足元の求人市場は、バブル期を超える売り手市場となっている。中小企業の中には、新規採用で苦戦している経営者も多いかもしれない。そうした場合、重要になるのは既存社員のリテンション(引き留め)だ。活気と魅力ある職場作りのためにも、働き方改革を進めよう。

働き方改革の柱はこの2つ

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(写真=Arthimedes/Shutterstock.com)

働き方改革の柱となるトピックは、以下の2つだ。

1.長時間労働の是正、ワークライフバランスの見直し
日本国内で巻き起こっている働き方改革に関する理論で、まずやり玉に挙がっているのが長時間労働の是正だ。無理な長期間労働は身体的な病気だけでなく、鬱などメンタル面でも健康を損なう可能性がある。また、長時間労働によってワークライフバランスが確保できないと、晩婚化・非婚化につながり、既婚者でも子育てにコミットできず少子化にもつながる。

現代日本をむしばむさまざまな社会問題は、長時間労働を是とする文化が根本にあるといっても過言ではないだろう。2017年に公営財団法人日本生産制本部の行った調査によると、就職活動に際し会社を選ぶ基準のTOP3は下記の通りだ。

・1位 自分が働きたい業界・業種:56.7%(前年比-5.4ポイント)
・2位 通勤に便利など立地条件:30.1%(前年比+3.5ポイント)
・3位 会社・上司の雰囲気がよい:29%(前年比-3.8ポイント)

2016年度の結果と比較すると、1位と3位の割合は低下した。一方、2位の通勤における立地条件を理由とする回答は増加となる。また、新しい選択肢の「残業がない・少ない」で、条件重視の傾向が現れている。ワークライフバランスの確保は、喫緊の課題だ。

2.多様性の推進(女性や高齢者の活用)
少子高齢化で労働人口が少なくなる中、女性やシニア層など、既存の職場では少数派だった人々にも目を向け、多様化(ダイバーシティー化)を進めていく必要がある。職場のダイバーシティー化を推進するには、あらゆる人が働きやすくする必要がある。前項に挙げた長時間労働の是正やワークライフバランスの見直しに加えて、キャリアパスを複線化し、ライフステージに合ったキャリア設計が柔軟にできるようにしよう。

例えば、IT大手サイボウズ株式会社は「100人いれば、100通りの働き方」を掲げている。副業(複業)の解禁、週3日勤務や時短勤務などの複数の勤務形態を用意するといった方策で人材の多様化を図っているのだ。柔軟な働き方ができれば、実力やキャリアがありながら結婚・出産を機にやむなく退職していた女性や定年退職したシニアなど、あらゆるフィールドから人材を選ぶことが可能になる。職場にさまざまな人が集うことで、新たなアイディアの泉ともなるだろう。

働き方改革を進めるうえで忘れてはならないこと

働き方改革でとられるこうした施策は、「少数派を優遇する」ものであってはならない。例えば、ダイバーシティー化を進めるからといって、時短勤務の子育て社員を多く採用し、足りない労働時間のしわ寄せは他の社員が負担するとなったらどうだろう。職場の雰囲気が悪くなるばかりではなく、後方支援をする社員も含めた全体の生産性が低下するだろう。そうした事態は避けなくてはならない。

そのために大切なのは、業務内容や仕事の仕組みからすべてを見直して、ある特定の社員だけでなくすべての社員が負担を強いられる必要がない職場を作ることだ。こうした抜本的な改革には、上層部の理解と強い意思が必要になる。意思決定者がはっきりしていて、組織の小回りが利く中小企業のほうが取り組みやすいともいえるだろう。

働き方改革は、人材獲得にもプラスに

働きやすい職場作りは、既存社員のリテンションだけでなく、新規採用に向けたブランディングにもつながるだろう。先の生産制本部による調査でも明らかになっている通り、売り手市場の中で、ワークライフバランスを維持できる職場への人気が高まっている。また、価値観が多様化する中で、世間の評価や知名度よりも、自らの望むライフスタイルを優先させたいという優秀層も増えているのだ。

大手企業に比べて知名度が劣る中小企業でも、働き方改革に真剣に取り組んでいることをアピールすれば、人材獲得にプラスになるだろう。(提供:百計オンライン


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