく。こうした規制強化の影響は債券利回りや短期市場金利の上昇、小規模銀行でのシャドーバンキング資産縮小という形で、既に明らかになっている。債券市場、理財商品ビジネス、小規模銀行ではこうした痛みは続き、実体経済のモメンタムへの影響はこれからだが、その大きさは不確実だ。実体経済のダメージを限定するには、実体経済の安定的な資金調達確保や、システミックな流動性危機を回避するための、政策担当者の努力が重要になるだろう。
英国(BOE)
政策金利(予想:経済・物価統計次第で8月か11月に利上げ):
2 月発表のインフレレポートでBOE の金融政策委員会は今年中に金融引き締めを進める意向を繰り返し確認し、3 月のMPC ではマカファティ、サンダースの両委員が、政策金利を25bp 引上げて0.75%とすることに票を投じていた。しかし、3 月の天候不順の影響などで1-3 月期の英国経済成長率は前期比0.1%とマーケットやBOE の予想を大幅に下回った。GDP 統計の結果を受け、カーニー総裁からよりハト派的な発言が聞こえ始め、5 月の決定会合では政策の現状維持を決定した。しかし、5 月のインフレレポートでは引き続きBOEの政策委員のほとんどはタカ派的なスタンスを持っていることも確認された。BOEは8月に利上げに踏み切れるだろうが、今後の経済・物価統計次第では11月に後ずれする可能性もあるだろう。また、2019年にはもう一回利上げに踏み切るだろう。
しかし、今後の引き締めプロセスを2 つの要因が中断することになるだろうという見方も変えない。それは、①ブレグジットにより企業の景況感や消費者信頼感が大きく揺らぐこと、②弊社が見込む2019 年遅くの米国リセッション入りだ。①に関して、英国政府はEU27 カ国の要求に従うことを引き続き準備しており、リスクが少し低下していることは確かだ。だがブレグジットの条件に対して議会が反乱する可能性も残るため、非常に大きくリスクが低下することも考えづらい。このため弊社は、2018 年と2019 年に一回ずつ追加利上げが実施されると予測する。その後は上述した2 点の要因にMPC も耐え切れずに追加引締めをあきらめ、2019 年後半には25bp 利下げを行うと見込んでいる。
ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司