5月21日、日経平均は2月2日以来の2万3000円台を回復した。2月2日といえば、同日発表された米1月の雇用統計で賃金上昇率が市場予想を大幅に上回ったことからインフレ懸念が高まり、NYダウが665ドル安と急落した日だ。さらに、2月上旬の米国市場では投資家の不安心理を示すVIX指数が急上昇し、それがさらなる株安を招くという「VIX ショック」に見舞われ、日経平均も急落した。

その後、NYダウや日経平均はいったん反発したが、3月に入ると米中貿易戦争リスクが浮上したことを背景に再び反落した。そして、日経平均は2万4124円の年初来高値を付けた1月23日のちょうど2カ月後の3月23日、2万617円の年初来安値を付けた。しかし、その後の日経平均は徐々に値を戻し、大型連休に入る直前の4月27日には、1月23日の年初来高値から3月23日の年初来安値までの「半値戻し」を達成した。「半値戻しは全値戻し」という相場の格言によれば、日経平均は大型連休前の時点で1月高値の回復が視野入りしたことになる。

ただし、個人的には大型連休中の米国市場の動向に一抹の不安を感じていた。4月下旬の米国市場では10年国債利回りが一時3.03%と2014年1月以来の水準まで上昇しており、米雇用統計発表を前にした金利上昇が1月末~2月上旬の状況と似ていたからだ。しかし、5月4日に発表された米4月の雇用統計では賃金上昇率が落ち着いていたことから、同日の米10年国債利回りは一時2.91%まで下落し、NYダウは332ドル高と急伸した。さらに、その後発表された米4月の卸売物価や消費者物価が警戒されたほど上昇しなかったことも安心材料となったことから、NYダウは5月3日から14日まで8日続伸して3月以降の戻り高値を更新し、連休前に感じた個人的な不安も杞憂に終わった。

今回の米金利上昇は「良い金利上昇」の可能性

日本株,見通し
(画像=PIXTA)

米国では4月のインフレ率(賃金上昇率・消費者物価・卸売物価)が落ち着いていた一方、4月の小売売上や鉱工業生産は好調に増加し、5月のニューヨーク連銀及びフィラデルフィア連銀製造業景況指数はいずれも予想外に大幅に上昇した。一方、米10年国債利回りは5月中旬以降再び上昇し、17日には一時3.12%まで上昇したが、今回の金利上昇がインフレ懸念による「悪い金利上昇」ではなく、景気回復期待による「良い金利上昇」なら、2月のような株安につながる可能性は低いはずだ。

実際に、バンクオブアメリカ・メリルリンチが発表した5月の機関投資家調査(5月4~10日実施)によると、投資家の76%が株式相場はまだピークを付けていないと回答し、その大半が「来年または来年以降」まで株高が続くと予想している。NY原油先物価格が1バレル70ドルを超え始めたことから、今後インフレ懸念が再び高まる可能性には注意が必要だが、米国企業の業績に対する安心感が大きいこともあり、目先の米国株は堅調な展開が続くと想定する。ただし、トランプ大統領が6月12日にシンガポールで予定していた米朝首脳会談を中止する考えを表明したことに加えて、安全保障を理由に自動車の輸入関税引き上げを検討するように指示したことから、米中貿易摩擦懸念や北朝鮮リスクが再燃する可能性には注意が必要だ。

東京市場では海外投資家の買い戻しが続く可能性も

東京証券取引所と大阪取引所が発表した5月第3週(5月14~18日)の投資部門別株式売買動向によると、海外投資家は現物を2週連続で売り越したが、先物は7週連続で買い越した。

海外投資家は1~3月に先物を約6兆円売り越したが、4月第1週~5月第3週で約2兆3000億円弱買い越したに過ぎず、買い戻し余地は引き続き大きい。為替相場で円安基調が強まっていることもあり、海外投資家による先物の買い戻しが続けば日経平均の2万3000円は通過点となろう。

日本の景気や企業業績の不透明感が続く可能性に要注意

5月中旬に発表された日本の1〜3月期の実質GDP(国内総生産)は前期比年率0.6%減と市場予想の0.1%減を下回り、9四半期ぶりのマイナスとなった。また、昨年10〜12月期の成長率は1.6%増から0.6%増に下方修正された。

日本経済の先行きについて大和総研では、マイナス成長が続くとの見方は悲観的過ぎるが、踊り場局面に入る公算が大きいとレポートしている。また、日本経済新聞社の集計によると、5月中旬までに出揃った上場企業の2018年3月期決算で金融を除く1566社の経常利益は16.9%増と2桁の増益となったが、2019年3月期予想の経常利益は1.0%増にとどまっている。一方、同新聞社のまとめによると2019年3月期の業績予想の前提となる為替レートを開示した188社の平均想定レートは1ドル=106円強であり、今後の為替相場次第で2019年3月期の業績予想は上方修正される可能性もある。しかし、日本の景気や企業業績の先行き不透明感が続けば、日経平均の2万3000円は折り返し点となる可能性もあろう。

野間口毅(のまぐち・つよし)
1988年東京大学大学院工学系研究科修了後、大和証券に入社。アナリスト業務を5年間経験した後、株式ストラテジストに転向。大和総研などを経て現在は大和証券投資情報部に所属。日本証券アナリスト協会検定会員。米国CFA協会認定証券アナリスト。